"20年目のマネキン" 第7話
通い慣れた事務所だったが、具がなくなった部は妙に広く、見らぬ所のように見えた。
田は受付エリアから作業を始めた。
かつてモデル志望の若い女性たちが座っていたソファは、もう運びされていた。壁に飾られていた写真もされ、釘の跡だけが残っていた。
廊をみ、スタジオを確認する。控を確認する。オフィスを確認する。
夕方くになって、田は廊の突き当たりにある具へ入った。
窓のない、棚と箱でいっぱいだったあの部だ。
部ののくはすでに撤されていた。残っているのは、隅に置かれた数体のマネキンだけだった。
の保護カバーをかけられ、埃をかぶっている。
田は、それらも梱包する必があるのか、それとも廃棄扱いでよいのか確認しようとった。
まず1体目のカバーをした。
それは、の展示に使われる標準なプラスチック製の女性マネキンだった。軽く、く、特に変わったところはない。
2体目は男性用のマネキンだった。
これも普通だった。
3体目は、部の奥の隅、ほとんど壁に接するようにっていた。
それだけがの保護カバーではなく、古いベルベットの毛布のようなものをかけられていた。は濃い赤。いで褪せ、埃に覆われていた。
田は眉をひそめた。
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「こんなの、あったかな」
さく呟きながらづき、カバーを引こうとした。
けれど、何かに引っかかっている。
田はし力を入れて引いた。
毛布がずるりと滑り落ちた。
その瞬、田は凍りついた。
背筋に氷のようなたさがった。
現れたものは、完全に普通のマネキンではなかった。
全の女性の形。さは約175cm。表面はラテックスかシリコンのようなもので覆われているようだった。だが、その表面は均で、いくつかの所にひび割れや剥がれがあった。
顔は壁の方を向いていた。
腕は自然な位置で体に沿って垂れ、わずかに曲がっている。もどこかく、作り物としては奇妙なさをじさせた。
田は顔を見るため、恐る恐る形の周りを歩いた。
その、肩の部分に目が止まった。
ラテックスのようなコーティングが剥がれ、約5cmほどの隙ができていた。
そのに見えたものは、プラスチックではなかった。
暗く乾いた、古い皮膚のようなものだった。
田は息を止めてを乗りした。
さな毛穴のようなものが見える。自然な皮膚に似た細かい線もある。物には見えなかった。
彼は震える指で、剥がれた素材の端に触れた。
しだけ引く。
ラテックスはのものに接着されているようで、簡単には剥がれなかった。けれど力を入れると、のひらほどのきさの部分がめくれた。
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そのに現れたものを見た瞬、田の胃が恐怖で縮みがった。
それは乾燥したの皮膚だった。
は濃い茶に変わっていたが、形や質はらかに作り物ではなかった。
田はずさりし、元の箱につまずいてに倒れ込んだ。数秒、そので荒い息をついた。線は部の隅につ“マネキン”かられなかった。
やがて、彼は携帯話を取りした。
指が震えて、うまく番号を押せなかった。
それでも何とか110番に話した。
警察は12分に到着した。
最初にくの署からパトロール警官が来た。続いて、殺事件を扱う刑事たち、そして鑑識の専たちが材を持って現れた。
具は封鎖された。
鑑識は部の全景を撮し、マネキンの位置、周囲の箱、の埃の状態まで記録した。
その、専たちは慎にラテックスのコーティングを層ごとに剥がし始めた。
作業には何もかかった。
ラテックスは複数の層で塗られており、それぞれが処理され、乾燥され、約2cmのさの透な殻を作っていた。そのには、よりい物質があった。にエポキシ脂と特定される保護層だった。
そして、その全てのにあったのは、ミイラ化したの遺体だった。
遺体はった姿勢で固定されていた。腕はへ垂れ、は膝の部分でわずかに曲がり、はに傾いていた。
分はほとんど失われ、皮膚は乾燥して黒ずみ、部組織は縮んでいた。
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