"地下室に消えた母" 第4話
けれど裕と文子、そして健だけは、美紀のを忘れることなどできなかった。
美紀が失踪してから8が過ぎた頃、健は学に入学した。
入学式の、裕は息子のを引いてをくぐった。そこは裕が勤務する学でもあった。健はしいを着て、し緊張しながら舎を見げた。
「ここが父さんの学だよ。これから健が通う学になる」
「父さんの学……」
健はきな目を輝かせた。
文子も緒だった。孫の入学を見届けるために、伊豆から来ていた。
「うちの健も、もう学だね。しっかり勉するんだよ」
文子は誇らしそうに笑ったが、その目の奥には寂しさがあった。周りの子どもたちは、父親と母親の両方にを引かれていた。健の隣にいるのは、父と祖母だけだった。
最初の数はきな問題もなかった。健はしい教、しい先、しい友達に慣れようと懸命だった。
しかし、やがて子どもたちの無邪気な残酷さが健を傷つけ始めた。
「田健、おの母さんはなんで迎えに来ないんだ?」
休み、1の子がそう聞いた。
健は返事に困った。
「母さんは……くにいるんだ」
「くってどこだよ。なんで帰ってこないんだ」
別の子が笑った。
「母さんいないんじゃないの?」
「母さんに捨てられたんじゃないの?」
その言葉に、健の顔は真っ赤になった。
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胸が苦しくなり、涙がそうになった。
「違う」
さな声でそう言ったが、子どもたちは面がってさらにからかった。
「母さんいないやつ」
そのから、健はしずつ数が減った。
に帰っても、以のように学の話をしなくなった。裕が尋ねても、「別に」とだけ答える。文子が好きな料理をしても、箸のきは遅かった。
ある、裕は教のを通りかかった、子どもたちの声を聞いた。
「田って本当に母さんいないんだって」
「捨てられたんじゃないの」
裕はを止めた。今すぐ教に入って叱りつけたい衝に駆られた。だが、父親である自分がをせば、健がさらにからかわれるかもしれない。
裕は拳を握りしめ、廊にち尽くした。
その夜、健はついに泣きした。
「父さん、友達が母さんがいないってからかうんだ。母さんはいつ帰ってくるの。なんで帰ってこないの」
裕は息子を抱きしめた。
「母さんは……くにいて、帰ってこられないんだ。でも、健のことをしているよ」
「じゃあ、いつ帰ってくるの」
その質問に、裕は答えられなかった。
文子も孫の様子を見て、何度も涙ぐんだ。
「うちの健が、こんな辛いいをしなきゃならないなんて」
そんな健を慰めたのは、拓也だった。
「健、おじさんと公園にこうか」
拓也といるだけ、健はしるくなった。
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拓也はボール遊びをしたり、文具でさなおもちゃを買ってくれたりした。
「学で辛いことがあったら、おじさんに言うんだぞ」
「うん。おじさん」
健にとって拓也は、父親の次になになっていた。
それでも、母親がいない寂しさは消えなかった。
学3になった、健は10歳になっていた。以よりびたが、内向な性格は変わらなかった。
ある曜の午、健は宿題を持って拓也のへった。文子は伊豆へ戻っており、裕は学の仕事で忙しかった。
「いらっしゃい、健。宿題たくさんあるのかい」
「うん。国語と算数」
「じゃあ、おじさんがお菓子を買ってくるから、先に宿題をやっていなさい。すぐ戻るよ」
拓也がかけると、健はリビングに座り、ノートを広げた。のは静かで、鉛の音だけが響いた。
しばらくして、健は奇妙な音を聞いた。
「うう……」
誰かが泣いているような声だった。
健は鉛を止め、を澄ませた。
声はの方から聞こえてくる。
台所へくと、さなドアがしだけいていた。へりる階段が見えた。
健は怖かったが、好奇が勝った。
1歩ずつ慎に階段をりていく。
は暗く湿っていた。さな球がぼんやりとり、隅の方に誰かがうずくまっている。
「おばさん……誰ですか」
健が震える声で尋ねると、その女性が顔をげた。
青く痩せた顔。乱れた髪。古びた。
女性は健を見るなり、目をきく見いた。
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