"支えを手放す日" 第15話
本当にかったね。」
美奈はカップの縁を指でなぞりながら窓のを見つめた。窓越しに見えるのは、が次々とびっていく広い空だ。、彼女のはずっと曇り空に覆われていた。だが今、その空はどこまでもく澄み切っているように見えた。
「さっきの話、よくあんなに静に話せたわね。パパ、すごく焦ってたみたいだけど。」
彩佳の言葉に美奈はしだけ目を伏せた。
「ごめんなさいね、彩佳。あなたにまであんな役回りをさせてしまって。」
「うん、いいの。私が自分で決めたことだから。」
彩佳はきっぱりと首を横に振った。
「私ね、お母さんがおじいちゃんたちにおを振り込んでるのも、パパののローンを払ってるのも、ずっとからってたんだよ。パパが自分はお持ちで偉いんだって顔をしてるのを見るたびに、すごく腹がってた。」
彩佳の目はまっすぐに美奈を捉えていた。
「お母さんはいつになったらるんだろうって、いつになったらパパを見限るんだろうって、ずっと待ってたの。」
「そうだったのね。」
美奈は娘の成にしだけ胸がくなるのをじた。自分が族を守るためだと信じて耐えてきた沈黙は、娘にとっては母親が理尽に耐え続ける苦しい姿でしかなかったのだ。
「でもこれからはもう丈夫ね。お母さん、これからは自分のためにおを使って、自分のためにきてね。
広告
」
「ええ、ありがとう、彩佳。」
美奈はからの笑顔を娘に向けた。
「藤堂先にもきちんとお礼を言わなくちゃね。さんにも無理をお願いしてしまったし。」
「そうだね。慰謝料の請求もこれから本番だし。」
彩佳の言葉に美奈は静かに頷いた。孝志の座とカードを止めたのはただの始まりに過ぎない。彼が美奈の座から引きし、のために散財した額は全て証拠として残してある。それを貞為の慰謝料として請求し、法にきっちりと返還させる。それが美奈の最のけじめだった。
「パパ、今頃どうしてるかな?」
彩佳がし悪な笑みを浮かべて言った。
「さあ、どうしているかしらね。でも彼にはもう私の信用も私の座もありません。ご自ので、ご自のを歩いていくしかないのよ。」
美奈の声には、微かな未練もりもなかった。あるのはただ静かな決別だけだ。
、美奈は妻という役割に縛られ、孝志という男のを背負い続けてきた。彼の見栄を支え、彼の尻拭いをし、彼の実の面倒まで見てきた。しかし、もうその荷をろすが来たのだ。彼が「これからは自由だ」と笑いした瞬、美奈もまた真の自由をに入れた。
「さあ、帰りましょうか。今はあなたの好きなレストランで夕にしましょう。」
「本当?やった!お母さんのおごりだね。
広告
」
「ふふ、もちろんよ。」
美奈はちがりバッグをに取った。取りは驚くほど軽く、背筋はピンと伸びていた。
方、その頃空港のたいベンチで、孝志はを縮めるようにして座っていた。元には百円ぽっちの銭と、バッテリーが切れかかっているスマートフォンだけ。どこへく当てもなく、誰に助けを求めることもできず、ただだけが過ぎていく。
「美奈……」
かすれた声で元妻の名を呼んだ。しかし、その声は誰にも届くことなく、空港の空気のに虚しく吸い込まれていった。
彼が失ったもののきさに気づいたには、すでに全てが遅れだった。見栄で塗り固められた彼のは、美奈という支えを失った瞬、音をてて完全に崩壊したのだ。
プツンというさな音と共に、孝志のスマートフォンの画面が真っ暗になった。
「ああ…… 嘘だろ、バッテリー切れ……」
それは孝志と世界をつなぐ最の糸が完全に断ち切られた瞬だった。連絡先を見ることもできず、をることもできない。ポケットに残っているのは、使いのない百円の銭だけだ。
どうする?本当にどうやってここからけばいいんだ?
