"父の残した翼" 第16話
母は直さんの目をまっすぐに見据えた。その線にさすがの直さんも瞬気圧されたようだった。
「さん……」
母の震える唇から言葉が紡がれようとしていた。それは暴力と恐怖によって封じ込められてきた魂の叫びだった。
直さんは母のそのただならぬ気配に、ようやく何かを察し始めたようだった。彼の顔から勝ち誇った笑みがすっと消えていく。
リビングの空気が張り詰めていくのが分かった。私はバッグのにを入れた。指先に父が残したボイスレコーダーのたい触が伝わる。
もうすぐだ。この男の仮面が完全に剥がれ落ちる瞬が、もうすぐそこまで来ている。
私はこれから始まる断罪の儀式をに、静かに息をえた。
母の佐藤け子は震える声で、しかしはっきりと話し始めた。そのにいる全員が息をんで彼女の言葉にを傾けている。
「さん、あなたは毎晩私の部に来ましたね。でもそれはマッサージなどでは決してありませんでした」
母の言葉に直の顔が引きつった。
「お母さん、何を言いすんですか?疲れているんですね。俺が優しくしてやったこと、忘れてしまったんですか?」
彼は必に母の言葉を封じようとするが、母はもうひるまなかった。本先が隣でしっかりとそのを握っている。
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「あなたは毎晩、毎晩私の麻痺したをひねりげ、くなったあのが残したおのありかを言えと私を脅しました。ゆみの幸せを壊したくなければ黙って言うことを聞けと……私は怖かった。この子の幸せが壊されてしまうのが何よりも怖かった」
うめき声を漏らしながら、母はついに真実を告した。それは恐怖に耐えかねた者の告発ではなく、娘を守ろうとする母親の命がけの叫びだった。
そのにい沈黙が落ちる。しかし直さんはすぐに態度を変え、まるで狂ったように声で笑いした。
「わはは、なんだそういうことか。先、聞いてくださいよ。この、最どうもおかしいんですよ。認症が始まったのかもしれない。自分の都のいいように作り話を始めたんだ」
彼は母を指差して叫んだ。
「病気の寄りの言うことと、健康な俺が懸命介護してきた俺の言うこと。あんたならどっちを信じるんだ?」
その言葉はとしての線を完全に踏み越えていた。母の尊厳を「病気」という点で丸ごと踏みにじろうとする悪魔の所だった。
母の顔が絶望としみで歪む。私があなた、と叫びながらちがろうとした。そのだった。
静かにそのやり取りを見ていた本先が、落ち着き払った声でそれを遮った。
「さん、あなたの言い分は分かりました。
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ではつご覧いただきたいものがあります」
本先の隣に控えていた若い男性が、ブリーフケースからノートパソコンとリビングの型テレビに接続するためのケーブルを取りした。
その際の良さに、直さんはらかに狼狽のを見せ始めた。
「なんだ?何をしようって言うんだ?」
「まあ、ご覧になれば分かります。ゆみさん、証拠のものを」
私は頷くとバッグからUSBメモリを取りし、ノートパソコンに差し込んだ。画面に見慣れたファイルアイコンが表示される。
私は震える指で再ボタンをクリックした。
次の瞬、リビングのきなテレビ画面に見慣れた母の部が映しされた。父の写真の裏から撮されたあの映像だ。画面の隅には付と刻がはっきりと表示されている。
そして部に入ってきた男がえ切った目で母を見ろし、あの恐ろしい言葉をにする面が始まった。
「お母さん、今夜こそいしていただけましたか?」
直さんのくたい声がリビングに響き渡る。
テレビ画面の自分を見た直さんの顔から、さっと血の気が引いていくのが分かった。
「なんだこれは?でっちげだ。盗撮じゃないか、肖像権の侵害だぞ!」
彼はわめき、なことを叫んでいる。しかし、もう誰も彼の言葉にを貸すものはいなかった。
映像は続く。直さんが母の麻痺したを無造作に掴み、ぐっと力を込める。母の苦痛に歪んだ顔が画面に映しされた。
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