"紙袋の中の二千万円" 第3話
目がうと、気まずそうに軽く会釈をした。
その目のに、状況を理解しようとする慮と、関わりたくないという線引きが同に見えた。
私はさくをげ返した。
ここで声を荒げれば、娘のも、私のも、どちらも崩れるだろう。そういう空気が、このにはある。
私はく息を吸った。
その、の内側からさな音がづいた。鍵のかかった扉の向こうで、ひなが何かを言っている。言葉ははっきり聞こえない。けれど、泣いている気配があった。
私の名を呼んでいるような気もした。
私は袋のをけ、から封筒を取りした。
はでし柔らかくなっていたが、芯はまだしっかりしている。封を切る音が、妙にきく聞こえた。
のへ歩戻り、インターホンを押した。
い沈黙の、娘が応答した。苛ちを隠さない声だった。
「何?」
私は言った。
「しだけ、いい?」
扉がわずかにいた。鎖がかかったままの隙から、娘の顔が見えた。さっきまでの作り笑いはなく、化粧ので固まった表があった。
私は封筒を差しした。
「これ、見て」
娘は受け取らなかった。
代わりに、ろから健太がを伸ばし、封筒を取った。
のを枚めくる。最初は軽く見ていた顔が、次の瞬、変わった。
もう枚めくり、線が止まる。
健太は娘を見た。
「これ、どういうこと?」
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娘は瞬だけ線をそらし、すぐに取り繕った。
「なにそれ。らない」
私は静かに言った。
「千万円は、あげたんじゃない。貸したの。返済の約束も期限も、全部そこにある」
言葉にすると、あまりにもかった。
けれど、そのが、私がみ込んできたのさを初めて形にしてくれた気がした。
の向こうから、自転のブレーキ音がした。
振り向くと、黒い鞄を持った司法士がっていた。し息を切らしながら、こちらへ歩いてくる。
私は朝、駅に着いたに話をしていた。
もしもののために来てもらえないか、と。
こんな形で使うことになるとはっていなかった。けれど、今はその判断に助けられている。
司法士はので軽くをげ、状況を目で把握したように言った。
「こちらでお話ししましょう」
扉の鎖がされ、玄関がいた。
さっきまで閉ざされていた空気が、しだけいた。
に入ると、リビングの奥で何かが気まずそうにっていた。誰も声をさない。ケーキののキャンドルは、まだをつけられないまま静かに待っている。
司法士は、類をテーブルのに広げた。
公正証の原本と控え。条項のつつを、必なところだけく指で示す。
「この契約では、返済が滞った、債権者は制執の続きを取ることができます。
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産に対しても同様です」
部の空気が、さっきとは別ので固まった。
警察という言葉でに押しされていた私が、今度は法の言葉でにっている。がゆっくりと反転していくのを、誰もがじていた。
娘は唇を噛んだ。
「そんなの、今さら……」
私は首を振った。
「今さらじゃない。ずっとここにあったものよ」
その、健太がもう枚のに目を落とした。眉がさらに歪む。
「これ、印鑑……」
私は静かに答えた。
「あの、急いでるって言ってた類の控え。私の名でローンを増額してる」
言葉にした瞬、部のの線が斉に娘へ向いた。
娘は何か言おうとして、言葉をみ込んだ。指先が震えているのが見えた。
司法士がく言った。
「この部分は、ご本の確認が分だった能性があります。によっては、正利用として扱われます」
さらに私は、スマートフォンの画面を司法士に見せた。
娘の投稿の写しだった。の写真の隅に、私のろ姿がさく映っている。そのに、軽い言葉がねられていた。
「画」という文字。いいねの数。
司法士は瞬だけ目を細めた。
「これも名誉に関わる問題になります」
すべてが静かにつながった。
偶然ではなく、流れとして。
あのの押印も、今の扉も、同じ線のにあったのだと、ようやく見えた。
娘は子にをついて、崩れるように座った。
健太は何か言いかけて、言葉を失った。
リビングの奥で、誰かがさく息をむ音がした。
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