みかん小説
本棚

"半月傷の弟" 第1話

3ヶで眠る活を続けていると、蒼太は、自分の名というものがどこまで本物なのか分からなくなっていた。

42歳。

戸籍にはそう記載されている。

けれど、その戸籍に刻まれた「蒼太」という名が、最初から自分のものだったわけではないことを、蒼太自番よくっていた。

彼のは、18歳で度途切れている。

滋賀県の国沿いで倒れているところを発見された青傷による記憶喪失と診断され、元を示すものを何ひとつ持っていなかった

それが、今の蒼太の発点だった。

発見当、彼には分証も所持品もなかった。族からの照会もなく、誰かが迎えに来ることもなかった。病院の記録には、ただ「推定18歳、」とだけ残された。

退院続きので仮の戸籍が作られた。

」という姓は、便宜に与えられたものだった。

の名だけは、本が選んだ。

「蒼太」という音の響きが嫌いではなかったから、そのまま使い続けている。

それ以に、過と呼べるものは何もなかった。

3ヶまで、蒼太は神戸でさな宅リフォーム会社を経営していた。ではないが、元密着型の仕事を10積みげてきた。古い回りを直し、壁を塗り替え、配の客のさな困りごとにも丁寧に対応した。

広告

紹介で案件が広がり、しずつ従業員も増えた。

ようやく軌に乗った。

そうった矢先だった。

社の型案件が止まった。

発注元の資繰りが悪化し、入が遅れた。その遅れが連鎖し、請けへの支払いが滞った。が迫り、との交渉も続けたが、融資は実らなかった。

倒産に至るまで、2週とかからなかった。

従業員に解雇を告げたさは、今も蒼太の胸に残っている。

事務所の会議で、蒼太は社員たちの顔を見た。緒に働いてきた職、事務を支えてくれた女性、まだ若い見習い。

誰も声を荒げなかった。

それがかえって苦しかった。

20くかけて築いた信用が、1枚の通で崩れていく。は融資を打ち切り、担保に入っていた自宅も差し押さえられた。

妻の彩佳は、10歳の娘と7歳の息子を連れて宮の実に戻った。

彼女は声を荒げなかった。

ただ、何度も同じ言葉を繰り返した。

「子どもには定が必なの」

蒼太には、その言葉を否定する材料がなかった。

会社を失い、収入を失い、宅ローンの返済も滞り始めた。未来を保証することなどできなかった。

彩佳は婚を急がなかった。

けれど、距確だった。

子どもたちは状況を理解しきれず、話の向こうで尋ねた。

「お父さん、いつ戻ってくるの?」

蒼太は、具体な答えをせなかった。

広告

最初は期の賃貸に移ろうと考えた。

しかし保証の問題で契約は難しかった。ビジネスホテルに泊まり、やがて費用が尽きた。最終に、タクシー会社の募集広告を見て、運転になった。

古の営業を引き継ぎ、夜勤の勤務を選んだ。

内で仮眠を取り、銭湯でなりをえる。できる限り普通の社会の顔を保とうとした。

だが、3ヶも続くと活の軸は内に固定されていった。

シートを倒し、毛布を広げ、コンビニの駐をやり過ごす。

最初はな避難のつもりだった。

けれど、どんな常も続けば習慣になる。

習慣になるにつれ、自尊というものがしずつ削られていった。

蒼太は、内で井を見げながら、自分の姓について考えることが増えた。

という苗字が、本当に自分のものかどうか分からない。

その事実は、これまでそれほどきな問題ではなかった。

事故、記憶が戻らないまま成し、職に就き、庭を持ち、父親として活してきた。

がなくても、未来は築ける。

そう信じていた。

だが会社が崩れ、庭が揺らいだ、自分には戻る台がどこにもないことに気づいた。

もない。

親族もいない。

頼れる過しない。

18歳以の自分をが、どこにもいない。

探しても現れなかったという事実だけが、蒼太のの底に沈んでいた。

そんなある朝、梅田くのホテルから配依頼が入った。

張客らしき男性を神戸方面へ送る案件だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: