"柿の木の下、三十年の帰郷" 第11話
母はしを縮め、寝言のように「かないで」と細く呟いた。
「かないよ。」
と声で答えたが、母はすでにい眠りに落ちていた。
私は布団の横に座り、母の穏やかな寝顔を見つめた。
子供の頃私がをした、母はこうして晩私を見守ってくれたのと全く同じ姿だ。
今は完全にが逆転している。
窓のでたいが吹き、々の葉がざわざめく音が響いた。
その先には真っ暗な々がどこまでも広がっている。
はたけしのへき、直接はっきりと話をつける必がある。
庭の入れも済ませたいし、壊れたの扉も交換しなければならない。
台所の根の瓦も何枚か緩んでいる。
もうしが経てば異の正式な続きや、引っ越し先のまい探しもある。
だけど焦ることはない。全部考えればいい。
窓のから鳥のさえずりがしずつ聞こえ始めた。
夜けがづいている。
くで鶏の鳴き声が響いた。
私はちがって台所へき、ストーブにを起こしてお湯を沸かした。
のあの朝と全く同じように、鍋や薪がガチャガチャと音をてながら焚きが燃えがる。
はまだ暗く、さな炎が鍋の底を優しく舐めるように燃えていた。
私はしゃがみ込んで次々と焚きをくべた。
鍋のお湯がグツグツと激しく湧き、穏やかな湯気のいい匂いがに漂ってくる。
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で度目の鶏が鳴き、のあちこちで々が起きす気配が漂った。
母が布団から起きがり、私の名を呼んだ。
私が台所から返事をすると、靴を履いた音がゆっくりづいてくる。
歩、また歩。
母は台所の入りにち、かまどのにしゃがむ私を見て、でも見ているかのように瞬ち尽くした。
「できたよ。」
私は湯の入った器をテーブルに運んだ。
母は棚から漬け物の壺を取りし、細かく切って皿に乗せた。
さらに卵をつ取ってきた。
「漬け物だけで分だよ。そんな気を使わなくていいのに。」
「めったに帰ってこないんだから、しはいいものをべなさい。」
目玉焼きは半熟で、箸でつつくととろとろの黄が流れした。
母は自分の分の卵も私の器に移した。
「母さんもべなよ。」
と私がそっくり戻す。
私たちはテーブルに向かいい、黙々とお茶をんだ。
はどんどんるくなり、庭の柿ののが計回りにゆっくり移った。
べ終わり、私が器を洗っていると母は縁側に座って言った。
「あんたので器なんか洗わせるわけにはいかないよ。」
「俺は何でもできるんだ。駐屯で毎過酷な訓練ばかりしてるとってるのか。」
母はさく笑い、それ以は止めなかった。
を拭きながら私は言った。
「たけしのにってくるよ。
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」
母の穏やかな笑顔が瞬消えた。
「なんでくんだい?」
「きっちり話をしておかないと。」
「をさないでおくれ。」
「さないさ。」
をて向へみ、をつ抜けるとたけしのに着いた。
庭はうちの庭よりも荒れ放題で、塀の部は崩れ、焚きが乱雑に積まれている。
たけしは庭で顔を洗っているところだった。
音に気づいて顔をげ私を見るとが激しく震え、タオルを洗面台に落とした。
私はの入りにち、には踏み入らなかった。
「たけし、し話がある。」
彼は慌ててちがり、ズボンで濡れたを拭いた。
顔には昨夜の恐怖がまだ鮮に残っている。
「昨夜は酒をんでいたから、その件についてはこれ以追求しない。だがこれだけははっきり言っておく。度と俺の母さんにづくな。」
彼はをきかけたが、私の肩に付いた階級章を見て言葉をみ込み、コクコクと頷いた。
「もし何か困ったことがあれば俺に言えばいい、だが母さんの活には切関わるな。」
彼はまた俯いたまま頷いた。
私はポケットから万円を取りし、塀ののに置いた。
「昨夜突きばしてできた怪の治療費だ。があるに町の病院へけ。」
彼は呆然としておを受け取ろうとしなかった。
私は返事を待たずに背を向けた。
帰り、起きした所のたちが各のので朝をべていた。
私の姿を見てみんな瞬ハッと驚いた顔をした。
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