孝志はベンチからちがり、ふらつく取りで歩きした。く当てなどない。ただこのまま座っていても事態はミリも好転しないことだけは分かっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 220 -
完結第11話
嫌われた娘の五十八億円
父から一度も愛されたことがないと思い込み、家族からも見放された白石真琴。 父の告別式の日、兄たちから「遺産は一円も渡さない」と突き放された彼女のもとに、深夜一本の電話が入る。 それは、亡き父が最後まで隠し続けた“真実”を伝える弁護士からの連絡だった。 58億円の遺産、封印された手記、そして父が30年間演じ続けた冷酷な態度の本当の理由。 なぜ父は、最愛の娘を傷つけ続けたのか。 なぜ人生を捨てるほどの覚悟で、娘を遠ざけたのか。 一冊の手記に記された、父の命懸けの愛と、家族に隠された衝撃の真実とは――。兄弟姉妹|相続1.7萬字5 267 -
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 571 -
完結第9話
捨てられた妻の逆転人生
30年間家族を支え続けた妻・美智子に、夫は突然「もうお前は必要ない」と離婚届を突きつけた。 専業主婦として何も生み出していないと思われていた美智子は、何も言い返さず家を去る。 しかし翌朝、夫が残された古いファイルを開いた瞬間、30年間隠されていた衝撃の真実が明らかになる。 会社を支えていた取引先、危機を救った技術、築き上げた成功――そのすべての裏側には、誰にも知られず夫を支え続けた美智子の存在があった。 「家政婦」と呼ばれた妻が、本当は誰よりも会社と家族を守っていた理由とは。 そして、すべてを失った夫が初めて気づいた、取り返せない30年間の後悔とは――。因果応報|夫婦|熟年離婚1.4萬字5 2093 -
完結第12話
家賃55万の置き土産
夫の家族と13年間暮らしてきたまゆ子は、ある日突然、義母から告げられる。 「里帰り出産で長男夫婦が来るから、あなたは明日までに出ていって」 家族のために尽くしてきたはずだった。血のつながらない息子にも、義母にも、夫にも、ずっと気を遣ってきた。けれど義母にとって、まゆ子はもう“用済み”の存在でしかなかった。 しかも夫は出張と偽り、別の女性と会っている疑いまで浮かび上がる。 翌日、まゆ子は言われた通り家を出ることにした。 ただし、何もかも置いていくつもりはなかった。 月55万円の家賃を払っていたのは誰なのか。リビングを埋める家具家電を買ったのは誰なのか。 まゆ子が引っ越し業者に告げた一言で、義母たちの“幸せな同居計画”は静かに崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.8萬字5 381 -
完結第10話
退職祝いは離婚届
38年間、仕事一筋で家族を支えてきた黒田俊夫。 退職祝いの夜、彼は妻・真由美に言った。 「これからは、二人でゆっくりしよう」 しかし、その言葉を聞いた真由美は笑わなかった。彼女が静かに差し出したのは、白い封筒に入った離婚届だった。 若い頃に交わした旅行の約束。何度も後回しにされた夫婦の時間。「退職したら」「落ち着いたら」「今度こそ」と言われ続けた38年。 俊夫にとっては、これから始まるはずの老後だった。けれど真由美にとっては、もう待ち続ける時間の終わりだった。 妻はなぜ、夫の退職の日を選んで家を出たのか。 そして俊夫は、妻がいなくなった家で初めて、自分が見てこなかったものに気づいていく――。夫婦|第二の人生|熟年離婚1.5萬字5 962 -
完結第11話
私を変えた元嫁
老舗和菓子店「宮本屋」を守ってきた宮本美津江は、一人息子の結婚相手・梨奈を初めて見た時、心の中でこう思った。 「この子なら、教えれば変えられる」 靴の揃え方、挨拶、お辞儀、言葉遣い、店での立ち居振る舞い。美津江はかつて自分が姑に教え込まれたように、嫁である梨奈を“宮本屋にふさわしい人”へ育てようとした。 最初は頼りなかった梨奈も、やがて店の顔となり、若女将として客に愛される存在になっていく。売上も伸び、雑誌やテレビにも取り上げられ、美津江は誇らしげに言った。 「この子は、私が育てたのよ」 けれどその言葉は、少しずつ梨奈の心を傷つけていた。 そんな中、息子・拓海の裏切りが発覚する。梨奈は家を出て、宮本屋を去る決意をするが、美津江が最初に心配したのは、嫁の心ではなく店の未来だった。 梨奈は本当に、美津江に育てられただけの嫁だったのか。 そして、宮本屋に残された美津江は、梨奈のいない店で初めて、自分が何を奪い、何を見落としてきたのかを知る。 嫁を変えようとした姑と、自分の人生を取り戻そうとした元嫁。 これは、家族でも他人でもない二人の女性が、衝突の末にもう一度向き合っていく物語。嫁姑|第二の人生1.6萬字5 172 -
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 2867