"24年目の手紙" 第1話
20028半ばのことです。本がワールドカップの狂に包まれたあの、お盆を迎え活気を取り戻した朝でした。神戸の港を見ろす坂の町。古い造の々が肩を寄せうようにち並ぶそのの突き当たり。郵便受けので、64歳のよし子はそのにへたり込んでしまいました。
よし子はエプロンでを拭いながらにました。そこにはバイクを止めた郵便配達員がっており、通の封筒を差ししていました。 「さんいらっしゃいますか? アメリカから留が届いていますよ」 郵便配達員が渡した通の封筒。よし子がその差ししの欄を見た瞬のことでした。そこにかれていた文字を界に捉えた瞬、よし子の全の血の気が引き、凍りついたようにけなくなりました。 「健」
19786。今から24、12歳で跡形もなく姿を消した息子の名でした。よし子のが激しく震えました。膝の震えも止まりません。封筒を握る指先から血の気が失せていきました。
よし子はを抱え、郵便受けのから部のへとうようにして戻りましたが、そのからしばらくくことができませんでした。24毎、この瞬だけを待ち侘びていたというのに、いざ目のに方の息子の名が現れると、胸を突き刺すような恐ろしさが込みげてきたのです。
広告
に座り込み、膝のに置いた封筒の文字をじっと見つめながら、よし子は激しく葛藤していました。もしこれがだったらどうしよう。誰かの悪ふざけではないだろうか。それとも、健はもうこの世にはいないのに、誰かが代わりに送ってきたなのだろうか。
よし子はをすぐにけることができず、部の真んに座り込んだまま、ただじっとその封筒を見つめていました。計の秒針の音だけが、静かな部にチクタクと空虚に響いています。朝のが古い窓ガラスを抜けて、埃のう部のへと斜めに差し込んできました。そうして、けないまま1が過ぎました。
よし子はく息を吸い込み、震えるでゆっくりとハサミを入れ、をけました。そこにかれていた内容は、彼女の24を根底から覆すものでした。果たしてそのには何がかれていたのでしょうか? 息子の健は本当にきていたのでしょうか? もしきていたのなら、なぜ24、1度も連絡がなかったのでしょうか? そして19786、12歳のに体何が起きたのでしょうか?
よし子の脳裏に、かつてこの部の同じので交わした、息子との幼い会話の記憶が鮮に蘇ってきました。 「ねえ、約束しようか」 「うん。いいよ」 「指切りげんまん、約束。お母さんはいつだってあなたをしているよ」
広告
「僕もお母さん好き」
よし子は便箋の文字に線を落とし、溢れる涙で界を滲ませながら、その失われた24に隠された衝撃の物語を紐解き始めました。
19786、神戸の港からそうくない所にある町でした。塩がに吹き抜け、急な坂に沿って古いが密集していた所。狭いの片隅には練炭のが積まれ、毎朝煙突から煙がちっていました。貧しい町でしたが、ご所同士が助けい、分けって暮らす所でした。どのからもご飯を卓に置く音と、子供の笑い声が漏れてくる温かい町だったのです。そのの突き当たりから2件目、よし子と息子の健が暮らすでした。
19786のあの朝、よし子は午4に起きました。暗い台所にしゃがみ込んで練炭を取り替え、マッチを擦ってをつけました。パチパチと音がつのを聞きながらご飯を炊き、蔵庫から卵を2つ取りしました。健が番好きなおかず、目玉焼きを作るためです。よし子はフライパンのにち、黄が崩れないようにそっと慎に裏返しました。健はので黄を潰して、ご飯に絡めてべるのが好きだったからです。
お弁当を詰めながら、よし子のはく沈んでいました。そのはどうしても仕事にかなければなりませんでした。
「今来なければ別のを雇う」と、の社にたく言われていたのです。
広告
おすすめ作品
-
完結第7話
スイカ畑の12年
