"隠された十五年の物語" 第4話
懐灯で照らし、さらに枚板を剥がし、腕を差し込む。
指先に角いいものの角が触れた。
引きげてみると、それは表面が赤茶に錆びついた、古い菓子缶だった。
缶の表面にはく絵柄が残っており、数のをじさせる。
「親方、何かてきました」
清は缶を持って親方の元へ向かった。
親方は缶の表面に指を滑らせ、つぶやいた。
「随分古いな。に隠されてたのか」
「隠しでも入ってるかな」
冗談めかして笑い、親方は慎に缶の蓋をけ始めた。
蓋の縁は錆びて固着しており、し力を込めると、カチリと音をてて蓋がれた。
その瞬、はわず息を呑んだ。
缶のは、何にも丁寧に油で包まれていた。
冗談は消え、親方は真剣な表で油の包みをゆっくりいていく。
番からてきたのは、古い学ノートだった。
表は焼けで黄ばんでいるが、のはく、万の文字がびっしりとき込まれている。
ノートのには、アクリルケースに納められた枚の写真があった。
セーラーを着た女が桜並ので微笑む、黒にい古い写真だ。
写真の裏には細い文字で『美』とかれていた。
油の番奥には、のひらほどのきさのカセットテープが本、しっかり包まれて眠っていた。
テープのラベルには、ボールペンでさく『平成夜』とだけ記されていた。
広告
親方はい面持ちで清に言った。
「これは警察を呼べ。素が触っていいものじゃない」
「警察ですか?」
「ああ。これはただ置かれてたんじゃない。誰かに見つけてもらうために、わざと隠して残したものだ」
親方の目からは、普段の穏やかなが消え、沈んだ真剣さが宿っていた。
彼はスマホを取りし、まず会社に連絡し、続いて警察署の番号をダイヤルした。
夕方、現からの報告が県警察署にがった。
この報告を受け取ったのは、定の歳、刑事の宅だった。
細で物腰の穏やかな男で、髪はほとんどく、若い頃から決して声を荒げたことがない。
机のは常に類が頓され、几帳面な性格だった。
報告を読み終えた宅は、子の背にもたれ、く井を見げた。
そして机の番の引きしをけ、ずっと持ち歩いてきたさな箱を取りした。
蓋をけると、から枚の古い写真とい帳が現れた。
その写真は、解体現からてきたものと全く同じ、桜並で笑うセーラーの女の姿だった。
宅は指の腹で写真をそっとなで、さくつぶやいた。
「美ちゃん……」
記憶は、平成のに気に巻き戻った。
当、宅は代の若い巡査で、沼田の警察署に勤務していた。
田畑と団、古い商が混する、平凡な方の町だ。
広告
、曜の夕方。
町にむ学、歳の崎美が、帰宅途に姿を消した。
美は夕を済ませ、いつものように自転で塾へ向かう途だった。
自宅から塾までは自転で分ほど、途に両側を畑に挟まれた細いがある。
畑で作業していた民の証言によると、美はその細に入ったところまでは確かに目撃されていた。
だが、塾に美の姿はなかった。
両親が異変に気づいたのは夜過ぎ、塾から「本欠席です」との話が入ったからだ。
母親は茫然とち尽くし、すぐに警察に届けをした。
翌から町を挙げての捜索が始まった。
若の宅も捜索に加わり、田畑、雑林、公園、空き、あらゆる所を、女の名を呼びながら歩き回った。
「崎さん! 美ちゃん! いたら返事をしてください!」
喉が枯れるほど声をし続けたが、女の姿は向に見つからない。
事件数、雑林のから美の自転だけが発見された。
自転は鍵がかけられ、サドルにはく埃が積もり、塾の鞄もそのまま残されていた。
当初、この事件は神隠しのように扱われた。
だが聞き込み捜査がむにつれ、の男のが浮かびがってきた。
当歳、独の黒田という男だ。
町れでさな雑貨を営み、失踪現のすぐそばに、き父の畑を持っていた。
