"三輪山に消えた家族" 第10話
そして、あいつのから漏れた、『子供だけは……子供たちだけは助けてくれ』という、涙ながらの懇願が、わしのを激しく揺さぶったんや……」
葉は縁側の目をく握りしめた。 「この輪の麓のから、子供の鳴ががるような、そんな惨な事態だけは、絶対に起こしてはならん。のとしてのプライド、いや、1のとしての矜持が、の個な憎しみを完全に回った瞬やった」
その夜、葉は誰にも見られぬよう、密かに正隆を自分の敷に呼びし、驚く彼に向かって、たった言「逃げろ」と告げた。 「わしが、おたちの逃を助けする」 の宿敵からの、いもよらない命がけの申しに、正隆はただ呆然とし、やがてに崩れ落ちて、男泣きに激しく泣き崩れたという。
あの、を震撼させた「神隠し騒」は、そのから始まった、葉夫妻による命がけの偽装作だったのだ。 が借取りから追われることなく、忽然と消えたように見せるため、まな板のネギや急須をそのままにし、「常が唐突に断ち切られた朝」を完璧に演した。組織の目を欺き、警察の捜査を混乱させるため、葉はあえてで「波野はに汚い、夜逃げしたんだ」と、彼らの悪評を自ら流して回ったのだという。
「夜逃げだ、夜逃げだと、わしが騒ぎてることで、自らが波野を追い詰めた第容疑者であるかのように振るった。
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まさか、この葉が、宿敵の逃を裏で全力で助けしているとは、組織の連にも、の誰にもわせないための、捨ての作戦やったんや」
裕は、全から急速に力が抜けていくのをじた。自分が「最の敵」だとい込み、憎んでいた男が、実は叔父の命を文字通り救った、唯の恩だったのだ。 「あの子守唄は、計画決の図やったんや。千代子さんが、の周りに組織の見張りがいないことを確認して、倉のからわしに無事をらせるためのな……」
その必な声を裏で聞いた葉は、に乗じて倉の裏をけ、を密かに自分のに乗せた。そして、夜のに紛れて、誰にもられぬ険しいをみ、彼らを遥かくの全な駅まで送り届けたのだという。 「それが、わしが見た、あいつらの最の姿や……」
告を終えた葉の横顔は、25というい歳と、誰にも言えないい秘密をたった1で背負い続けた、男のい孤独に満ちていた。葉がそっと入れ直してくれたお茶の温かさが、裕ののひらにひどく優しくじられた。 これまで憎んでいた相への申し訳なさと、像を絶する凄まじい覚悟で族を守ってくれたことへのい謝で、裕の胸は張り裂けそうだった。座敷に差し込むが、彼の方を伝うい涙を、静かに、優しく照らししていた。
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失踪の謎は、完全に解けた。だが、最のピースが、まだ埋まっていなかった。 すべてが葉の完璧な計画の元にわれたのだとしたら、母親の千代子は、なぜあのなを、わざわざ物置の桐箱のに隠しておく必があったのだろうか。
宿敵であったはずの男が、実は命の恩だったという衝撃の事実は、裕の世界を根底からひっくり返した。葉正という男が、25たった1で背負ってきたもののさをうと、適切な言葉が見つからなかった。 父親の正隆が犯してしまった融取引の過ち、母子の絶望、そして子供たちの未来。そのすべてを、この男はたった1で受け止め、守り抜いてくれたのだ。 裕は座敷の畳ので、葉に向かって何度も、何度もくをげ、涙で濡れた声でからの謝を伝えた。葉はただ黙って、めかけたお茶をすするだけだった。
「ですが……」 裕はゆっくりと顔をげた。 「まだ、どうしても分からないことがあるんです。叔母はなぜ、あんなを残したのでしょうか。すべてがあなたの計画通りにんでいたのなら、あんな謎めいた暗号を、わざわざ箱に隠す必はなかったはずです」
裕がポケットから取りしたあのを、葉は初めて目にしたかのように、じっと見つめた。そして、「巳のにあの所へ」
という最初の文に目を留めると、その峻烈な顔に、い納得と、どこか堵したような穏やかな表が浮かんだ。
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