"32億の貧乏母" 第5話
その夜、澄子のもとへ本から国際話が入った。相は、児童養護施設の理事だった。
「様、理事会で正式に決定いたしました。億円のご寄付、謹んでお受けいたします」
澄子は満げに目を閉じた。
「どのように使われるのかしら」
「しい施設をつ建設し、子どもたちに教育の会を提供します。付型奨学制度も創設し、毎百の子どもたちを学まで支援できます」
澄子の胸に、静かなびが広がった。
「それは良かったわ」
話を切ったあと、澄子はを見つめた。
もない貧乏な親と蔑んだ息子より、見ずらずの子どもたちの未来に使うほうが、ずっと価値がある。
そうった。
第章 母の部
本では、雄がで澄子のんでいたアパートを訪れていた。織とは婚の話がんでいる。仕事でもミスが続き、居所を失いつつあった。
管理会社から鍵を借り、雄は古い部へ入った。
狭い玄関。
さな台所。
質素な器。
畳のに置かれたいテーブル。
雄は部の央にち尽くした。
「母さんは、ここで……」
こんなにさな部で、暮らしていた。自分たちが級レストランで事をし、織の両親と旅の話をしていた頃、母はここで特売の材を使い、分の夕を作っていたのだ。
テーブルのに、紺のマフラーが置かれていた。
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あの、誕にもらった編みのマフラーだった。雄は震えるでそれを持ちげる。物の毛糸だと笑った。戦みたいだと馬鹿にされた。ソファの隅に放り投げた。
けれど、今に取ると分かった。
ひと目ひと目に、母のがあった。母の願いがあった。自分のために、寒くないようにと祈りながら編んだ跡があった。
「母さん……ごめん」
雄はマフラーを抱きしめ、そのに崩れ落ちた。
どれだけ泣いても、もう母は戻ってこない。財産を失ったからではない。母としてのを踏みにじった自分を、今さら許してほしいと言う資格がなかった。
方、澄子はサントリーニ島にいた。
い建物と青いが、絵画のように広がっている。朝のレストランへ向かう途、澄子は鏡に映った自分を見て微笑んだ。そこには、貧乏な親と見された女ではなく、自分のを取り戻したの女性がいた。
携帯には、また雄からのメッセージが残っていた。
「母さん、僕、会社を辞めることになりました。織とも婚します。全部僕が悪かったんです。おなんて本当にいらない。ただ、母さんに会いたい」
澄子はしだけ画面を見つめた。
胸がまったく痛まないわけではなかった。彼は自分の息子だ。何もしてきた子だ。
けれど、澄子はっていた。
いま戻れば、また同じ所に引き戻される。
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彼が会いたいのは、本当に母なのか。それとも失ったもののきさに耐えられなくなっただけなのか。
澄子は静かに話を閉じた。
「今さら遅いのよ」
そのの夜、で記をいた。
――私は試した。
――おがなくても、母としてしてくれるかどうかを。
――結果は残酷だった。
――でも悔はしていない。
――真実をることができたから。
――億円で買えたものは、贅沢ではない。
――自由だった。
ペンを置くと、澄子はバルコニーにた。の夜が頬を撫でる。くでのかりが揺れていた。
もない親と蔑まれた女性は、今、世界で最も自由なを歩いている。
おの本当の価値をらなかった者たちには、これ以ない教訓だった。
そして澄子は、朝を迎えるたびにう。
今はどんな会いがあるのかしら。
歳にして、彼女の本当のは始まったばかりだった。
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