"半纏に縫われた遺言" 第29話
唇をどれほどく噛み締めても、胸の奥底からの激しい嗚咽の音が、喉の奥から漏れしてしまうのを止めることができなかった。
栃の奥の、あの酸っぱい匂いのする施設で、バカのふりをして毎耐え忍んでいたも、決して流さなかった涙が。 級料亭の個で、が子に向かって「破産しなさい」と酷に言い放ったも、必に胸の奥に堪え続けていた職の涙が。 この目のの、たった12歳の子供が放った話の、たった言の優しさによって、堤防が決壊したかのように、すべてが気に溢れて止まらなくなった。 私は涙のせいで息が詰まり、しばらくの、次の言葉を何も返すことができなかった。 受話器の向こう側からは、私の異変を察した桜が、「おばあちゃん……? おばあちゃん、丈夫……?」と、配そうに何度も呼びかける声が聞こえていた。
私は裁士のエプロンで顔の涙を乱暴に拭い、ようやく息をえて、受話器の向こうの子供に向かって、はっきりとした職の声を届けた。 「……何言ってるんだい、うちの桜の全財産なんてものはねえ……! このおばあちゃんが、今ここで、1円も残さず全部もらうに決まってるじゃないかねえ……! 500円玉1枚だって残さず、全部私がもらうからね! だから、の朝番に、荷物をまとめておいで、おばあちゃんが温かいおへ、あなたを迎えにくからね!」
広告
話を切ったも、私は激しいの昂ぶりのせいで、しばらく受話器をフックに戻すことすらできなかった。 田健がすぐに配そうな顔をして、湯呑みに注いだ温かいを持ってきてくれたが、私の両は激しく震えており、湯呑みを受け取ってをむことすらままならなかった。 しばらくすると、事務所のいドアがき、廊から桜が勢いよく駆け込んできて、私の膝のの半纏のに、そのさな顔をく埋めて抱きついてきた。 子供の柔らかな髪からは、浅のがとは違う、ビジネスホテルの固い鹸の匂いが漂っていた。 田健が、昨夜保護したに、子供をくのホテルのお呂に入れて、しい綺麗なを着せておいてくれたようだった。 私は、膝のの桜の細いを何度も、何度も優しく撫でまわしながら、ので国の夫に向かって、くく語りかけた。 (……あなた。あなたの命がけで守ろうとしたこの切な命はねえ、今から私が、この命に代えても引き受けたよ。国から、私たちのこれからを、じっと見守っていておくれかねえ)
それから1ヶ、裁判所の法廷で、裕たちに対する正式な刑事判決がされた。 公正証原本実記載、同使、産詐欺未遂、および齢者に対する保護責任者遺棄致傷の罪がすべて完璧に認められたのだ。
広告
息子の裕には「懲役26ヶの実刑」、嫁の美には「懲役16ヶの実刑」の、執猶予のない極めてい実刑判決が言い渡された。
裁判官が、厳格な声で判決文を法廷内に読みげる、私は傍聴席の番ろの列の隅に、黒い半纏を着て静かに腰掛けていた。 判決がされた瞬、錠をかけられた状態の裕が、ゆっくりとろを振り返り、傍聴席の私の方をじっと見つめた。 奥の介護施設でも、浅の級料亭ののでも、私の線からずっと逃げて目を背け続けていたが子が、48のので初めて、母親の目を真っ直ぐに見つめ返してきた。 その息子の瞳の奥には、私へのみやりのは、微もしなかった。 ただ、親を裏切り、犯罪にを染めてを滅ぼしたことへの、く、果てしない、凄まじい羞恥だけが、そこに静かに満ちていた。 私は、その息子の差しから、今回は目を背けなかった。 彼をれんで目を逸らすこともせず、かといって、許しの図として頷くこともしなかった。ただ、の職の目として、彼の破滅の瞬を、徹にその両目に焼き付け続けた。 裕は、そのまま刑務官のによって肩を押され、項垂れながら、法廷のにある暗い連通へと連れられていった。
破産した息子夫婦が、拘置所ので、桜の今の親権および養育権を完全に放棄する親権割譲類に、錠をされたで静かに実印を押した。
広告
おすすめ作品
-
完結第31話
柿の木の下、三十年の帰郷
私が 18 歳の時、何も母に告げず密かに自衛隊へ入隊した。 荒れた訓練と幾多の任務を乗り越え、ちょうど二十年後、副司令となって故郷へ戻った。 村の入り口に足を踏み入れた瞬間、目の前の光景に足が止まった。 母が悪徳な村人たちに囲まれ、地面に頭をつけ土下座させられていたのだ! 二十年、私は遠くで出世を重ねた。 権力も地位も手に入れた今、誰一人母を傷つける者は許さない。 長年積もった悔しさと親子の絆が爆発する復讐帰郷物語、開幕。人生逆転|裡切られた|怒り|金銭問題4.7萬字5 170 -
完結第25話
妻のポーチから見つかった結婚指輪
結婚二十二年。 私は、自分たち夫婦ほど平凡で幸せな家庭はないと信じていた。 仕事を頑張る妻を支え、娘を育て、老後のために二十年以上かけて少しずつ貯金を続けてきた。 それが私の人生だった。 だが、妻の出張帰りの荷物を片付けた、たった一度の善意が、その人生を根底から覆すことになる。 下着のポーチの奥から見つかった黒い箱。 その中には、見知らぬ男との結婚指輪と、私たちの老後資金二千百五十万円が入った、別名義の預金通帳が隠されていた。 愛していた妻。 二十年以上親友だと信じてきた男。 そして、私だけが何も知らないまま利用され続けていたという残酷な真実――。 これは、一人の夫がすべてを失い、すべてを取り戻すまでの記録である。真実|裡の顔|真相|ATM扱い|金銭問題|修羅場3.8萬字5 160 -
