"8年目の松林" 第1話
昭57、岡県美作方のさな農に、1の若い女性教師が赴任してきた。
松本美子、26歳。
教育学を卒業したばかりの彼女は、臨教員としてこのの学に配属された。阪で育った美子にとって、に囲まれ、田畑が広がり、夕方になるとの声より虫の声のほうがきく聞こえるこのは、何もかもが見慣れない所だった。
初めてに着いた、美子はさな革の鞄を両で持ち、のでを止めた。古い造舎の窓はに照らされ、運では子どもたちがだらけになってり回っていた。
「先、しい先?」
1の児童がづいてきて、まっすぐな目でそう尋ねた。
美子はし驚いたあと、膝を折って目線をわせた。
「そうよ。松本美子です。よろしくね」
子どもは笑った。
その笑顔を見た、美子は胸のにあったがしだけれていくのをじた。
学は全徒120名ほどのさな田舎の学だった。美子は51組の担任を任された。徒は32名。ほとんどが農業を営む両親を持つ子どもたちだった。
教の窓からは、季節によってを変える田んぼが見えた。になると稲刈りの終わった田にい鳥がり、がづくと朝の空気は段とたくなった。
美子は真面目な教師だった。
毎朝7には学に来て、教の窓をけ、机をえ、黒板を丁寧に拭いた。
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子どもたちが登してくる頃には、教にはしいチョークの匂いと朝のが満ちていた。
「おはようございます」
児童たちが次々に教へ入ってくると、美子は1ずつ顔を見て挨拶を返した。宿題を忘れた子がいれば、ごなしに叱るのではなく、放課まで緒に残って見てあげた。
「ここはね、こう考えると分かりやすいの」
美子が鉛でノートの端に図をいて説すると、子どもはしずつ顔をるくした。
「分かった。先、ありがとう」
その言葉を聞くたびに、美子はこのに来てよかったとった。
同僚の教師たちも、最初の頃は美子を温かく迎えた。特に10のキャリアを持つ先輩教師の田教諭は、美子をよく気にかけた。昼休みには緒に職員の隅で弁当をべ、学でのち回りやの付きいについて、細かく助言してくれた。
「このは狭いからね。保護者との距がいぶん、気をつけたほうがいいこともあるの」
田教諭は箸を置き、声を落としてそう言った。
「はい。気をつけます」
美子は素直に頷いた。
しかし、が経つにつれて田教諭の態度はしずつ変わっていった。
美子が児童たちに慕われ、からも褒められるようになると、田教諭は々そっけない反応を見せるようになった。美子が授業の夫について相談しても、以のように丁寧には答えない。
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「若い先は元気があっていいわね」
その言葉は笑顔で言われたが、どこか刺のある響きがあった。
方で、美子に特別親切だったのが佐藤教だった。50歳を過ぎた佐藤教は、美子をまるで娘のように扱った。
「松本先、困ったことがあれば何でも言いなさい」
職員で声をかけられるたび、美子は丁寧にをげた。
「ありがとうございます」
ただ、その親切にはどこかたさがあった。放課、職員に2だけになると、佐藤教は業務とは関係のない個な話をく続けた。
「阪から来たんだったね。田舎暮らしは寂しくないか」
「まだ慣れないこともありますが、子どもたちが優しいので」
「そうか。君は真面目だからな。無理をしすぎないように」
声だけを聞けば親切だった。けれど、美子はその線に言葉にできない息苦しさをじることがあった。
美子が暮らしていたのは、学から歩いて15分ほどの距にある宿だった。主の鈴は60代の未で、夫をくにくし、1で暮らしながら部を2つ貸して活していた。
鈴は美子を本当の娘のようにがった。毎朝温かいご飯を用し、夜遅く帰ると玄関で配そうに迎えてくれた。
「松本先、こんなまで学だったの?」
「ええ。し宿題を見ていたら遅くなってしまって」
「若いのに無理したらいけんよ」
その言葉に、美子はいつも救われていた。