"いただきますのない食卓、私は家を出た" 第13話
翔太はイライラと洗濯を蹴りばし、を抱え込んだ。
台所では次男の匠が顔をしかめながら蔵庫を漁っていた。
3 、栄養の偏ったコンビニ弁当とファストフードばかりべ続けたせいで、すっかり胃を痛めてしまったのだ。
「お母さん、いつも俺が調子悪い、すぐにお腹に優しいお粥を作ってくれたのに、レトルトのお粥すらどこにあるかわかんないよ」
匠は空っぽの蔵庫のにそのにしゃがみ込んだ。
自分がゲームをしながら無言でべていた事が、どれほど自分の体を守り健康を支えてくれていたのか、失って始めてその途方もない価値に気づかされていた。
その、リビングのソファで横たわっていた姑のかよが、ひっと息を吸い込み、苦しそうなうめき声をげた。
「もう限界よ。胸がドキドキしてが割れそうに痛いわ。く病院へ連れてって」
血圧の薬をめないまま 4 目を迎えたかよの顔は、青く変わっていた。
孝志は慌てたようにちがり、かよのそばへ駆け寄る。
「わかった、すぐにこう、母さん。保険証と診察券はどこだ?どこの病院にけばいい?」
かよは苦しそうに首を横に振った。
「らないわよ。いつもみわ子が全部準備してに乗せてくれていたんだから。先の名だって覚えていないわ」
広告
「なんだって、自分の通っている病院の名も分からないのか」
孝志は慌ててみわ子がいつも使っていた台所の引きしを片っ端からけ始めた。
しかしに入っているのは輪ゴムや保容器、自分には使いの分からない調理器具ばかり。
かよの診察券やお薬帳がどこに保管されているのか、見当もつかない。
「クソ、どこだ?どこにあるんだよ!」
引きしのをにぶちまけながら、孝志は絶望な叫び声をあげた。
俺は自分の母親の通院先も、んでいる薬の名も、保険証の保管所すららない。
男だから夫だからと偉そうにふんぞり返っていただけで、ののことは何つ、本当に何つ把握していなかったのだ。
「お父さん、もう探しても無駄だよ」
に散らばった雑貨の真んでち尽くす父親に向かって、彩佳が静かに声をかけた。
そのにはみわ子が残した『族のこと』とかれたノートが握られている。
「私たちがどれだけ軽んじ、文句を言っても、お母さんは毎私たちをかすために休まずいてくれていたの。このはね、お母さんがいたからだったんだよ。お母さんがいなくなったら、ここはただのゴミ箱と同じだよ」
彩佳の言葉は鋭いナイフのように孝志の胸をえぐった。
「おを取りげれば泣きついてくるなんて、お父さんのいがりだったの。
広告
お母さんはもう私たちなんか必としていない。私たちのくだらないプライドのせいで、お母さんを追いしてしまったんだよ」
い沈黙が部に落ちた。
洗面所でうなだれる翔太も、台所でしゃがみ込む匠も、ソファで苦しむかよも、誰も言い返すことはできなかった。
自分たちは絶対な者であるくせに、みわ子を見していたのではない。
みわ子というくて優しく、全てを包み込んでくれるに、ただ方にぶらがり、依していただけの無力なだったのだ。
孝志の目から初めて、悔の涙がこぼれ落ちた。
シワだらけのシャツを握りしめ、震えるでに落ちていたスマートフォンを拾いげた。
画面には過に送った傲なメッセージが残っている。
「座して謝れ」などという言葉はもう通用しない。残るのはひたすらな悔だけ。
孝志は祈るような気持ちで再びみわ子の話番号をタップした。
「お願いだ、てくれ、みわ」
スマートフォンから無質な呼びし音が鳴り始める。
くるくると、静まり返ったゴミだらけのリビングにその音だけが虚しく響いた。
孝志は祈るように両でスマートフォンを握りしめる。
「頼む、てくれ。俺が違っていた。おがいないと俺たちはきていけないんだ」
その、静まり返った部ので、女の彩佳がさく息をむ音がした。
彩佳は膝のに広げていた『族のこと』のノート、番最のページをめくっていたのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 220 -
完結第11話
嫌われた娘の五十八億円
父から一度も愛されたことがないと思い込み、家族からも見放された白石真琴。 父の告別式の日、兄たちから「遺産は一円も渡さない」と突き放された彼女のもとに、深夜一本の電話が入る。 それは、亡き父が最後まで隠し続けた“真実”を伝える弁護士からの連絡だった。 58億円の遺産、封印された手記、そして父が30年間演じ続けた冷酷な態度の本当の理由。 なぜ父は、最愛の娘を傷つけ続けたのか。 なぜ人生を捨てるほどの覚悟で、娘を遠ざけたのか。 一冊の手記に記された、父の命懸けの愛と、家族に隠された衝撃の真実とは――。兄弟姉妹|相続1.7萬字5 267 -
