"盗まれた120頁" 第6話
封筒のには、120枚のA4用の束が入っていました。それは10の2、誠が命を削ってきげた論文の原本でした。
そしてもう1つ、名な学術誌の切り抜きが同封されていました。
そこには、全く同じ研究データと数式が掲載されていました。けれど、著者欄に印刷されていた名は、誠ではありません。
の息子、優太の名でした。
10、教授はこの引きしをけるたびに見て見ぬふりをしてきました。
息子の経歴を守るため。
自の学での位を守るため。
青森から京へ通い続け、チラシを配る両親の姿をテレビで見るたび、彼は黙ってチャンネルを変えました。
しかし、退職を目にして、その茶封筒をシュレッダーにかけることはできませんでした。
2005410午。
京の管轄警察署の自ドアが静かにきました。の温かい差しの、仕ての良いスーツを着た老が入ってきます。
は受付の若い警察官に向かって、ひどくかすれた声で言いました。
「10の誠君の件で来ました」
その名を聞いた瞬、奥にいたベテラン捜査員がちがりました。
彼は10、「ただの」としてい調をいた、あの捜査員でした。
取調のたいパイプ子に座らされたは、机のに茶封筒を置きました。コップのコーヒーを持つこともできないほど、は震えていました。
広告
「10、ずっと息ができませんでした。私は自分の内を守るために、あの青の努力を奪い、沈黙を続けました」
捜査員は封筒のを取りし、2つの論文を並べて照しました。
データ、グラフ、複雑な計算式、参考文献。結論に至るまでの過程。それらは字句、ほぼ完全に致していました。
違うのは、最に記された名だけでした。
は乾いた唇をかしました。
「誠君は、失踪するの夜、私の息子の盗作に気づきました。彼は原本データの入ったフロッピーディスクを握りしめ、翌朝番で学の委員会に正式に告発すると言っていました」
捜査員のボールペンが、調ので止まりました。
10、就職のプレッシャーによる失踪とされてきた事件が、まったく別の輪郭を持ち始めていました。
誠は逃げたのではありません。
正を正そうとしていたのです。
の告は、さらに残酷な事実を突きつけました。
1995215、卒業式の朝。
誠は午8に学の講堂へ到着し、自分の席にガウンを置きました。しかしその直、午815分、ある物から呼びされ、講堂のへ連れされたのです。
「息子が、誠君を自分のに乗せたと言っていました。2だけで話をつけるため、静かな所へ連れてくと」
捜査員の背筋に、たい汗が流れました。
広告
青森の両親が10万枚のチラシを配っていた10。
警察が阪の町でタイムカードの指紋を調べていたあの。
誠は本のどこかで、自分ので隠れていたわけではありませんでした。
青は、プレッシャーに潰されて消えたのではありません。
問題は、彼がどこへ姿を消したのかではありませんでした。
卒業式のの午10、両親が空席のガウンに触れていたその瞬、彼はすでに、この世のどこにもいなかったのです。
2005411午9。
科学捜査研究所に、教授が持ち込んだ茶封筒が運ばれました。窓のない無質な部で、鑑識官が古いフロッピーディスクを慎に械へ挿入しました。
乾いた械音が鳴り、画面に120ページに及ぶテキストデータが表示されます。
ファイルの最終更は、1995214午214分。
それは誠が青森の実に話をかける約19の記録でした。
そのデータは、優太名義で発表された学術誌の論文と照されました。45個の複雑な計算式、作業で入力された実験データ、グラフの座標軸、参考文献リスト、改の位置、句読点の癖。
致率は100%でした。
科学捜査のメスが、10の嘘を切り裂いた瞬でした。
捜査本部のホワイトボードには、たな容疑者の名が太いマーカーでき込まれました。
優太。
教授の息子であり、当、同じ学院に籍していた男です。
10の彼は研究にき詰まり、留の危にたされていました。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
消えた水色の妹
2001年、姉の結婚式の日に突然姿を消した24歳の看護師・小百合。 財布も携帯電話も残したまま、非常口へ向かった彼女の最後の姿だけが、防犯カメラに記録されていた。 家族は7年間、必死に彼女を捜し続けた。 そして夫となった男も、誰よりも協力的な家族として小百合を探し続けていた。 しかし、引っ越しを前に開けられたベランダの作業部屋で見つかったのは、誰も予想しなかった7年前の痕跡だった。 壁の中に隠されていた一本の携帯電話と、残されたわずかな言葉。 あの日、結婚式の裏側で何が起きていたのか。 そして、最も信頼されていた人物が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 485 -
完結第10話
トウモロコシ畑に消えた母
1999年、長野の静かな村で起きた不可解な事件。 朝のトウモロコシ畑で発見された農家の女性は、周囲から「親孝行な婿」に守られていたはずだった。 しかし、現場に残された小さな痕跡と、15年後に開かれた古い証拠が、誰も疑わなかった男の裏の顔を暴いていく。 家族を支える優しい婿の仮面の裏に隠されていたものとは――。 長い年月を経て、静かな村に埋もれていた真実が、ついに明らかになる。ミステリー|行方不明1.5萬字5 191 -
完結第11話
最後の定期券
30年間、毎朝駅へ向かい続けた父。 定年後、突然姿を消した彼の行き先は、30年前に消えた小さな駅だった。 娘が父の部屋で見つけた一枚の古い切符と、「必ず迎えに行く」という謎の言葉。そこから、父が誰にも話さなかった過去が少しずつ明らかになっていく。 父が30年間守り続けていた約束とは何だったのか。 そして、あの日駅から消えた少女の行方は――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 428 -
完結第11話
飛騨の農家に消えた嫁
1995年、岐阜県飛騨地方の山あいにある和牛農家へ嫁いだ27歳のゆき子。 よく働き、誰にも逆らわず、慣れない村で必死に暮らしていた彼女は、ある冬の日、牛舎へ向かったまま姿を消した。片方だけ残された長靴。消えた青いジャンパー。そして、家族が語った「自分から出て行った」という言葉。 警察は深く調べることなく、失踪は家出として処理された。 それから8年。村では何事もなかったように季節が巡り、義父の幻蔵は“誠実な畜産農家”として周囲から慕われ続けていた。 しかし、牛舎裏の堆肥の山から見つかった人骨が、止まっていた時間を動かす。 長年誰も近づけなかった壺のそば。夜ごと繰り返された寝言。真冬の洗車場で執拗に洗われた軽トラック。 誰も探さなかった若妻は、8年間どこにいたのか。 そして、家の体面を守るために義父が隠し続けたものとは――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 303 -
完結第11話
6秒の着信
2019年10月、紅葉の雪岳山を訪れた若い恋人、ジフンとアリン。 翌年に結婚を控えた2人は、記念写真を残すために山へ向かった。登山口の防犯カメラには、笑い合いながら歩く幸せそうな姿が映っていた。 しかし午後3時過ぎ、2人は分岐点でなぜか正反対の道へ進む。 そして、そのまま山の中から忽然と姿を消した。 大規模な捜索が行われても、足跡も荷物も見つからない。事故なのか、失踪なのか、それとも誰かが2人を誘い込んだのか。真相が分からないまま、3年の月日が流れていく。 やがて2022年、登山道近くの泥の中から、アリンの携帯電話が発見される。 そこに残されていたのは、最後に撮られた1枚の写真と、わずか6秒間の通話記録。 「そのまま来てください。彼も着きました」 その短すぎる声が、3年間“山で消えた”と思われていた恋人たちの、本当の行き先を暴き始める――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 308