"壁の中の美大生" 第6話
伊藤はすぐに美紀の帳を取りした。
付。
額。
だった記号。
それらが、のカタログにき込まれていた記号と致していた。
「美紀は、この贋作取引に関わっていた」
伊藤はく言った。
田は顔をげた。
「運搬役として、ですか」
「おそらくな。若い美なら、絵を持ち歩いても自然に見えない。しかも彼女には美術の識がある」
その、鑑識員が1枚の絵の裏側からさな封筒を見つけた。
封筒は古く、湿気で角が波打っていた。
には、1枚の写真が入っていた。
写っていたのは、若い佐藤美紀。
隣には、カフェのマスター鈴勝。
そしてしれた所に、渡辺らしき女性の姿もあった。
背景は、畔のカフェではなかった。
郎の別荘の庭だった。
田は声を失った。
「鈴勝も、ここに来ていた……」
伊藤は写真を見つめた。
鈴はただのカフェのマスターではない。
美紀の相談相であり、贋作の世界と彼女をつないだ物である能性がくなった。
そのの夕方、鈴勝は任同を求められた。
取調に入った鈴は、以よりも老けて見えた。妻の介護に疲れた男の顔だったが、伊藤はその奥に別のものを見ていた。
伊藤は写真を机に置いた。
「これは郎の別荘で撮られた写真です。あなたも写っています」
鈴は写真を見た瞬、元を固く閉じた。
広告
伊藤は続けた。
「あなたは12、美紀さんとの別荘に入りしていた。なぜそのことを隠したんですか」
鈴の肩がわずかに震えた。
「……あの子を守るためでした」
田がを乗りした。
「守るために、12黙っていたんですか」
鈴は顔を歪めた。
「言えば、もっとくのが潰されるとったんです。は元の警察にも、役所にも、企業にも顔が利いた。私のようなさなのが逆らえば、もも妻の治療も、すべて奪われる」
伊藤は静に尋ねた。
「美紀さんは何をっていたんですか」
鈴はしばらく黙っていた。
やがて、乾いた唇をかした。
「贋作です。たちは本物の絵と偽物をすり替え、でをかしていた。美紀ちゃんは最初、運ぶだけでした。でも途で、それが犯罪だと気づいた」
伊藤の目が鋭くなった。
「19901111の夜、彼女は何をしようとしていたんですか」
鈴は両を膝ので握った。
「証拠を持って、逃げようとしていました」
取調の空気がく沈んだ。
美紀は、ただ消えたのではない。
真実を告発しようとして、消されたのだ。
鈴の証言によって、事件の輪郭はようやく見え始めた。
佐藤美紀は、貧しい美だった。
だが絵の才能を見込まれ、鈴を通じて郎の周辺にづいた。最初は美術品の運搬や保管を伝うだけだった。
広告
しかし、やがて彼女は、自分が運んでいるものが本物ではなく贋作であり、その裏で巨額のがいていることをった。
偽名座「美」に振り込まれていたは、止め料であり、同に彼女を犯罪に縛る鎖でもあった。
失踪の19901110、美紀は500万円を引きしていた。
それは逃げるための資だった。
そして、19901111の夜。
美紀は畔のカフェでアルバイトを終えたあと、恋の田賢治と会った。
田は彼女のの所を問い詰め、別れ話を切りした。
2は激しく論した。
田は10頃、ってそのをった。
その、美紀は1ではなかった。
11過ぎ、向かいのスーパーの老が聞いた喧嘩の声。
それは田との喧嘩ではなく、別の物との争いだった。
伊藤は、残された証拠をもう度並べた。
郎の別荘。
鈴勝。
渡辺。
贋作。
そして、美紀が残した最の絵。
鈴は震える声で言った。
「美紀ちゃんは、最に1枚の絵を描いていました。あの子は言っていました。もし自分に何かあったら、その絵を見てほしいと」
その絵は、美紀の実に残されていた。
押し入れの奥に、布で包まれて保管されていた。
母親は涙を浮かべながら、それを伊藤に渡した。
「美紀が最に持って帰ってきた絵です。何を描いたのか、私には分かりませんでした」
絵には、夜の畔が描かれていた。
に濡れたカフェ。
