みかん小説
本棚

"いただきますのない食卓、私は家を出た" 第12話

ああ、そういえば奥様、昨しいご自座を与振り込み先に指定されましたよ。

ご主から経済な支援を絶たれても、奥様はご自の力で分にきていけます。私たちはそんな素らしい技術を持った奥様を、全力で支えるつもりです」

ブツリ、話が切れた。

孝志はスマートフォンをに当てたまま、呆然とち尽くした。

「どうしたの?お父さん、お母さん帰ってくるって?」

リビングのソファから女の彩佳がそうに声をかける。

孝志は答えられない。いや、言葉がなかったのだ。彼のけないほどガタガタと震えていた。

を取りげれば泣きついて戻ってくる。あれはなんと愚かない込みだったのだろう。

みわ子はもう、自分の稼ぐ料など円も必としていなかったのだ。

の世界でその腕をく評価され、謝され、自分のでしっかりとがっていた。

座して謝るなら許してやる」などという自分の言葉が、どれほど惨めで見当違いなものであったか。

孝志はゆっくりと線を落とした。

ゴミが散乱するテーブル、空のペットボトル、そしてそのに置かれたあの冊のノート。

そこには族の体調を気遣う言葉がびっしりとかれている。

みわ子はの世界でおをもらえるほどの素らしい才能との全てを、27 銭の対価も求めず、「族だから」

広告

という理由だけで自分たちに注ぎ続けてくれていたのだ。

孝志はゆっくりと部を見渡した。

シワだらけのに途方に暮れる男、お腹を抑えてうずくまる次男、薬の所も分からず青い顔で横たわる母親。

悪臭漂うゴミの、何もかもが止まってしまったこの

俺たちは ——

孝志は力なくそのに膝から崩れ落ちた。

の世界で通用しないのはみわ子ではない。

彼女がいなければ着るシャツ枚用できず、自分の母親の通院先すら分からない、自分の方だったのだ。

絶対な養い主だとっていた自分が、実は番の者で無力なであったことに気がついた瞬、最の認識の逆転が孝志の傲を無惨に打ち砕いた。

しかし、どれほど悔したところで、失われた 27 分のはもう度とこの卓に戻ってくることはないのだ。

膝から崩れ落ちた孝志の姿に、リビングの空気は完全に凍りついた。

スマートフォンは彼のから滑り落ち、音をててに転がった。

「お父さん、どうしたの?施設の、なんて言ってたの?」

女の彩佳が恐る恐る尋ねる。

孝志はを見つめたまま、ガタガタと震える唇をゆっくりといた。

「みわ子、正社員になったそうだ」

「ええ?」男の翔太が驚いた声をげた。「正社員って?母さん、冗談だろ。

広告

資格もない、も取った主婦だぞ。雇ってくれる会社なんてあるわけないじゃないか」

「嘘じゃない」孝志の声はひどくかれていた。先ほどまでの威圧な態度は見るもなく、まるで魂を抜かれたように力が抜け切っている。

「施設が言っていた。みわ子の料理はプロの仕事で、絶対に放せない番の宝だって。

あいつ、自分の料を振り込んでもらうためのしい座も作ったらしい。俺がカードを止めても痛くも痒くもないんだ」

その言葉に族全員が息をんだ。

の力で支配し追い詰めれば泣いて戻ってくる、そんな計算は根本から違っていたのだ。

みわ子はとっくに自分自でしっかりとがり、の世界の居所を見つけていた。

自分たちに見切りをつけ、静かにつ準備を終えてから、あの夜ったのだ。

「こんなバカな…… じゃあ俺のシャツはどうなるんだよ」

翔太は焦ったように洗面所へ駆け込んだ。積みになった洗濯物のから自分のシャツを引っ張りし、なんとか自分で洗濯を回そうと試みるが、洗剤がどこに置いてあるのかすら分からない。

戸棚をけ、当たり次第にボトルを取りすが、どれが洗剤で、どれが柔剤、どれが漂剤なのか全く区別がつかないのだ。

「クソ、どれだよ。

ボタンはどれを押せばいいんだ」

適当に液体を流し込み、めちゃくちゃにボタンを押すが、洗濯からはエラーをらせる子音が虚しく響くだけだった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: