"地図にない赤札の家" 第5話
い声、い声、喉を潰したような声が混じりい、の奥をかきむしる。
「やばい、やばい。ここは何かおかしい」
辺が息を切らしながら叫んだ。
田も同じことをっていた。
ここはただの空きではない。
今すぐれなければならない。
まであとしというところで、田は畜舎のを通りかかった。
その、界の端に何かが揺れた。
「あ……」
田はわずを止めた。
その線につられるように、辺も畜舎のを見た。
次の瞬、辺が鳴をげた。
「うわあああっ!」
畜舎のに、無数の朽ちた首吊り遺体が揺れていた。
男か女かも分からない。顔の形すらはっきりしないほど黒く変し、乾き、崩れかけている。縄で吊られた体が、獣の鳴き声にわせるようにわずかに揺れていた。
元には、黒い何かが群がっていた。
豚のような獣。
いや、豚と呼んでいいのか分からない。
黒く濡れた背。太い胴体。く突きた。無数のそれらが、吊られた遺体の元に集まり、何かに貪りついていた。
肉を裂くような湿った音が聞こえた気がした。
遺体が揺れるたびに、縄がきしむ。
ぎい。
ぎい。
その音が、獣の鳴き声の隙からはっきり聞こえた。
田は全の血が凍るようだった。
「辺さん、しっかりしろ!」
辺はそのにへたり込んでいた。目は見かれ、はいたまま声にならない音を漏らしている。
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恐怖のあまり失禁したのか、ズボンの股周りが濡れていた。
「て! 辺さん!」
田は辺のジャンパーの襟元を必に掴んだ。
しかし辺は腰が抜けてけない。
畜舎のでは、まだ獣たちが鳴いている。吊られた遺体がゆらゆらと揺れ、その元に黒い獣の群れが蠢いていた。
田は辺を引きずるようにしてへ向かった。
靴が落ち葉を蹴る音、辺の荒い息、獣の鳴き声。全てが混ざりい、のでぐちゃぐちゃになっていく。
ようやくにたどり着くと、田は辺を助席に押し込んだ。自分も運転席にび込み、震えるでキーを回した。
エンジンがかかった瞬、しだけ現実に戻った気がした。
だが、辺はまだ震えていた。
「田さん、あれ何なんですか。あれ、何ですか」
「分からない。分かるわけないだろ、あんなもん!」
2は内で鳴りった。
喧嘩をしているようだったが、に田は、それは本能な反応だったのだとうと語った。
そうでもしなければ、気が狂いそうだった。
カメラのスピーカーからは、いつのにかノイズ音が流れていた。ナビはの分からない音声案内を繰り返している。
「方向です」
「目に到着しました」
「ルートを再検索します」
その声が、ひどく械で、かえって恐怖を煽った。
田はアクセルを踏み、を来たへ戻した。
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背の畜舎からは、まだ鳴き声が追いかけてくるように響いていた。
は来たを戻り始めた。
しかし、来るよりもはずっとくじられた。
ハンドルを握る田のは汗で濡れていた。細いは相変わらず荒れており、落ち葉のでタイヤが折滑る。片側は崖にく、ガードレールのでは沢が暗く流れている。
しでも操作を誤れば、ごと転落するかもしれない。
それでも田はスピードを落としすぎることができなかった。
くれたい。
刻もく、あの所からざかりたい。
そのいだけでハンドルを握っていた。
助席の辺は、しばらく何も言わなかった。顔は青く、カメラを抱えたまま刻みに震えている。折、喉の奥から引きつった息が漏れた。
「辺さん、しっかりしろ。丈夫だ。もうれてる」
田は自分に言い聞かせるように声をかけた。
「……田さん」
「何だ」
「あれ、でしたよね」
田は答えられなかった。
畜舎ので揺れていたもの。
黒く朽ちた体。
縄のきしむ音。
元に群がる黒い獣。
の遺体だったのか。それとも、それに似た何かだったのか。田には分からなかった。
分からない方がいいのかもしれない。
内には、エンジン音のに奇妙なノイズが残っていた。辺のカメラから発せられているらしい。辺は慌てて源を切ろうとしたが、指が震えてうまく操作できなかった。
「切れない……切れないです」