くに浮かぶ別荘の灯り。
そして壁の。
見すると、暗い景画だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
聖火と十円玉
昭和39年10月10日。東京オリンピック開会式の朝、町中が歴史的な一日に浮き立つ中、大田区の小さな町工場では、職人・佐伯正治がいつも通り旋盤の前に立っていた。 急ぎの部品6個を仕上げ、「俺が届けてくる」と自転車で工場を出た正治。取引先には確かに到着し、部品も無事に渡していた。 しかし、その後、彼は家にも工場にも戻らなかった。 妻も仲間も警察も行方を探す中、正治は4日間姿を消す。そして4日目の朝、髭を伸ばし、汚れた上着のまま、左手に包帯を巻いて工場へ戻ってきた。 彼が作業台に置いたのは、1枚の病院の領収書。 東京中が聖火を見つめていたあの日、名もなき職人はどこで何をしていたのか。 歴史には残らなかった、けれど誰かの人生を確かに支えた、昭和の小さな選択の物語。人生逆転|真相1.6萬字5 145 -
完結第10話
終電の風呂敷
昭和36年の冬、東京郊外の小さな私鉄駅に、毎晩必ず終電だけに乗る老婦人がいた。 午後11時38分。灰色の着物に黒い羽織、そして胸に抱えた紺色の風呂敷包み。彼女はいつも同じ時間に現れ、同じ行き先――工場前駅までの切符を買っていく。 昼間には一度も姿を見せず、帰りの切符も買わない。翌朝戻ってくる姿を見た者もいない。それなのに、次の夜になると、老婦人はまた何事もなかったように駅へ現れる。 若い駅員・高木修一は、次第にその風呂敷の中身と、彼女が毎晩終電に乗る理由が気になっていく。 そして小雪の降る夜、高木は初めて老婦人の後を追った。 終電の先にあったのは、眠らない工場街と、夜勤を終えて戻ってくる幼い少女たちの姿。老婦人が風呂敷をほどいた時、高木はようやく知ることになる。 彼女が毎晩運んでいたのは、ただの荷物ではなかった。 誰にも頼まれず、名前も残さず、昭和の片隅でそっと続けられていた小さな恩返し。その温もりが、時代を越えて誰かの心に受け継がれていく――。人生逆転|真相1.4萬字5 2078 -
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 145 -
完結第10話
雪下の赤いマフラー
1998年11月12日、雪の降る旭川で、赤いマフラーを巻いた3人の女子高校生が忽然と姿を消した。 双子の美咲と南、そして親友の彩。3人は放課後の演劇部の練習を終え、いつものように学校を出たはずだった。だが、その日を境に、家族のもとへ帰ることはなかった。 捜索は続いたが、足跡も持ち物も見つからない。吹雪がすべてを消してしまったかのように、事件は未解決のまま17年の歳月が流れていく。 そして2015年。元郵便配達員の古い鞄から、17年間届けられなかった1通の手紙が見つかる。 そこには、こう書かれていた。 「私は、美咲、南、そして彩に何が起きたのか知っています」 手紙をきっかけに再び動き出す捜査。座布団の中に隠された日記、古いカセットテープ、稚内へつながる謎の手紙、そして雪深い小屋の床下に眠っていた赤いマフラー。 3人はなぜ消えたのか。 教師・田中浩は何を隠していたのか。 17年間閉ざされていた雪の中の真実が、今、静かに姿を現す。ミステリー|行方不明1.5萬字5 562 -
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 4569 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1199 -
完結第13話
5枚で消された妻
