"名刺一枚の逆転縁談" 第2話
「何が違うんだ?」
「このを紹介してくれたのは、まなみのお父さんだよ」
空気が、わずかに揺れた。
優馬さんの父親は、初めて戸惑った表を浮かべた。
「このを? 優馬が見つけたんじゃないのか?」
「違う。俺とまなみで顔わせに使えそうなおを探していたんだけど、なかなかいいところが見つからなくて。それで悩んでいたら、まなみのお父さんがここはどうかって紹介してくれたんだ」
優馬さんは、私の父を見た。
「最初に予約しようとしたは無理だと言われた。でも、まなみのお父さんの名をしたら、すぐに予約を受けてもらえた。からったけど、ここは見さんお断りで名ならしいよ」
優馬さんの父親の喉が、さく鳴った。
「ということは、藤井さん、あなたはここを何度も利用しているということですか?」
父は穏やかに頷いた。
「ええ。田舎に移してからはがのいていましたが、以は毎のように利用させていただいていました。雰囲気もいいですし、個はしっかりとプライベートが保たれるので、事な取引先との事にはぴったりでして」
「取引先?」
優馬さんの父親は、半ば笑うように聞き返した。
「スーパーで働いているんでしょう? そんな方の取引先とは何ですかな。卸売りか、関係者ですか?」
父はそこで、胸ポケットにを入れた。
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「そういえば、まだ名刺をお渡ししていませんでしたな。遅れてしまって申し訳ありません」
父は静かに名刺を取りし、両で差しした。
その名刺を受け取った瞬、優馬さんの父親の顔が変わった。
「え……」
指先が震え、名刺の端がさく揺れた。
優馬さんの母親が、嫌そうに覗き込む。
「何をそんなに驚いているの? スーパーの員ごときの名刺で」
そして次の瞬、母親の顔から血の気が引いた。
「株式会社フジマーケット……代表取締役会……?」
彼女の声は、かすれていた。
「フジマーケットって、あの全国展しているスーパーよね? 郊に型ショッピングモールも展している……」
父は涼しい顔で微笑んだ。
「ああ、当社のスーパーをごじでしたか」
その瞬、の空気は完全に凍りついた。
私、藤井まなみは27歳。美容師として働いている。
美容師を目指したきっかけは、学の頃にさかのぼる。
姉は当、いロングヘアだった。母は朝になると、姉の髪を丁寧に結ってあげていた。編み込みにしたり、リボンをつけたり、つ編みにしたり。洗面所の鏡ので、母の指が髪のを器用にくのを、私はいつも横からじっと見ていた。
「ねえ、私も」
私が母のの裾を引くと、母は笑って振り返った。
「お姉ちゃんのが終わったら、まなみにもするわね。ちょっといから、結ぶだけになっちゃうけど」
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「うん。そうじゃなくて、私もお姉ちゃんの髪の毛を結ってみたい」
母はし驚いた顔をした。
「え? ああ、そっち?」
「うん」
母は姉の髪を持ちげ、私に見えるようにゆっくり指をかしてくれた。
「じゃあ教えるから見ててね。ここをこうして、今度はこっちを編んで……そうそう、よ。まなみは先が器用ね」
私はさなで姉の髪を必に編んだ。何度も指がもつれて、髪がほどけそうになった。けれど母はらず、横で根気よく教えてくれた。
ようやく形になった、姉は鏡を見てぱっと笑った。
「わあ、い。ママ、まなちゃん、ありがとう」
その笑顔が、私には忘れられなかった。
誰かの髪に触れて、誰かを笑顔にできる。
それがただ嬉しかった。
を卒業した、私は美容学に通い、美容師になった。仕事は楽しいことばかりではない。忙しすぎて休憩が取れず、まともに昼をべられないもある。お客様と仕がりのイメージがずれてしまい、何度も話しいながら調することもある。
それでも、お客様が鏡を見て笑ってくれた瞬、私はいつもう。
この仕事を選んでよかった。
そんな私が、仕事で疲れたに自分にを入れるためにくがあった。
隠れダイニング「咲」。
美しい料理とワインが気軽に楽しめる、こぢんまりとしただ。カウンター席があり、照は柔らかく、忙しい仕事終わりでもふっと肩の力が抜けるような空だった。
そしてもう1つ、私がそのに通う理由があった。