"銀の指輪の応募者" 第3話
コツコツと、抑制の効いた厳格な靴音が理のに響き渡る。黒い級スーツを着た随員4をに従え、1の女性がゆっくりと歩みてきた。
川ふみ子。建設の最権力者であり、財閥の会だった。
60歳という齢を切じさせないほどに背筋が真っ直ぐに伸び、鋭い目つきをした女性だった。唇は常に固く結ばれ、その顔ちは理の彫刻のようにたく、皇のような威厳を放っていた。
業界において、ふみ子はまさに「伝説」と呼ばれる物だった。
これまでの半で、涙滴流したことのない徹な経営者。並み居る男たちも震えがる取締役会で、眉つかさずに数千億円規模の決定をす「鉄の女」。その卓越した腕によって、建設を本の建築業界の頂点へと引きげた張本だった。
彼女がロビーに姿を現した瞬、そのの空気が瞬にして凍りついた。
面接待席に座っていたエリート応募者たちが、反射に席からちがり、腰を90度に折ってくをげた。案内の職員たちはをげたまま両をに揃え、ロビーをき交っていた役職員たちは、壁際へとさっと寄ってをあけた。
息をすることさえ躊躇われるほどの静寂が、ロビー全体をみ込んでいく。先ほどまでユトを指差してクスクスと笑っていた応募者たちも、転してを固く結び、線をへと落とした。
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ふみ子は無表のまま、ロビーを横切って歩いた。
今は面接の状況をしだけ確認し、そのまま部のな会議に席する予定だった。彼女の線は正面だけを向き、周囲の些細な騒ぎなどには切目もくれないつもりだった。
しかし、ロビーの片隅で起きていた騒が、彼女の界の端に入った。
に膝をつき、散らばったいを必に拾い集めている、みすぼらしいなりの男。そして、その背に結ばれた古いおんぶ紐と、そのでしげに泣き叫んでいるさな赤ちゃん。
ふみ子はその景を何気なく瞥し、そのまま通り過ぎようとした。面接会で騒ぎを起こすような届きな応募者なら、事部がマニュアル通り適切に処理するだろうと考えたからだ。
しかし、まさにその瞬だった。
警備員のを振り払い、くしゃくしゃになった図面を胸に抱きしめていたユトが、ゆっくりと顔をげた。
事部を見げ、何かを訴えかけようとするかのように、顎をぐっとげたのだ。彼の両目は真っ赤に充血し、涙で激しく潤んでいた。しかし、その瞳の奥には、どんな理尽な状況にあっても決して消滅しない、頑固で、をうように力いが宿っていた。
その瞳が、歩いていたふみ子の線と、真正面からぶつかりった。
「……っ」
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ふみ子のが、ピタリと止まった。
いや、止まったのではなかった。全の細胞が、同に凍りついたのだ。
まるで背からバケツ杯の氷を浴びせられたかのように、のてっぺんから爪先まで、激しい戦慄が稲妻となって彼女の体を貫いた。
あの目つき。芯の通った美しい目尻と、しっかりとしたい筋。そして、当でしい状況に置かれても、決してにをげないさ。世ののいかなる理尽のでも、自分の信を曲げようとしない、あの特の頑固な表。
ふみ子は、息をすることさえ忘れていた。
それは、25にくなった、彼女のする夫の若い頃の姿そのものだった。
誰よりも正直で、誰よりも頑固で、だからこそ、ふみ子がで誰よりもくしたあの男性の顔が、25といういを突き抜けて、今、目のにきてしていた。鳥肌が背筋を激しく駆けがる。
ふみ子の瞳が微かに震え始め、固く結ばれていた唇のから、かすかな吐息が漏れた。
「違う……そんなはずは、ない……」
背から、彼女の異変を察した秘の伊藤が、用い声で尋ねた。
「会、どこかお加減が悪いのですか? お顔が優れませんが」
しかし、ふみ子の線は、に膝をついたまま図面を抱きしめているユトの顔に、完全に釘付けになっていた。
事態を把握した事部が、真っ青な顔で慌てて駆け寄ってくると、ふみ子ので腰をく折った。
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