1994年4月、長野県の山あいにある古いビジネスホテルで、31歳の女性・高橋美幸が冷たくなって発見された。 部屋には睡眠薬の空箱と酒の瓶。夫との離婚調停を控えていたこともあり、警察は早々に「事件性なし」と判断する。記録はわずか5枚だけ。母のよし子がどれだけ訴えても、娘の死が再び調べられることはなかった。 それから12年。 美幸の夫だった男は別の町で再婚し、真面目な父親として穏やかに暮らしていた。一方、よし子は痛む膝を抱えながら、毎年娘の墓へ通い続ける。 「娘は、自分から死を選ぶような子ではない」 誰にも届かなかったその言葉が、ある夜、古い薬物帳簿に残された一つの名前によって動き出す。 12年前のホテルで、本当は何が起きたのか。 そして、たった5枚の記録が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 464 -
完結第13話
床下の学級日誌
1995年、福岡の小さな離島・相島に、一人の若い女教師が赴任してきた。 藤野理子、26歳。全校児童わずか11人の分校で、子どもたち一人ひとりに寄り添い、島の人々にも少しずつ受け入れられていく。だが彼女は、ある少女の腕に残る不自然な痣に気づいてしまう。 「このまま見過ごすことはできない」 そう決意した夕暮れ、理子は本土へ渡ろうとしていた。しかし、その日を境に彼女は島から姿を消す。 残された荷物、桟橋で見つかったスカーフ、そして口を閉ざした11人の子どもたち。 警察はやがて、理子が自ら島を出た可能性が高いと判断する。けれど、子どもたちは知っていた。 あの日、桟橋で本当に何が起きたのかを。 それから10年後、取り壊される分校の床下から、理子の学級日誌と万年筆が見つかる。封じられていた記憶が、静かに動き出した――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 260 -
完結第10話
白木蓮の偽証
2003年、東京大学法学部を卒業し、都内で弁護士として働いていた藤代優一が、長野の実家へ帰省した後に姿を消した。 継母・沢子は「東京へ帰ると言って家を出ました」と涙ながらに証言し、防犯カメラにも優一らしき男の姿が映っていた。携帯電話の記録も長野から東京へ移動しており、警察は彼が東京へ向かった後に何かに巻き込まれたと考えた。 しかし17年後、空き家となった藤代家の解体工事中、庭の白木蓮の根元から一体の人骨が見つかる。 それは、東京へ帰ったはずの優一だった。 当時の捜査で継母の涙を信じた元刑事・黒瀬は、再び事件と向き合うことになる。防犯カメラに映った男は誰だったのか。なぜ携帯電話は東京まで移動していたのか。そして沢子は、何を守るために嘘をついたのか。 白木蓮の下に17年間埋められていたのは、遺体だけではなかった。ミステリー|行方不明1.5萬字5 161 -
完結第11話
ガジュマルの根が暴いた夜
2008年夏、京都郊外の古寺で、台風によって1本のガジュマルの老木が倒れた。 むき出しになった根の下から見つかったのは、大人2人と幼い女の子の人骨。そばには、色褪せたピンクのワンピースと、腐食したビジネスバッグが残されていた。 それは15年前、一夜にして姿を消した北村家3人のものだった。 当時、夫の健二は勤務先の建設会社で、不自然な金の流れに気づいていた。だが警察へ告発しようとした直後、妻と幼い娘もろとも消息を絶つ。 なぜ3人は、寺の木の下に埋められていたのか。 バッグの中に残されたフィルム、少女の服に縫われた小さな梅の花、そして15年間沈黙していた男の証言。 刑事・田中恵美が古い証拠を追うにつれ、慈善家として知られる大物会長の仮面が少しずつ崩れていく。 しかし、ガジュマルの根が暴いた真実は、まだ終わりではなかった。 北村家が消された夜、その奥には、誰も触れてはならないさらに深い闇が隠されていた――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 890