"スズメバチ事故の遺言" 第6話
田島は80歳い齢で、数に獣医の仕事を退いていた。町れの古い軒で、1静かに暮らしていた。庭には、かつて診療に使っていたさながひっそりと残っている。
桑名が訪ねてきた理由を告げると、田島はい、何も言わなかった。
縁側に腰かけ、庭の青葉を見つめたまま、沈黙していた。
その横顔に、驚きはなかった。
むしろ、いつかこういうが来るのを待っていたような、静かな諦めが滲んでいた。
桑名は急かさなかった。
松吉の体に残されていた薬物反応。
作業のから見つかった注射器。
「710 松」とかれたメモ。
それらを1つずつ、静かに田島のに並べた。
そして最に尋ねた。
「田島さん。あなたは、この件について何かごじなのではありませんか」
田島はく息をついた。
い沈黙のあと、彼はゆっくりと語り始めた。
8、誰にも言えずに抱え続けてきた、ある約束の話を。
「松吉は、くなる1ほどにい病が見つかったんです」
田島の声はしわがれていたが、はっきりしていた。
桑名と越は息をのんだ。
物の主が言っていた、くなる1から元気がなかった、痩せていたという言葉が、桑名のをよぎった。
田島は庭の青葉を見つめたまま続けた。
「町の診療所で見てもらって、それからきな病院でも調べてもらった。
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けれど、もうの施しようがなかった。もって1。医者からそう言われたそうです」
松吉はそのことを、誰にも言わなかった。
娘の幸子にも、町のにも。
ただ1、古い友であり、獣医でもあった田島にだけ打ちけた。
「松吉は私のところへ来て、こう言ったんです」
田島はそのの言葉を、まるで昨のことのように繰り返した。
「田島、俺は苦しんでぬのが怖いんだ」
松吉が患っていた病は、最がづくにつれて激しい痛みに苦しめられるものだった。く畜を見てきた田島は、病でっていく命がどれほど苦しむかをっていた。
松吉はもう1つ、恐れていることがあった。
娘の幸子のことだった。
「松吉は、自分がく病に苦しむ姿を娘さんに見せたくなかったんです。病で負担をかけたくなかった。京で自分の暮らしを必に守っている娘さんに、これ以いものを背負わせたくないと言っていました」
桑名は、それまで聞き集めた証言をいしていた。
蜂をに譲る約束。
古い借りを返すための。
それらはすべて、松吉が自分のを見据えてめていた辺理だった。
田島の声がし震えた。
「松吉は、私にとんでもないことを頼んだんです」
彼は唇を噛み、絞りすように言った。
「蜂に刺されてんだことにしてくれ、と」
桑名も越も、言葉を失った。
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松吉の願いはこうだった。
どうせくない命なら、苦しみ抜いた末ではなく、自分が50世話をしてきた蜂と共に静かに逝きたい。
そしてそれを病ではなく、蜂による事故に見せかけてほしい。
そうすれば、幸子は父が病に苦しんでいたことをらずに済む。病の負担も、最を取る辛さも背負わずに済む。
「養蜂が蜂に刺されてんだ。それなら誰も審にわない。娘も、ただの幸な事故として受け入れてくれるだろう。松吉はそう言いました」
田島は何度も断った。
「そんなことはできない。おを見殺しにするようなことはできない。苦しむなら私ができる限り痛みをらげる。だから馬鹿なことを考えるな」
そう言って、何度も止めた。
だが松吉の決は固かった。
ある朝、田島が松吉の蜂へ様子を見にくと、すでに松吉は自分で巣箱を倒していた。
った蜂が、松吉を刺していた。
田島が駆けつけた、松吉は面に倒れ、苦しそうに息をしていた。
「私は必に呼びかけました。でも、あのは私の顔を見て、かすかに笑ったんです。これでいい、とでも言うように」
田島の目に、8分の涙が滲んだ。
松吉の息は、だんだん細くなっていった。
蜂の毒が回り、体はかなくなっていた。それでもまだ苦しんでいた。
田島はい、言葉を切った。
そして、ようやく続けた。
「私は、約束を果たしてしまったんです」
田島は、自分が持っていた薬を使った。
畜の治療に使う薬だった。