1989年夏、長野県のスイカ農村で、佐藤一家5人が収穫期の畑を残したまま忽然と姿を消した。 台所には傷みかけたご飯が残り、子ども用の靴も玄関に揃えられたまま。旅行でも夜逃げでもないように見えたが、家族の行方を示す手がかりはどこにもなかった。 村では、借金、不倫、夜逃げ――さまざまな噂が飛び交う。やがて疑いの目は、佐藤茂夫の古い親友・山本武志へ向けられるが、彼には確かなアリバイがあった。 ただ1人、佐藤ゆき子の弟・伊藤和夫だけは諦めなかった。彼は農園を歩き回り、小さなビニールハウスの床に残る“不自然な柔らかさ”に気づく。 しかし、当時の捜査では何も見つからなかった。 それから12年後。農園の新しい持ち主が古いビニールハウスを解体した時、床下から大人と子どもの骨が次々と発見される。 佐藤一家は、どこにも逃げていなかった。 12年前、あの柔らかい土の下で何が隠され、誰が真実を動かしていたのか。 親友の仮面の裏に潜んでいた素顔が、長い沈黙の果てに暴かれていく。ミステリー|真実1.0萬字5 11 -
完結第23話
40.4℃の真実
40.4℃の高熱で救急搬送された、二十歳の女子大学生。 医師は最初、ただの重い感染症だと思っていた。 しかし、診察のために服を少しめくった、その瞬間――診察室の空気は凍りつく。 彼女の身体には、病気では説明できない痕跡が残されていた。 なぜ誰も気づけなかったのか。 彼女は誰にも助けを求められなかったのか。 そして、彼女が涙を流しながら口にした「脅迫されました」という一言が、事件を思いもよらない方向へ動かしていく。 真実を追う刑事。 娘を守ろうとする両親。 そして、権力と金を持つ一人の男。 ページをめくるたびに新たな疑惑が生まれ、最後まで真相が読めない医療サスペンスです。 あなたなら、この事件の真犯人が誰だと思いますか?人生逆転|真実|裡の顔|真相3.5萬字5 147 -
完結第25話
妻のポーチから見つかった結婚指輪
結婚二十二年。 私は、自分たち夫婦ほど平凡で幸せな家庭はないと信じていた。 仕事を頑張る妻を支え、娘を育て、老後のために二十年以上かけて少しずつ貯金を続けてきた。 それが私の人生だった。 だが、妻の出張帰りの荷物を片付けた、たった一度の善意が、その人生を根底から覆すことになる。 下着のポーチの奥から見つかった黒い箱。 その中には、見知らぬ男との結婚指輪と、私たちの老後資金二千百五十万円が入った、別名義の預金通帳が隠されていた。 愛していた妻。 二十年以上親友だと信じてきた男。 そして、私だけが何も知らないまま利用され続けていたという残酷な真実――。 これは、一人の夫がすべてを失い、すべてを取り戻すまでの記録である。真実|裡の顔|真相|ATM扱い|金銭問題|修羅場3.8萬字5 151 -
完結第18話
浴室の鍵
「どうして、お風呂のたびに鍵をかけるの?」 その小さな違和感が、家族のすべてを壊す始まりだった。 認知症の母を介護する専業主婦・ゆみ子は、夫の紹介で甥の達也に介護を手伝ってもらうことになる。 礼儀正しく、優しく、介護の知識も豊富な達也。 誰もが彼を信頼していた。 だが、浴室の鍵が閉まるたび、母の表情は恐怖に変わり、身体には説明のつかない痣が増えていく。 誰にも信じてもらえない中、ゆみ子は密かに証拠集めを始める。 そこで明らかになったのは、高齢者虐待だけでは終わらない、家族の欲望と裏切りだった。 最後に暴かれる真実は、あなたの想像を超える。真実|裡の顔|真相|親子関係|介護|修羅場2.7萬字5 334 -
完結第8話
消えた女性巡査
2003年春、群馬県の伊香保温泉街で、24歳の女性巡査・田中美咲が勤務中に忽然と姿を消した。 最後の無線は「これより署に戻ります」という、ごく普通の報告だった。だがその後、美咲は警察署へ戻ることなく、携帯もつながらず、温泉街から完全に姿を消してしまう。 家族、同僚、地域の人々が必死に捜索を続けたが、手がかりは見つからない。観光客で賑わう石段街、防犯カメラの少ない時代、廃業した旅館、そして誰にも気づかれなかった空白の時間――。 事件は未解決のまま、16年の歳月が流れた。 しかし2019年、古い防犯映像の再解析によって、美咲が最後に向かった可能性のある場所が浮かび上がる。 それは、温泉街の奥にひっそりと残された廃旅館「松風荘」だった。 朽ちた建物の地下室で見つかったのは、錆びついた手錠と小さな鍵。そして壁に刻まれていた、ある名前。 16年間、湯けむりの中に隠されていた真実が、ようやく動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 72 -
完結第6話
春雨に消えた妻
1992年春、港北ニュータウンに暮らす42歳の主婦・鈴木順子は、高校卒業20周年の同窓会へ出かけた。 家事と義母の世話に追われる毎日の中で、久しぶりに見せた明るい笑顔。夫の高幸は、そんな妻を玄関で見送った。だがそれが、彼が見た最後の姿となる。 同窓会の夜、順子は店を出たあと忽然と姿を消した。通帳も衣類も家に残されたまま。家出の準備など何ひとつなかったにもかかわらず、警察は早々に「自ら姿を消した可能性」として処理してしまう。 それから31年。 妻を待ち続けた高幸の時間は、あの日の春で止まったままだった。一方で、同窓会に出席していた同級生・高橋健二は、事業を広げ、家庭を持ち、何事もなかったかのように人生を進めていた。 しかし2023年秋、古い住宅の取り壊し工事中、庭の祠の下から女性の遺骨が発見される。 31年間、土の中に隠されていた真実。 妻の髪を大切に残し続けた夫の執念が、ついに“友人の顔をした男”の醜い罪を暴き出す――。ミステリー|行方不明9.0千字5 147 -
完結第9話
霧の峠に消えた後継者
1995年秋、長野の霧深い峠道で、1台の黒塗りの高級車が見つかった。 車内には鞄と別荘の鍵だけが残され、運転していたはずの男の姿はどこにもなかった。行方不明になったのは、東京・銀座の名門財閥の3代目後継者、総一郎。28歳の若さで一族の未来を背負うはずだった青年だった。 誘拐か、事故か、それとも自らの失踪か。 身代金の要求もなく、遺体も見つからないまま、事件は長い年月の中に埋もれていく。やがて一族では、総一郎の従兄・涼介が新たな当主となった。 しかし15年後、時効が目前に迫ったある日、総一郎の妹・佐和子は古い資料の中に小さな違和感を見つける。 車に残されていたはずの「別荘の鍵」。だが、それは兄がいつも持ち歩いていた本物の鍵入れではなかった。 消えた鍵入れはどこへ行ったのか。 そして、霧の峠で総一郎は本当に何者かに消されたのか。 時効前日、佐和子と元刑事・沢田は、すべての答えが眠る軽井沢の別荘へ向かう。そこで見つかった一冊の手帳が、15年間閉ざされていた財閥一家の真実を静かに暴き始める――。ミステリー|真実1.3萬字5 133 -
完結第5話
志摩の海に沈んだ母
1994年、三重県志摩の小さな漁村で、70歳を過ぎても海に潜り続けていた海女・高島梅野が突然姿を消した。 その朝、海は穏やかだった。仲間の海女たちは確かに梅野の姿を見ていた。けれど日が高くなっても、彼女だけが水面に戻ってこなかった。捜索は続いたが、亡骸も道具も見つからない。 事故なのか、失踪なのか。 梅野には3人の息子がいた。東京に住む長男、大阪で商売をする次男、そして島に残って母の近くで暮らしていた末の息子・正斗。やがて警察は、梅野が持っていた土地と、息子たちの金銭問題に目を向ける。 だが決定的な証拠はなく、事件は海に沈むように忘れられていった。 それから16年後。 東京・港区で、行方不明のはずの梅野名義の「3億円ビル」が見つかる。しかも名義移転は、彼女が姿を消した後に行われていた。 誰が、母の名義を使ったのか。 古い家に残された血痕、かまどの灰から出てきた金の指輪、そしてタンスの奥に隠されていた一通の遺言書。 志摩の海に消えたはずの真実が、16年後、静かに浮かび上がる――。ミステリー|真実7.7千字5 55