みかん小説
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"柿の木の下、三十年の帰郷" 第29話

私が発した、母は見送りに来てくれなかった。駅のホームに私を見送ってくれるは誰もいなかった。悔はないかと考えた。何もないと言えば嘘になる。

に着くと母は庭で洗濯物を干していた。私を見て登録できたかいと聞いた。できたよ。そうか。それならよかった。私は母の伝いをして洗濯物を枚ずつ針ハンガーにかけていった。シーツを広げるとに吹かれて帆のように膨らむ。差しが濡れた布を通して柔らかくに散らばる。

洗濯物を干し終え柿のに座ると母もやってきてキュウリを本渡してくれた。畑で採れたばかりでまだトゲトゲしている。かじるとパリッといい音がした。息子、あの子の登録に同している、何を考えてたんだ?俺が自分で登録しに町へったのことをしてた。それであの子に忠告したのかい?言ったよ。親に隠し事をするな、ちゃんと話しえってな。

母は頷き、自分もキュウリをかじった。パリッと音が響く。私はキュウリをかじりながらの柿のを見げた。葉はもう半分ほど落ちてまばらになっている。今の柿はすでに収穫し、干し柿に加し瓶に詰めてある。お正べるのが楽しみだ。

差しはそれほどくなく、体に当たるとポカポカと温かい。

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くの々は黄や赤にづいている。が吹くと枯れ葉がい落ちる。母は背もたれにもたれて目を細め、半分べたキュウリを膝に置いていた。

母さん、あのもし俺がなかったら今頃どうなってたかな?母は目を閉じたまま言った。なかったらここで畑仕事をして嫁をもらって子供を育て、おじいさんたちと同じような平凡な活をしてただろうね。それも悪くないな。何がいいもんか。の世界をらないままでいたら、の奥にずっと界への憧れが残ったままになる。

回りしてから故郷に帰ってくるのと、このでくすぶり続けるのとはわけが違うんだよ。私は目を閉じている母の横顔を見た。髪はより増えているかもしれないが、表は穏やかになっていた。い髪を揺らし、額をなでる。母の言葉が正しいのかどうかは分からない。ただ戸籍を持ちしてしたあのから回りをしてきな円を描き、最にはまたこの柿のに帰ってきたのだということだけは確かだ。

昔と違うのは、もうしたいとはわないことだ。キュウリをべ終え、皮を庭の隅に捨てる。いていて、から子供たちの音や犬の鳴き声が聞こえる。

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どこかのから夕飯の調理に使う油の匂いが漂ってきた。

母が目をけて言った。夕飯は何がいい?母さんは何がべたい?うどん鍋がいいね。えてきたから温かいものがべたい。分かった。俺がを作るよ。がって台所へ向かう。母もゆっくりとした取りでからついてくる。庭に落ちた柿の枯れ葉を踏むとカサカサと音がした。

台所の気をつけると、オレンジの温かいが部面に広がる。私がをこね、母が卵を割る。まな板のに麺団を置き、で並んでつ。鍋に沸騰したお湯を張ると、い湯気が顔にふわっとかかった。母が窓をけると、たいが入り込み、台所の麦のりと混ざりう。

お玉で鍋をかき混ぜながら母が言った。息子。うん。こういう々も悪くないね。私は何も言わず母からお玉を受け取り、鍋をかき混ぜ続けた。鍋ののうどんがグツグツと煮え、溶き卵が黄のように散らばる。

器に分よそいテーブルに運んだ。箸を並べ、真んに漬物の皿を置く。母は向かい側に座り、器を持つさで指をし引っ込めて息を吹きかけた。ゆっくりでいいよ。分かってるよ。

は暗くなり、庭の柿のはぼんやりとしたシルエットになっている。くのも黒い輪郭だけになり、空にはがポツポツと見え始めた。

私はうどんスープをんだ。くてツルツルと喉を通る。母もみ、塩加減がちょうどいいねと言った。

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