"消えた一人分の席" 第3話
「わかったって……それだけ?」
理子は静かに頷いた。
「お望み通り、これからは関わらないようにします」
そう言うと、理子はゆっくりちがった。
キッチンカウンターに置かれためた煮物を、度も見ることなく玄関へ向かう。
「お邪魔しました」
由の両親が顔を見わせている。
あまりにもあっさりした態度に、逆に気さをじたのかもしれない。
玄関で靴を履きながら、理子は度だけ振り返った。
「ただつだけ」
部の全員がこちらを見る。
理子は静かな声で言った。
「あなたたちは、切なことを忘れています」
由がで笑う。
「何ですか? 負け惜しみ?」
「今夜、いすことになるでしょう」
「わかんない」
裕也が気まずそうにをいた。
「母さん、その……元気でな」
理子は何も答えなかった。
育てた息子の最の言葉が、それだけだったからだ。
誠と並んでへる。
夜が頬を撫でた。
玄関のドアが閉まった瞬、理子ので、何かが完全に終わった。
に乗り込むと、誠がハンドルを握ったままく言った。
「理子、本当にあれでいいのか」
理子はシートベルトを締めながら静かに頷いた。
「いいのよ」
「でも、あいつら……」
「これから、本当のことを教えてあげましょう」
誠がゆっくり息を吐く。
「あいつら、完全に忘れてるんだな」
「ええ。
広告
それだけじゃないわ」
理子はバッグからスマートフォンを取りした。
「毎の援助も、宅ローンの保証も、全部私たちだってことを」
由の両親は、何もらないのだろう。
きっと裕也は、自分の力だけでを建てたように見せたかったのだ。
理子は話帳をき、ある番号を押した。
「もしもし、本先。夜分に申し訳ありません。川です」
話の向こうから、落ち着いた男性の声が返る。
「川さん、どうされましたか」
「以ご相談していた件、今夜にめていただけますか」
し沈黙が流れた。
「……ついに来ましたか」
「ええ」
「本当によろしいのですね」
理子は窓のを見つめた。
流れていく灯のが、静かに内を横切っていく。
「もう迷いはありません」
話を切ると、誠が言った。
「準備してきた甲斐があったな」
理子はさく笑った。
「由さんの態度、ずっと変だったもの」
孫の陽太にも会わせてもらえないが増えていた。
話をしても、裕也は忙しいの点張り。
由の線はににたくなっていた。
だから、ヶから弁護士に相談し、静かに準備をめていたのだ。
自宅へ戻ると、理子は真っ直ぐ斎へ向かった。
庫をけ、から分いファイルを取りす。
援助記録。
宅ローンの保証契約。
の登記簿。
そして、送履歴。
、毎万円。
広告
百万円を超える記録が、通帳に残っていた。
理子はへ話をかける。
「の朝番で、定期送の止続きをお願いします」
続いて、族カードの止。
オペレーターが淡々と確認していく。
「本付で利用止となります」
「ありがとうございます」
話を切ると、誠が静かに言った。
「これで毎万円も止まるな」
「ええ。でも、まだ終わりじゃないわ」
理子は、庫の奥からもう枚の類を取りした。
の登記簿だった。
誠の名が、所者欄に記載されている。
「こののは、俺の名義だからな」
。
息子夫婦がを建てる、代まで払う余裕はなかった。
だから誠が退職でを購入し、無償で貸していたのだ。
固定資産税まで払い続けながら。
「裕也、由さんに言ってないのね」
「見栄を張りたかったんだろうな」
理子はファイルを閉じた。
「今夜、全部終わらせましょう」
誠が頷く。
は再びへ乗り込んだ。
息子のまで、あと分。
理子のは、議なほど静かだった。
夜過ぎ。
理子たちは再び息子ののインターホンを押した。
しばらくして、裕也が嫌そうな顔でドアをける。
「……母さん? もう来るなって言っただろ」
その奥から由の声がんできた。
「まだ何かあるんですか?」
理子は静かに言った。
「切なお話があるの。由さんのご両親も、まだいらっしゃるわよね?」
リビングには、事会の名残が残っていた。
級寿司の空き容器。
広告
おすすめ作品
-
連載中第7話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫1.1萬字5 27 -
完結第11話
部外者会長の逆襲
営業部の新年会に、夫と一緒に出席した井上ゆかり。 しかし会場に着くと、用意されているはずの席はなく、課長の獅倉からは笑いながらこう言われた。 「今日は関係者だけで飲もうよ」 部外者扱いされ、夫婦そろって追い出されるように店を出たゆかり。だが店の外には、黒いセダンと秘書が待っていた。 「帰るから、車出して」 「会長、承知しました」 実はゆかりには、会社の誰も知らないもう一つの顔があった。 翌朝、課長から慌てた電話が入る。大型契約が突然保留になり、会社のサーバーからは、ただの嫌がらせでは済まされない重大な痕跡が見つかっていた――。因果応報|修羅場1.6萬字5 704 -
完結第13話
吹雪の一杯
