"消えた一人分の席" 第1話
「私の分は、ないのね」
その言葉が自分のからた瞬、川理子は、胸の奥が静かに凍っていくのをじた。
目ののきなテーブルには、豪華な寿司桶が並んでいた。艶のあるトロ、鮮やかな刺、揚げたてのぷら。祝いの席にふさわしい料理が、これでもかというほど用されている。
分の椀。分の席。分の取り皿。
けれど、理子の分だけが、どこにもなかった。
今は、息子の裕也と嫁の由が暮らす戸建てでかれた親族の事会だった。由の両親、由の妹夫婦、その子どもたち、裕也、由、孫の陽太。そして理子と夫の誠。
招待されたはずだった。
なくとも、理子はそうっていた。
「お母さん、申し訳ありません」
由が、形だけの笑みを浮かべてをいた。
「数を数え違えちゃって。お母さんの分、なかったみたいです」
その声に、申し訳なさはなかった。むしろ、予定通りにんだことへの満すらにじんでいた。
理子は、由の唇の端がかすかにがるのを見逃さなかった。
これは違いではない。
最初から、私をすつもりだったのだ。
そう理解した瞬、理子ので、何かが音もなく沈んでいった。
川理子、歳。
元の総病院で、、介護士として働き続けてきた。朝に起き、患者の事介助をし、排泄の世話をし、夜勤のには夜まで病棟を歩き回った。
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楽な仕事ではなかった。
それでも、族のためだとえば耐えられた。
息子の裕也を学まですために、教育費として百万円。結婚資として百万円。さらにこのを買うには、として百万円を援助した。
それだけではない。
裕也夫婦の活を支えるため、毎万円の援助も続けてきた。宅ローンの補助、孫の教育費、細々とした活費。で百万円を超えていた。
最初の頃、由は言っていた。
「お母さん、本当にありがとうございます」
けれど、いつのにか、その謝は消えた。
代わりに増えたのは、当然という顔だった。
「うちの実なら、もっとしてくれるのに」
そんな言葉まで、理子のに届くようになっていた。
それでも、週に由から話があった、理子はし嬉しかった。
「親族みんなで事会をするんです。お母さんたちも来てください」
久しぶりに、族全員で集まれる。
由もしは歩み寄ってくれたのかもしれない。
理子は夫の誠と、何を着ていこうかと相談した。押し入れからし等なをし、にアイロンまでかけた。
まさか、その事会が、自分たちを排除するためのだったとはいもしなかった。
「お父さんは、そちらの補助子に。お母さんは……キッチンのカウンターでいいですよね」
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由が、何でもないことのように言った。
キッチンのカウンターには、昨の残り物らしい煮物と米だけが置かれていた。
方、テーブルのには級寿司とぷら、刺の盛りわせ。由の両親のには、特のトロまで並んでいる。
誠が、戸惑ったようにをいた。
「私たちの席は……」
その声は、途で消えた。
由の母親が、理子をちらりと見た。
「あら、お母さんはそちらで。配の方は、質素なものがお好きでしょうし」
理子は、何も言わなかった。
言えなかったのではない。
そのの空気が、すべてを物語っていたからだ。
自分は、ここでは客ではない。
族でもない。
都よくおをすだけの、の。
理子はキッチンのカウンターに置かれためた煮物を見ろし、静かに息を吸った。
その、胸の奥でさく凍りついたものが、ゆっくりと形を変え始めていた。
理子と誠がキッチンのカウンターへ向かうも、テーブルでは楽しげな会話が続いていた。
まるで最初からなどしていないかのようだった。
理子はさな茶碗をに取り、めた米をよそった。煮物からは、が経った醤油の匂いが漂っている。
その背で、由の父親が箸をかしながらをいた。
「しかし、理子さんも介護士をでしたっけ」
理子は静かに振り返った。
由の父親は、元にい笑みを浮かべている。
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