"赤い口紅と信託離婚" 第2話
妻のスマホが伏せ置きになっていること。
通に「T君」の文字が見えたこと。
夕の返事に0.5秒の躊躇があったこと。
噌汁の具材が豆腐と油揚げだったこと。
すべてを記録した。
自分でも、最の1にどんながあるのか分からなかった。ただ、ありふれた朝の輪郭を残しておきたかったのだろう。
退職まで3か。
まだ何も決めていなかった。
決めるには、材料がりなかった。
材料さえ揃えば、答えは勝に導かれる。
それが、経理の仕事だった。
同じの午10、総務部の内さんに呼ばれた。
内さんは40歳の几帳面な男性で、俺の退職に関する類を机に並べていた。
「川課、定退職の続きについて、いくつか確認したい項目がございます」
「はい、お願いします」
類の束のには、退職の計算があった。勤続40分の数字が、1つの額に圧縮されている。
退職は取りで2200万円余り。
さらに預の部をわせれば、かせる額は約2700万円になる。
内さんが確認した。
「退職の振込先は、現状ご登録いただいている共通座のままでよろしいでしょうか」
俺は顔をげた。
共通座。
のり子と2で使ってきた座だった。30以、俺の与が振り込まれ、30以、その座から計が回ってきた。
「内さん、振込先を変更する能性があります。
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2週以内に正式にお伝えします」
内さんは瞬だけ目を広げたが、すぐに業務用の表に戻った。
「承しました。変更されるは、規座報と変更届をお持ちください」
経理部に戻る途、俺は自分の発言のみを確認していた。
退職が共通座に入れば、のり子は当然のように触れる。
だが別座に振り込まれれば、なくとも振込点では俺単独の財産として区分できる。
昼休み、社員堂で同期のと向かいった。
「お、退職は何するつもりなんだ」
「妻と旅にでもとってる」
そうにした、俺はしだけ咀嚼のペースが落ちた。
嘘ではなかった。
3かなら、いや半までなら、それは確かな未来図だった。
午、スマホにのり子からLINEが届いた。
「今、買い物でし遅くなるから、夕は作り置きで」
俺はその文面を2度読み直した。
1までののり子なら、買い物の内容や帰宅を具体にいていた。今は、用件だけがく置かれている。
会社の個トイレに入り、俺はアプリをいた。
共通座の細を半分、ゆっくりスクロールする。
先末。
欄に30万円。
用途は「活費」。
がの々の活費は、15万円で定していた。くても18万円を超えた記憶はない。
さらに遡る。
3かにも、4かにも、同じように20万円、15万円のがある。
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のり子から「活費がりない」と相談された覚えはなかった。
俺は無言で細をスクリーンショットに保した。
その夜、駅のにち寄った。
融実務の棚で、1冊の本をに取る。
『族信託と遺言信託の実務』
退職の勉に見える本だった。
だが俺がりたかったのは、妻を問い詰める方法ではない。
俺自に何ができるのか。
その答えだった。
週末の曜、のり子は朝からしだった。
「今、学代の同窓会があるの。昔のゼミ仲が久しぶりに集まるんだって」
俺は聞を広げたまま返事をした。
「そうか。楽しんでおいで」
洗面所から、化粧品の蓋をける音が続いた。いつもの朝より、音の種類がい。
のり子がかける直、俺は洗面所のを通った。
化粧台の引きしがいている。
には、鮮やかな赤いがっていた。
のり子が玄関に現れた、い青のワンピースを着ていた。俺が今まで見たことのないだった。
「駅まで送ろうか」
「丈夫。し歩きたいの」
のり子は笑い、軽くを振ってていった。
夕方6過ぎ、のり子は帰宅した。
玄関で靴を脱ぐのり子の頬は、し気していた。酒をんだのだろう。
「楽しかった?」
「うん。昔の話でね、懐かしかった」
のり子が俺のを通り過ぎた瞬、りが届いた。
いつもの柔らかい柑橘系ではない。
甘く濃い、男性用のウッディ系のだった。
自分でつけた匂いではない。誰かの体やから移った匂いだった。