みかん小説
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"柿の木の下の守護" 第10話

チラシがに晒されてボロボロになれば、彼女はまたしいものをカバンに詰めてへと向かった。 指先が糊とテープでカサカサに荒れ、ひび割れて血が滲むまで、彼女はでの貼り付けを止めなかった。 夜、駅のたいで膝がすっかりえ切るまで、彼女は歩き続けた。 京駅、阪駅、名古駅、博駅。 義母の古びた靴の跡が向かわなかった主な駅は、本国内にただの1つもしなかった。

彼女は駅の改札で、に通り過ぎる通勤客のを1ずつ引き止め、娘の写真を必に差しした。 「すみません、もしかして、この女性を見たことはありませんか……? 私の娘なんです。2007の5に、京のマンションから突然いなくなってしまいました。どうか、1度だけで良いので、お顔を見てやってください……」

々は、ほとんどが面倒そうに首を横に振り、彼女のを振り払って通り過ぎていった。 には、渡されたチラシを目のでクシャクシャに丸め、数メートル先のゴミ箱へと酷に投げ捨てる若者もいた。 義母はそれを見つめながらも、ることもなく、また次の通に向かって、震えるしいチラシを差しし続けた。 を切るような、娘への狂おしい恋しさだけが、彼女の衰えた両かす唯の原力だった。 しかし、どれほど歩き回っても、戻ってくるのは娘のらせる報ではなかった。

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に、穏な噂話がち始めたのは、みさの失踪から2ヶが経過した頃だった。 最初は、井戸端会議でのひそひそ話に過ぎなかった。 それが徐々に声をきくし、壁を伝って、ついに実にいる義母のにまで直接届くようになった。 あるの午、買い物カゴをに持って所のスーパーへかけた義母の背から、ち話をしていた所の主婦たちの鋭い声が聞こえてきた。

「ほら、あのの娘さんね……。聞いた話だと、実の資産を勝に持ちして、若い男とへ駆け落ちしたらしいわよ。旦さんはあんなに優秀な検事さんなのに、世の邪魔をするにも程があるわよね」 義母の歩みが、アスファルトのでピタリと凍りついた。 「本当よね、旦さんが必に涙を流して探しているのに、当の本は男と豪遊しているっていうんだから。今の世の、あんなが儘な女の子がいるなんて、親の顔が見てみたいわ」

義母はろを振り返らなかった。 声を荒げて反論することも、顔をげて彼女たちを睨みつけることもしなかった。 ただ、買い物カゴのプラスチックの取っを、指の骨がくなるほどく握りしめ、を向いたままゆっくりと歩みをめた。 に戻り、玄関の鍵を閉めて娘の部のドアを閉めてから、ようやく義母はそのに崩れ落ちた。

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彼女は声をさずに、喉を詰まらせて激しく泣いた。 棚に並んだ漢方薬の袋をおしそうに胸に抱き寄せ、で獣のように体を丸めて震えた。 それは、目から流れる血の涙だった。

が流れた。 が来てが過ぎ、葉が散ってが溶けた。そしてもう度、が来た。 が変わるごとに、周囲の民たちの線は、同から酷な拒絶へと変わっていった。 義母を見つめる民の差しには、れみの代わりに、犯罪者の族を見るかのような居の悪さが骨にこもるようになっていく。 「娘が実を持って男と逃げた、名誉なの母親」という烙印は、どれほどが経っても坂の町から消えることはなかった。

義母はその条理な烙印を、自さな体ひとつで静かに受け止め続けた。 決して、周囲に言い訳や反論はしなかった。 「私の娘は、そんな破廉恥なことをする子じゃありません」という叫びを、数百回、数千回も喉元まで込みげさせては、涙と緒に胃の底へとみ込んだ。 代わりに、彼女は毎にパチリと目を覚ますと、暗い仏の畳のにひざまずき、両わせた。

「神様……。うちのみさが、今どこでどうしているのか、どうか教えてください。もしきているのであれば、私のこの命と引き換えに、どうか無事に連れ帰ってきてください。

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