みかん小説
本棚

"百円玉の逆転" 第3話

「あなたは悪くないのよ」

その瞬、ゆきさんは崩れるように泣いた。

しばらくして、ゆきさんは顔をげた。

目は赤かったが、さっきまでとはし違う目をしていた。彼女はコーヒーカップを見つめながら、い声で話し始めた。

にいた方も、同じことをやらされて、結局辞めさせられたんです」

佐藤さんが静かに姿勢を正した。

ゆきさんは続けた。

「窓った最初のに言われました。『おの仕事は客に嫌われることだ。俺が助けに入るから配するな』って」

佐藤さんがく言った。

「マッチポンプのやりですね」

ゆきさんのが止まった。

「断れませんでした。断ったらと同じになるって分かっていたから。それからずっと、課の台本通りにいていました」

彼女は唇を噛んだ。

「課は窓、いつも顧客報を確認して、狙う相を決めていたんです。私がお客様にひどいことを言って、課がそれを叱りつける。そして、させたところで投資信託を売り込む。そういう芝居を、何回も」

ゆきさんの目から、また涙がこぼれた。

「自分で考えて、自分で選んだことなんか、つもなかったんです」

私はポケットので、奏の100円玉を握り締めた。

を入れ替えながら、仕組みだけが続いていた。

それが番恐ろしかった。

その、私はいのつてを頼り、同じで似た勧誘を受けたを探した。

広告

、投資信託で損をさせられたという女性が、ベアリバーに来てくれた。彼女はのドアので何度もを止めていた。席についてからも、しばらくコーヒーカップを両で包んだまま黙っていた。

やがて、かすれた声で話し始めた。

学に格した孫に、学費をしてやりたかったんです。奨学を借りるのは変だから。でも気づいたら、そのおもなくなっていました」

彼女は悔しそうに目を伏せた。

「窓の若い子がひどいことを言うからっていたら、奥から課さんがんできて叱ってくれて……このなら信頼できるとって、勧められるまま預けてしまったんです」

あの猫なで声が、私のによみがえった。

あの際のよさは、このにも使われていた。

女性は帰り際、私のをそっと握った。言いたいことがあるのに、声にならない様子だった。

その代わり、彼女のに力がこもった。

「私たちの分まで、お願いします」

佐藤さんは、彼女の名と証言をメモ帳にした。

声を奪われたたちに、顔がある。

私はそのことを、改めてらされた。

その、佐藤さんはいつもの席で3杯目のコーヒーにをつけていた。

「佐藤さん、そろそろ帰らないと、事務所のられるわよ」

私がカウンター越しに言うと、佐藤さんは真顔で答えた。

広告

「この件が片付くまでは、5杯でもみますよ」

そんなやり取りをしていたところに、ベアリバーのドアがいた。

ゆきさんだった。

今度は迷いのない取りで入ってきた。けれど、スマートフォンを握るの爪は、のひらにい込んでいた。

「文子さん、聞いてほしいものがあるんです」

彼女はスマートフォンを取りした。

「復帰してすぐ、しく配属された輩に、課を教えているのを聞いたんです。私のと同じセリフで……今度こそとって、録音しました」

ゆきさんが画面をタップした。

内に、の声が流れた。

「じじいとババアが持っているを、うまく使ってやるってだけなんだ。何も悪いことじゃない」

あの留守番メッセージと同じ声だった。

だが言葉は、さらに骨だった。

佐藤さんがすぐにメモ帳を取りした。

録音ので、は続けていた。

「お齢者にわざとひどいことを言って、たくあしらえ。そこに俺が正義のヒーローとして、おを叱りつけにく」

の部に、の客を攻撃させる。

その仕組みに、私は奥歯を噛み締めた。

あの頃の私は逃げることしかできなかった。けれど、ゆきさんは声にならなかった抵抗を、スマートフォンのに閉じ込めていた。

佐藤さんがを乗りした。

「これは法に使える証拠です。

融商品取引法やパワハラ防止の観点からも、問題になる能性がありますね」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: