"名刺一枚の逆転縁談" 第1話
結婚の挨拶を兼ねた両顔わせの、私は座敷の畳ので、膝ののをぎゅっと握りしめていた。
宅の奥にひっそりと佇む、隠れのような料亭だった。個の窓の向こうには入れのき届いた庭園が広がり、季節の緑が静かに揺れている。の喧騒が嘘のようにく、部のには品な汁のりと、張りつめた空気だけが流れていた。
私の両親は、正面に座っていた。父はいつも通り穏やかな表を浮かべ、母も柔らかく微笑んでいる。けれど私は、その父の目がしも笑っていないことに気づいていた。
向かい側には、婚約者である桜庭優馬さんと、その両親が座っていた。優馬さんの父親は輸入品会社を経営している社で、母親は港区のタワーマンションにむことを誇りにしているようなだった。
そして今、その父親は、私の父の仕事をった途端、元を歪めて笑っていた。
「父親はスーパー勤めですって? これではっきりしましたな」
優馬さんの父親は、湯呑みにを添えたまま、まるで品定めするように私たち族を見回した。
「お宅のお嬢さんとうちの息子では、全く話にならない。柄がこうも違うと釣りいませんからな。この結婚はなかったことにしていただきたい」
瞬、部のの音が消えた気がした。
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庭の々がで揺れる音すらのき、の奥で自分の臓の音だけがきく響いた。
「そもそも、私たちは最初から反対だったんです。どこの馬の骨とも分からない娘と結婚するなんて、ありえませんからな」
優馬さんの母親も、扇子のように指を元へ当て、品ぶった笑みを浮かべた。
「ええ。だから私、事にお嬢さんにお話ししたんですよ。うちの息子とは釣りわないから別れてちょうだいって。それなのに往際が悪いこと」
私は唇を噛んだ。
父の仕事を聞いただけで、ここまで見されるなんてっていなかった。
「きっと玉の輿にでも乗ろうという魂胆なのでしょう? ゆくゆくは実の面倒も見てくれと言いすに違いないわ。でも、そうはいきませんよ」
母親は私をちらりと見て、く笑った。
「優馬には、もっとちゃんとした柄の婚約者を探します。ということで、貧乏な田舎者を連れて、とっととお帰りいただけますか?」
父は黙っていた。
隣で母も、笑顔を崩さなかった。
けれど私は、父の眉がほんのしだけいたのを見た。子どもの頃から何度も見てきた表だった。父は本当にっているほど、声を荒げない。
「ここのお代なら気にしなくていいですよ」
優馬さんの父親は、さらに追い打ちをかけるように笑った。
「どうせそちらは払う気なんかないんでしょう? スーパー勤めでは、こんな料亭の代など払えないでしょうしね」
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彼の両親は、声をそろえるように笑った。
私は胸の奥がくなった。
確かに、私は今、結婚の挨拶のために落ち着いたを選んで来た。髪もいつものインナーカラーが目ちすぎないようにえた。それでも彼らにとって私は、最初から見す対象だったのだろう。
私のことをらない。
私の両親のこともらない。
それなのに、見た目と肩きだけで、勝にを決めつけている。
その、黙っていた父がゆっくりとをいた。
「いえ、せっかく久しぶりにこちらに来たのです。事は楽しませてもらいますよ」
優馬さんの父親は、で笑った。
「そうですか。田舎にはこんな級ななんかないでしょうからな。仕方ない。では、ご馳しますので、さっさとべて々にお引き取り願いますかな」
父は微笑んだまま、静かに答えた。
「まあまあ、そんなことは言わず、ゆっくりわいましょう。このは旬の材のを損なわずに提供してくれることで名なんですよ」
「なぜ、あなたがそんなことをっているんです?」
優馬さんの父親の目が、しだけ細くなった。
「ああ、きっとネットで調べたんですな。なるほど。そうとなれば、ゆっくりわいたいとうのも当然でしょう。そちらがこんなに来ることなど、もう2度とないでしょうから」
その言葉に、今まで黙っていた優馬さんがをいた。
「違うよ、父さん」