"半月傷の弟" 第10話
優はそこで学ぶことが、自分の経験となるとじた。
敬吾は弟の決断を尊した。
会社に入るを選ばなかったことを、残とは言わなかった。
優が自分で選ぶことがだと理解していたからだ。
「経済な支援は続ける。でもはおが決めればいい」
敬吾はそう言った。
23探し続けた弟が目のにいる。
敬吾にとっては、その事実だけで分な変化だった。
優は入学願をきながら、自分が事故以に何を望んでいたのかを像した。
記憶は戻らない。
けれど、今の自分が選ぶは、なくとも現実の経験に基づいている。
建設業での成功と失敗。
泊の孤独。
子どもたちへの責任。
それらは、蒼太としての23が形作ったものだった。
森田優として戻った今も、そのを否定するつもりはなかった。
娘と息子は、父が再び勉を始めたことに驚いた。
宿題を緒に解く会が増え、学習机に向かうが共された。
「お父さんも勉するの?」
娘が笑いながら聞いた。
「ああ。遅すぎることはないからな」
優はそう答えた。
それは子どもたちに向けた言葉であり、自分自に向けた言葉でもあった。
彩佳は優の選択を静に受け止めた。
定した収入を得るではないが、確ながあるなら応援すると述べた。
「事なのは続けることよ」
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その言葉には、以のような距だけではなく、慎な信頼が混じっていた。
学への願が受理され、面接がわれた。
優は自分の経歴を隠さずに伝えた。
事故。
記憶喪失。
倒産。
泊。
族との再接続。
面接担当者は、経験そのものが学ぶになっている点を評価した。
数週、格通が届いた。
優は正式に学となった。
42歳の入として、教に座ることになった。
周囲のくは自分より若かった。
だが同じ目標を持つ仲でもある。
社会福祉の基礎理論。
制度の仕組み。
支援現の実習。
優は、自分が制度の受益者だった過と向きいながら、今度は支える側になる準備を始めた。
敬吾は弟のしい活を静かに見守った。
23、失踪者の名簿を追い続け、聞記事を読み返し、探偵に依頼してきたは、ここで終わりを迎えつつあった。
探す対象は、もはやではない。
森田優は神戸で活し、学に通い、子どもたちと向きっている。
優が再び建設業に戻らなかった理由を、優自ははっきりと言葉にすることはなかった。
ただ、失われた23と、3ヶの泊が、自分のを変えたことだけは確かだった。
制度の隙に落ちた。
倒産で所を失いかけた父親。
その両方の経験が、同じ方向を指しているようにじていた。
森田優としての活が始まってからも、記憶は劇には戻らなかった。
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期待していたような突然の回復は起こらず、過は静かなままだった。
ただ、断片な覚が常のでふと浮かぶことはあった。
学の講義で流れた古い唱曲をにした、理由のない懐かしさが胸に残った。
正に敬吾ので用された雑煮をにした、言葉にできない既があった。
幼い頃の来事として説できる映像は浮かばない。
それでも体の奥にかすかな反応がまれる。
優はそれを無理に掘り起こそうとはしなかった。
いそうと焦るほど、ざかる気がしたからだ。
ある、敬吾は父母の墓参りに優を誘った。
神戸の墓に並ぶ墓ので、優は初めて自分の両親の名を刻んだに向きった。
そこに刻まれた「森田」の姓は、今の自分と同じ文字だった。
23ぶりに戻った息子として、何を報告すればいいのか。
優はし考えた。
そして、1つずつ言葉にした。
学に通い始めたこと。
子どもたちが元気に育っていること。
敬吾が会社を守り続けたこと。
父母が直接ることのなかった孫の話もした。
10歳の娘がピアノを続けていること。
7歳の息子が図鑑を読むのが好きなこと。
もし両親がきていれば、きっとんだだろうと像した。
そので涙が溢れることはなかった。
記憶がない以、いいもない。
ただ、名を共しているという事実だけが静かに残った。
敬吾は優の隣でをわせた。
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