"父の残した翼" 第6話
母の部で汗だくになっているのも、本当に必でマッサージをしているからで、母が怯えているように見えたのは私の考えすぎなのかもしれない。
そうであってほしい。どうか私のこの見苦しい疑いがただの気のせいであってほしい。
何度ものでそう繰り返したが、度芽えてしまった審の種はと共にどんどんきく育っていく。
私はそっとソファからちがり、音をてないように母の部のドアへとづいた。たいドアの取っにをかけ、ゆっくりと回してみる。
しかし、やはり内側から鍵がかかっており、ドアはしもかない。 私はドアにをそっと押し当て、の様子を伺った。
最初は何も聞こえなかった。シーンと静まり返った部の静寂が、逆に私のを掻きてる。 しかし集していると、やがて音が聞こえ始めた。 それはの声だった。のがひそひそと何かを話している。 は夫の直さんの声。そしてもうは違いなく母の声だ。
声はこもっていて、何を話しているのかまではっきりと聞き取れないけれど、その雰囲気からのの張り詰めた空気が痛いほど伝わってきた。 直さんの声はくたく、何かを質問しているようだった。 私が普段聞いているあの温で優しい彼の声とは全く違う。
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まるで別のようだ。
そして母の声は途切れ途切れで、何かに耐え、許しを請うように震えていた。 折り母の押し殺したようなうめき声が漏れる。 そのうめき声を聞くたびに、私の臓はギュッとわし掴みにされるような痛みに襲われた。
私はさらにドアにを押し付け、神経を集させた。 すると会話の断片が悪のように私のにび込んできた。
「だから約束が違うと言っているんです、母さん」 直さんの苛ちを抑えた声。
「ごめんなさい。でもあのおだけは……」 母のかき消えそうなほどか細い声。
「ゆみには絶対に言うなとじましたよね。なぜあんな所に隠しておくんですか?危うくゆみに見つかるところだったんですよ」
「あれはあの子、ゆみのためにお父さんが……」
「もうくなったのことなんてどうでもいいでしょう。それよりも今をきている僕たちの活の方が事だといませんか?」
言葉のがすぐには理解できなかった。 約束、隠した、父が私のために……。 が混乱し、目のがぐらりと揺れた。
彼らは私に隠れておの話をしていたのだ。 それも穏やかではない雰囲気で。 直さんの声のトーンがさらにく、威圧になった。
「いいですか、母さん。僕とゆみは結婚した以族なんです。族のは族みんなのものだ。
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違うなんて言わせませんよ」
「やめてください、直さん。マッサージをすればいしますか?お父様がどこにそれを隠したのか。くしないと僕もいつまでも優しくはいられませんよ」
「マッサージ」。 その言葉を聞いた瞬、全の血が逆流するような覚に襲われた。 彼が毎晩汗だくになっていたのは、マッサージなどではなかった。 あれは体の自由な母を脅し、何かを吐かせようとするための拷問だったのだ。
だから母の腕にはあざがあった。 だから母は私に何も話せず、ただ黙っていたのだ。 そして母が守ろうとしているおとは体何なのか。父が私に残したものを。
もうこれ以聞いていることはできなかった。 私は静かにドアかられ、震えるでリビングのソファへと戻った。 りとしみ、そして夫への底れぬ恐怖で体の震えが止まらない。
あの優しい笑顔、あの温かい言葉、その全てが偽りだった。 彼は最初から私ではなく、私の実に眠るが目だったのだ。
私は覚悟を決めた。 今部にび込んでいっても、彼はまた嘘で塗り固めるだろう。 母は恐怖で何も証言できないかもしれない。 必なのはかぬ証拠。 あのカメラに記録された映像だけが、彼の仮面を剥がす唯の武器になる。
私は夜がけるのを待つことにした。
夫がく眠り、のが完全に静寂に包まれるのを。息を殺して待つのだ。
いいが過ぎた。 計の針が夜のを指した頃、隣の部の鍵が静かにく音がした。
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