"柿の木の下、三十年の帰郷" 第31話
テレビから鐘の音が聞こえてきた頃、母は編み針を止めて言った。息子、またしいだね。
うん。またしいだ。でパーン、パターンとの音が響いた。の子供たちがはしゃぐ声が聞こえる。私はちがって庭にた。の空にくさなががって、そして消えていった。すぎて音はあまり聞こえない。
母もついてきてダウンコートの襟をわせながら隣でを見た。町でもをげるようになったんだね。昔は駐屯のある町の方でしか見れなかったのに。暮らしが豊かになったんだよ。母は何も言わずしばらくを見てから部に戻った。
私も戻り、テーブルのの器を片付ける。台所でお湯を使って洗う。湯気ので台所の気がしぼやけて見えた。洗い物を終えると母が眠くなったというので先に寝させた。母は布団に入り毛布をかぶって言った。あんたもく寝なさいよ。すぐ寝るよ。
母は目を閉じ、すぐに規則正しい寝息をて始めた。私は布団の端に座り、しばらく母の寝顔を見つめていた。枕に散らばった髪が気のにあたってし赤みを帯びた。気を消し、布団の反対側に潜り込んだ。窓のでは折りの音がくくで響いていた。
暗ので母が寝返りを打ち、何かを呟いた。寝言のようだったが、よく聞き取れなかった。
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私は目をけたままこののことを振り返った。番くいすのは、訓練で柄をてたようなきな来事ではない。こののの些細な常ばかりだ。
バイクでる田舎、夜の台所の柔らかいかり、柿のので野菜を洗う母の姿。そして話にたのあの「もしもし」という柔らかい声。窓からかりがしだけ差し込んだ。私も寝返りを打ち、い眠りに落ちた。
翌朝、母はく起きて台所で朝の準備をしていた。私が起きる頃には温かいお雑煮がテーブルに置かれていた。丸くていお餅が汁ので浮いている。私はテーブルに座り、お餅をすくった。くてふーと息を吐く。
母は向かいに座り、ゆっくりべなさい。元々慌てるよと笑った。お餅は柔らかく甘い汁がのに広がった。私が半分ほどべても母はまださなでしずつべていた。窓ののは、のから登った太陽が庭のをく眩しく照らしている。
柿のの枝に積もったがが吹くたびにハラハラと落ちる。母は箸を置いて言った。健、今の抱負はあるかい?し考えて答えた。特別なことはないよ。仕事が終わったら帰ってきて根を直したり、になったら畑を耕したりするさ。
仕事の方は今まで通りさ。定までまだ何もあるから焦らずやるよ。
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母は頷き、器を持ちげて最のをみ干した。元を拭って母は言った。あんたはこの何で分に頑張ってきたんだから、これからは落ち着いて穏やかに暮らすのが番だよ。
ああ、そうだな。私は器をねて台所へ運んだ。洗っていると母が隣にやってきた。私が洗い物を終えると庭のかきをした。から台所までのを綺麗にする。母は台所の入りにち、温かいお茶をみながら私を見ていた。
かきが終わり、スコップを壁にてかけ、のを払って部に入った。母が干し柿で淹れた温かいお茶を渡してくれた。のに干した柿を使ったお茶で、ほんのりと赤くづいている。むと温かさが喉からお腹へと広がった。
庭は静かで、軒先から解けがポタポタと落ちる音だけが聞こえる。太陽がく登り、が溶け始めた。柿のに積もったも滴に変わり、ポタポタとのに落ちる。私は湯呑みを持ち、入りにって庭のが溶けていくのを見ていた。黒いが顔をしている。
ヶもすれば面が柔らかくなり、畑を耕せるようになるだろう。柿のも芽吹き、枯れた枝のからしい緑の芽がるはずだ。母が部から呼んだ。お昼は何にする?母さんが決めてよ。じゃあ打ちうどんを打とうか。
元には寿を願ってうどんをべるもんさ。
いいね。
母はエプロンをに着け台所へ入った。まな板に麦を撒き散らす。私も入ってをこねるのを伝った。ストーブにはもうがついていて、台所全体が温かさに包まれた。窓ガラスが曇り、私は指で本の線を引いた。
その線の隙から庭のが溶けていくのが見えた。を麺棒で伸ばし切って鍋に入れる。母はいお玉で鍋をかき混ぜる。い湯気が顔にかかり、母は目を細めた。
茹でがったうどんを器に盛り、ぷらを添えてテーブルに運ぶ。私は箸を受け取り、湯気のつうどんをすする。もちもちとした腰があるねと言った。私もすする。歯応えのある麺は母がをかけて丹にこねたからだ。ストーブの鍋からは絶えなく湯気ががっている。
テーブルのに分のうどんの器が並び、私たちのがづく。窓ガラスに残った指の跡から、庭の柿のの枝が見える。はもうすっかり溶けてなくなっていた。
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