夫が遺した山あいの温泉旅館「灯里館」を、一人で守り続けてきた70歳の富美子。 しかし返済期限まで残り三ヶ月。1500万円の借金を抱え、親族や開発会社からは「もう旅館を売れ」と迫られていた。 そんなある吹雪の夜、富美子は雪の中で倒れていた一人の外国人男性を助ける。凍えた彼に差し出したのは、囲炉裏の火と、いつもの味噌汁だった。 ただの親切のはずだった。 だが、その外国人が残した映像をきっかけに、灯里館には世界中から予約が殺到する。さらに、旅館を買い取ろうとする開発会社が本当に狙っていたもの、そして亡き夫が密かに守ろうとしていた“山の秘密”が少しずつ明らかになっていく。 夫は本当に旅館を売ろうとしていたのか。 なぜ死後の日付で、夫の署名が残されていたのか。 消えかけた囲炉裏の火が、富美子の人生をもう一度動かし始める――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 641 -
完結第12話
アクセル細工の報い
深夜1時、森雪穂のスマホに届いた防犯カメラの通知。 ガレージの映像に映っていたのは、夫・翔太だった。彼は周囲を気にしながら、雪穂が祖父から受け継いだ大切な車に何かをしていた。 翌朝、翔太は不自然なほど雪穂を車で外出させようとする。だが雪穂は知らないふりをしたまま、車には乗らなかった。 そんな時、突然やって来た義両親が「今日だけ車を貸してほしい」と言い出す。見栄のために雪穂の車を借りようとする2人を、なぜか翔太だけが必死に止め始めた。 「待ってくれ。その車はやめろ」 昨夜、夫は車に何をしたのか。 そして、義両親がその車に乗った瞬間、翔太の隠していた本性が静かに崩れ始める――。因果応報|夫婦1.8萬字5 3043 -
完結第12話
凍った再婚式
36年間連れ添った夫の鞄から、妻・佳子が見つけたのは、見知らぬ女性との結婚招待状だった。 しかも日付は3月14日。会場は京都・祇園の高級旅館。招待客は約100人。夫はまだ離婚も成立していない妻を残したまま、別の女性との“再婚式”を準備していた。 だが佳子は泣かなかった。問い詰めることもなく、招待状を写真に収め、静かに元の場所へ戻した。 夫婦の共有口座から消えていた金。京都に隠されていた3800万円のマンション。退職予定の夫に支払われる2500万円の退職金。そして、妻を財産から外そうとする遺言。 36年間、夫の予定も家計も管理してきた佳子は、すでにすべてを記録していた。 そして迎えた再婚式当日。 祝福に包まれるはずだった会場へ、一通の呼出状が届けられる。 夫が新しい人生を始めるはずだったその日、明るみに出たのは、誰にも知られたくなかった嘘と隠し財産だった――。因果応報|不倫1.7萬字5 1131 -
完結第12話
泥まみれの客と黒塗り5台
土砂降りの夜、タクシー運転手の佐藤美咲は、泥だらけで道端に立ち尽くす1人の老人を見つけた。 他のタクシーは、車が汚れることを嫌って次々と通り過ぎていく。中には、老人をあざ笑い、泥水まで浴びせて走り去る運転手もいた。 月末までにノルマを達成できなければクビ。幼い娘の手術を控え、仕事を失うわけにはいかない美咲も、一瞬だけ迷った。 それでも彼女は車を止める。 「シートなんて洗えばいいんです」 そう言って老人を乗せ、傘を差し、温かい缶コーヒーを手渡した。 しかし翌朝、美咲を待っていたのは、汚された車両と突然の解雇通告だった。 泣き崩れる彼女の前に、5台の黒塗りの車が営業所へ現れる。 昨日の泥だらけの老人は、いったい何者だったのか。 たった1本の缶コーヒーが、彼女の人生を大きく変えていく――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 1873 -
完結第12話
200円の家族
23歳の大学生・高橋翔太は、感情を捨てたように生きていた。 友人の誘いも断り、食事も会話もすべてを「合理的かどうか」で判断する日々。そんな彼が、ある日ファミレスで会計できずに困っている母子と出会う。 所持金は300円。小さな娘を連れた母親は、夫に貯金を持ち逃げされ、住む場所さえ失っていた。 翔太は不足分の200円を支払い、さらに母子を自分の部屋へ連れて帰る。最初はただの合理的な判断。そのはずだった。 しかし、温かい手料理、少女の「ありがとう」、そして夜中に聞こえた小さな泣き声が、5年間閉ざしていた翔太の心を少しずつ揺らしていく。 なぜ彼は笑わなくなったのか。 なぜ「感情は判断を誤らせる」と言い続けるのか。 助けたはずの母子との出会いは、やがて翔太自身が封じ込めてきた過去を呼び覚ましていく――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 922 -
完結第14話
元嫁の15枚返し
離婚から3日後の午前5時。佐藤恵子の携帯に、元姑から突然電話がかかってきた。 「今すぐ来て、法事の料理を用意しなさい」 12年間、家事も介護も金銭の穴埋めもすべて背負ってきた恵子。だが夫は秘書と関係を持ち、姑と義妹は彼女を使用人のように扱い、最後には荷物同然に家から追い出した。 それでも彼女たちは、恵子がいなくなって初めて、自分たちの生活が何によって支えられていたのかを知ることになる。 恵子名義の15枚のカード。 義父が病室で密かに残した遺言。 そして、10億円のペントハウスの本当の所有者。 元嫁を見下していた家族が、最も頼り切っていたものを一つずつ失っていく中、恵子は静かに告げる。 「あなた方は、もう私とは何の関係もない人たちです」 これは、“良い嫁”でいることをやめた女性が、自分の名前で人生を取り戻すまでの物語。因果応報|嫁姑|絶縁2.0萬字5 16859 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 1689