複数の民が、事件に黒田が美の自転をじっと眺めていた姿を目撃している。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
十年の悪夢 洞窟から届いた母の遺骨
1987 年元旦、千葉犬吠埼へ初日の出を見に出かけた平凡な 3 人家族。 「すぐ戻る」と残した言葉を最後に、一家は忽然と姿を消した。 当時の警察は借金苦の夫による一家心中と断定、事件は 10 年間闇に埋もれた。 だが千葉大サークルの学生が崖下の洞窟で人骨を発見した瞬間、全ての判断が覆る。 防水ポーチに残された謎の数字手帳、陸地に残された母だけの遺骨、上層部にもみ消された密輸の証拠… 10 年ぶりに鳴った一本の電話が、生き残った少女の声を届ける。 財閥の欲望、鉄パイプの悲劇、隠蔽された殺人現場。 洞窟に眠る骨が語る、あの元旦夜の衝撃真実を今、紐解く。真実|裡の顔|真相|行方不明1.7萬字5 86 -
完結第15話
双子の消えた春
1992 年春、早稲田大学に合格した一卵性の双子が入学式当日、突如姿を消した。荷物だけ下宿に残し、足取りは完全に途絶え、16 年間未解決の謎として町に眠っていた。 駐在所の若い巡査が古い捜査ファイルを発見したことで、隠された家族の秘密が次々と露に。父が長年胸に封じてきた腹違いの長男、喫茶店で双子と密会していた中年男の正体、そして二人を襲った予期せぬ悲劇。 長い年月の霧が晴れた時、両親が語り出した衝撃の真相と、失われた家族が辿り着いた最後の優しい結末をお届けします。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.3萬字5 2 -
完結第7話
27枚目の真実
1999年、秋の連休で混み合う足柄サービスエリア。 健二の妻・雪は、「お手洗いに行ってくるわ」と言い残し、人混みの中へ消えた。助手席には財布も鞄も残されたまま。防犯カメラにはトイレへ向かう姿だけが映っていたが、その後の行方はぷつりと途絶えていた。 警察は捜索を続けたものの、手がかりは見つからず、やがて雪には借金があったことが判明する。世間は「夫を捨てて逃げた妻」と噂した。 けれど健二だけは、雪が自分から消えたとは信じなかった。 そして26年後。 リニューアル工事中のサービスエリアで、排水管の下から1台の使い捨てカメラが見つかる。そこに残されていた27枚の写真には、雪が最後に見たもの、そして彼女が命をかけて残そうとした証拠が写っていた。 あの日、雪はなぜカメラを持っていたのか。 黒いセダンの男は誰だったのか。 26年間止まっていた時間が、たった1台のカメラによって再び動き出す――。ミステリー|真相1.0萬字5 178 -
完結第6話
甘い部屋の72時間
2022年9月、埼玉県秩父市のアパートで、37歳の女性・渡辺咲が意識不明の状態で発見された。 救急隊員が部屋に入った瞬間、まず感じたのは異様なほど甘い香りだった。消臭剤、芳香剤、アロマキャンドル。部屋中に重ねられた香りの中で、咲はソファーにもたれかかるように倒れていた。 夫の啓介は「今朝、見つけた」と冷静に話した。 しかし、搬送先の病院で告げられたのは、咲の体が数日前から限界に近い状態だった可能性。そして母・えみ子が遺品を調べるうちに、娘が少しずつ外の世界から切り離されていた痕跡が浮かび上がっていく。 なぜ、夫はすぐに助けを呼ばなかったのか。 なぜ、部屋には不自然なほど多くの芳香剤が置かれていたのか。 そして咲が最後に残した「ごめんなさい。怒らないで」という言葉は、誰に向けられたものだったのか。 72時間の沈黙の裏に隠されていた、ひとりの女性の孤立と、届かなかった叫びを描く物語。ミステリー|行方不明9.3千字5 22