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 571 -
完結第9話
捨てられた妻の逆転人生
30年間家族を支え続けた妻・美智子に、夫は突然「もうお前は必要ない」と離婚届を突きつけた。 専業主婦として何も生み出していないと思われていた美智子は、何も言い返さず家を去る。 しかし翌朝、夫が残された古いファイルを開いた瞬間、30年間隠されていた衝撃の真実が明らかになる。 会社を支えていた取引先、危機を救った技術、築き上げた成功――そのすべての裏側には、誰にも知られず夫を支え続けた美智子の存在があった。 「家政婦」と呼ばれた妻が、本当は誰よりも会社と家族を守っていた理由とは。 そして、すべてを失った夫が初めて気づいた、取り返せない30年間の後悔とは――。因果応報|夫婦|熟年離婚1.4萬字5 2093 -
完結第12話
家賃55万の置き土産
夫の家族と13年間暮らしてきたまゆ子は、ある日突然、義母から告げられる。 「里帰り出産で長男夫婦が来るから、あなたは明日までに出ていって」 家族のために尽くしてきたはずだった。血のつながらない息子にも、義母にも、夫にも、ずっと気を遣ってきた。けれど義母にとって、まゆ子はもう“用済み”の存在でしかなかった。 しかも夫は出張と偽り、別の女性と会っている疑いまで浮かび上がる。 翌日、まゆ子は言われた通り家を出ることにした。 ただし、何もかも置いていくつもりはなかった。 月55万円の家賃を払っていたのは誰なのか。リビングを埋める家具家電を買ったのは誰なのか。 まゆ子が引っ越し業者に告げた一言で、義母たちの“幸せな同居計画”は静かに崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.8萬字5 381 -
完結第10話
退職祝いは離婚届
38年間、仕事一筋で家族を支えてきた黒田俊夫。 退職祝いの夜、彼は妻・真由美に言った。 「これからは、二人でゆっくりしよう」 しかし、その言葉を聞いた真由美は笑わなかった。彼女が静かに差し出したのは、白い封筒に入った離婚届だった。 若い頃に交わした旅行の約束。何度も後回しにされた夫婦の時間。「退職したら」「落ち着いたら」「今度こそ」と言われ続けた38年。 俊夫にとっては、これから始まるはずの老後だった。けれど真由美にとっては、もう待ち続ける時間の終わりだった。 妻はなぜ、夫の退職の日を選んで家を出たのか。 そして俊夫は、妻がいなくなった家で初めて、自分が見てこなかったものに気づいていく――。夫婦|第二の人生|熟年離婚1.5萬字5 962 -
完結第11話
私を変えた元嫁
老舗和菓子店「宮本屋」を守ってきた宮本美津江は、一人息子の結婚相手・梨奈を初めて見た時、心の中でこう思った。 「この子なら、教えれば変えられる」 靴の揃え方、挨拶、お辞儀、言葉遣い、店での立ち居振る舞い。美津江はかつて自分が姑に教え込まれたように、嫁である梨奈を“宮本屋にふさわしい人”へ育てようとした。 最初は頼りなかった梨奈も、やがて店の顔となり、若女将として客に愛される存在になっていく。売上も伸び、雑誌やテレビにも取り上げられ、美津江は誇らしげに言った。 「この子は、私が育てたのよ」 けれどその言葉は、少しずつ梨奈の心を傷つけていた。 そんな中、息子・拓海の裏切りが発覚する。梨奈は家を出て、宮本屋を去る決意をするが、美津江が最初に心配したのは、嫁の心ではなく店の未来だった。 梨奈は本当に、美津江に育てられただけの嫁だったのか。 そして、宮本屋に残された美津江は、梨奈のいない店で初めて、自分が何を奪い、何を見落としてきたのかを知る。 嫁を変えようとした姑と、自分の人生を取り戻そうとした元嫁。 これは、家族でも他人でもない二人の女性が、衝突の末にもう一度向き合っていく物語。嫁姑|第二の人生1.6萬字5 172 -
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 2867