完結第18話
浴室の鍵
「どうして、お風呂のたびに鍵をかけるの?」 その小さな違和感が、家族のすべてを壊す始まりだった。 認知症の母を介護する専業主婦・ゆみ子は、夫の紹介で甥の達也に介護を手伝ってもらうことになる。 礼儀正しく、優しく、介護の知識も豊富な達也。 誰もが彼を信頼していた。 だが、浴室の鍵が閉まるたび、母の表情は恐怖に変わり、身体には説明のつかない痣が増えていく。 誰にも信じてもらえない中、ゆみ子は密かに証拠集めを始める。 そこで明らかになったのは、高齢者虐待だけでは終わらない、家族の欲望と裏切りだった。 最後に暴かれる真実は、あなたの想像を超える。真実|裡の顔|真相|親子関係|介護|修羅場2.7萬字5 427 -
完結第6話
レジ越しの再会
68歳の幸子は、年金10万円の暮らしを支えるため、今もスーパーのレジに立っている。 ある日、彼女の前に現れたのは、5年前に喫茶店で幸子の年金額と仕事を笑った友人・道代だった。 かつては海外旅行や積み立ての利益を語り、余裕のある暮らしを誇っていた道代。けれど再会した彼女の買い物かごには、半額の惣菜と安い食パンが入っていた。 「まだ働いてるのね」 5年前と同じ言葉。だが、その声にはもう、あの時の軽さはなかった。 レジに残されたポイントカード。そして、その下に挟まれていた一枚の紙。 そこには、たった一言だけ書かれていた。 「相談があります」 5年前、笑っていた人に何が起きたのか。 同じ喫茶店で向き合った二人は、老後のお金、後悔、そして人を笑うことの本当の意味を知っていく。孤獨|金銭問題8.6千字5 1 -
完結第5話
別室で食べてと言われた母
「母さんは、ここで食べないで」 週末の夕食、佐々木陽子は自分が作った料理を前に、息子からそう告げられた。 三十年間、一流ホテルでフレンチの調理師として働き、息子の教育費も住宅購入も支えてきた母。 それでも嫁は、陽子の料理を「古い」「衛生面が心配」と見下し、ついには家族の食卓から別室へ追いやった。 リビングから聞こえてくるのは、陽子が作った料理を囲む家族の笑い声。 その夜、眠れずにいた陽子は、息子夫婦と夫の本音を聞いてしまう。 「お母さんはお荷物でしょう?」 さらに彼らは、陽子を施設に入れ、実家の土地を売る計画まで話していた。 その瞬間、陽子の中で何かが静かに終わる。 翌日、彼女は弁護士のもとへ向かった。 退職金三千万円、実家の土地八千万円、株式二千万円。 合計一億三千万円を超える財産は、すべて陽子個人のものだった。 そして彼女は決める。 財産も、尊厳も、これからの人生も、もう誰にも渡さない。 全財産を守ったまま実家へ戻った陽子は、再び包丁を握り、料理教室を開く。 一方、母を“お荷物”と呼んだ息子家族の日常は、静かに崩れ始めていく――。親子関係|介護|金銭問題7.0千字5 29 -
完結第5話
たった五万円と言われた夜
孫の成績祝いに、田中かよは息子夫婦と孫を高級寿司店へ招待した。 年金暮らしの彼女にとって、5万円を超える会計は決して軽いものではなかった。 それでも、孫が喜んでくれるなら十分だと思っていた。 しかし席に着いた瞬間、嫁の美咲はかよを家族の輪から外すように、カウンターの端へ座らせた。 息子の賢一もそれを止めず、食事中も誰もかよの言葉に耳を傾けない。 そして会計を済ませた直後、かよの耳に届いたのは、あまりにも冷たい一言だった。 「たった五万で恩着せがましい顔する気なのかな」 さらに息子は笑いながら言う。 「母さんが払いたいんだろ。ありがとって言っとけばいいんだよ」 その瞬間、かよの中で何かが静かに折れた。 夫を亡くしてから、息子家族のために家を売り、借金を支え、生活費まで負担してきた十年。 けれど彼らにとって、かよは家族ではなく、都合のいい財布でしかなかった。 翌朝、かよは通帳、契約、名義、すべてを整理し、最低限の荷物だけを持って家を出る。 誰にも告げず、誰にも頼らず、別のマンションで一人暮らしを始めるために。 「今日から、私の人生」 そう呟いたかよの静かな反撃が、息子夫婦の日常を少しずつ崩していく――。ATM扱い|絶縁|親子関係6.9千字5 15 -
完結第4話
年金十二万円の老人の正体
川崎の銀行窓口に、古びた作業着を着た75歳の老人・西川誠三がやって来た。 海外出張中の息子に頼まれ、正式な委任状を持って残高確認に訪れただけだった。 しかし若い行員は、誠三の年金額と市営住宅の住所を見た瞬間、彼を見下した。 「年金十二万の貧乏人が、何しに来たんですか?」 さらに支店長まで現れ、老人を詐欺師扱いし、ついには言い放つ。 「ボケ老人は銀行に来るな」 誠三は怒鳴らなかった。 ただ静かに銀行を出て、一本だけ電話をかけた。 相手は息子・西川雄一。 全国に関連会社を持つ巨大建設グループの社長だった。 「みずほ第一銀行との取引を停止する」 その一言で、銀行本店に緊急アラートが走る。 総額一兆円規模の取引が一斉に止まり、翌朝、銀行役員たちは50台の黒塗り車で誠三のもとへ謝罪に向かった。 だが、彼らがどれほど頭を下げても、一度踏みにじった老人の尊厳は、簡単には戻らなかった――。年金|退職金|金銭問題5.9千字5 7