"義母介護八年、離婚の夜に捨てられた私の逆転" 第2話
休のも増えた。
私は気づいていた。
けれど、問い詰める気力もなかった。
タクシーがホテルので止まった。私は料を払い、さなスーツケースを引いてロビーに入った。予約していた部に入り、ドアを閉めて鍵をかける。
その瞬、全から力が抜けた。
静かだった。
誰にも呼ばれない。誰にも鳴られない。何かが漏れた音も、アラームも、舌打ちもない。
私はベッドの端に座り、スーツケースの底から冊のノートを取りした。
そこには、、私が密かに続けてきた仕事の記録があった。
隆は、私が介護だけをしているとっていた。けれど私は、静子さんが眠った、宅でデザインの仕事を続けていた。
昔の職の先輩、佐々さんが声をかけてくれたのだ。
私は寝るを削り、パソコンに向かった。活費を切り詰め、自分名義の座にしずつ貯もしていた。
スマートフォンがった。
佐々さんからだった。
「準備はいました。から本格に始めましょう。あなたが積みげてきた力を、今度は自分のために使ってください」
画面を見た瞬、涙がこぼれた。
私は介護マシンではない。便利な政婦でもない。私は、というのだった。
その頃、隆はまだ何も分かっていなかった。
の朝、自分を待っているものが、自由な独活などではなく、介護の現実そのものだということを。
広告
私はベッドに横になり、目を閉じた。
、隆からどれだけ話が来ても、もう戻らない。
そう決めて、い眠りに落ちた。
翌朝、私は柔らかなで目を覚ました。
計を見ると、午だった。、こんなまで眠れたことは度もなかった。いつもなら午には起き、静子さんの着替え、洗顔、おむつ交換、朝、薬の準備に追われていた。
私はいシーツので、ゆっくり呼吸をした。
空気が軽い。
誰にも急かされない朝が、こんなにも静かで贅沢なものだとはわなかった。
コーヒーを淹れて窓際につと、スマートフォンが激しく震えた。画面には隆の名が表示されていた。
度目はなかった。
度目もなかった。
度目、度目、度目。
ようやく私はカップを置き、通話ボタンを押した。
「おい、! おどこにいるんだ!」
スピーカーからびしてきた隆の声は、昨の偉そうな声とはまるで違っていた。焦り、り、混乱がぐちゃぐちゃに混ざっている。
「おはよう。何か用?」
私が静かに答えると、隆はさらに声を荒げた。
「何か用じゃないだろ! 母さんが朝から暴れてるんだよ。おむつはパンパンだし、飯をわせようとしたら茶碗を投げられた。着替えもできてない。部のがひどいことになってる。く戻ってこい!」
私はコーヒーをんだ。
広告
苦が、ゆっくり喉を通る。
「あら、変ね。でも私たちは昨夜、婚届にサインしたわ。私はもうあなたの妻じゃないし、静子さんの嫁でもない。赤のが、どうしてあなたのの介護をしなきゃいけないの?」
「ふざけるな! 婚届なんてまだ役所にしてないだろ!」
「したわ。昨夜のうちに」
話の向こうが、瞬静かになった。
隆の荒い息だけが聞こえた。私がそこまでくくとはっていなかったのだろう。
「お、本当に正気か。母さんを見捨てるのか。鬼だな」
「、その鬼に全部押し付けてきたのは誰かしら」
私がそう言うと、隆はすぐに鳴った。
「俺は仕事をしてたんだ! 社会にてを稼いでた。おみたいにでゴロゴロしてる無能とは違う!」
その言葉に、もう傷つかなかった。
昨までなら胸が痛んだかもしれない。でも今は違う。彼の言葉は、もう私を縛れない。
「それで? 施設に入れるんじゃなかったの?」
私が尋ねると、隆はで笑った。
「入れるさ。それに、俺にはしいパートナーがいる。おより若くて、優しくて、俺を支えてくれる女だ。彼女なら母さんの面倒も見てくれる」
やはり、とった。
驚きはなかった。
「そう。じゃあ、そのにお願いすればいいわ」
「言われなくてもそうする。おはでのたれね」
話は乱暴に切れた。
私はしばらくスマートフォンを見つめた、保してあるフォルダをいた。
広告
おすすめ作品
-
連載中第7話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫1.1萬字5 27 -
完結第14話
特大おにぎりの恩返し
小学4年生の遠足の日、黒川大雅は「お弁当を忘れた」と笑う同級生・浅川亜美に、祖母が握ってくれた特大の梅干しおにぎりを分けた。 けれど、それはただの忘れ物ではなかった。 給食だけが唯一まともに食べられる日もあった亜美。お風呂にも入れず、空腹を隠して笑っていた彼女の事情を知った大雅の家族は、静かに手を差し伸べる。やがて亜美は祖父母の家へ引き取られ、二人は離ればなれになった。 それから20年後。 建設会社の社長となった大雅の前に、再開発予定地にある「こども食堂」を守ろうとする一人の女性が現れる。 その名は、浅川亜美。 あの日のおにぎりは、ただ空腹を満たしただけではなかった。祖母の優しさと、一人の少女の人生を変えた記憶は、20年の時を越えて、思いがけない形で大雅の前に戻ってくる――。人生逆転|真相2.0萬字5 17 -
完結第11話
部外者会長の逆襲
営業部の新年会に、夫と一緒に出席した井上ゆかり。 しかし会場に着くと、用意されているはずの席はなく、課長の獅倉からは笑いながらこう言われた。 「今日は関係者だけで飲もうよ」 部外者扱いされ、夫婦そろって追い出されるように店を出たゆかり。だが店の外には、黒いセダンと秘書が待っていた。 「帰るから、車出して」 「会長、承知しました」 実はゆかりには、会社の誰も知らないもう一つの顔があった。 翌朝、課長から慌てた電話が入る。大型契約が突然保留になり、会社のサーバーからは、ただの嫌がらせでは済まされない重大な痕跡が見つかっていた――。因果応報|修羅場1.6萬字5 704 -
完結第13話
吹雪の一杯
夫が遺した山あいの温泉旅館「灯里館」を、一人で守り続けてきた70歳の富美子。 しかし返済期限まで残り三ヶ月。1500万円の借金を抱え、親族や開発会社からは「もう旅館を売れ」と迫られていた。 そんなある吹雪の夜、富美子は雪の中で倒れていた一人の外国人男性を助ける。凍えた彼に差し出したのは、囲炉裏の火と、いつもの味噌汁だった。 ただの親切のはずだった。 だが、その外国人が残した映像をきっかけに、灯里館には世界中から予約が殺到する。さらに、旅館を買い取ろうとする開発会社が本当に狙っていたもの、そして亡き夫が密かに守ろうとしていた“山の秘密”が少しずつ明らかになっていく。 夫は本当に旅館を売ろうとしていたのか。 なぜ死後の日付で、夫の署名が残されていたのか。 消えかけた囲炉裏の火が、富美子の人生をもう一度動かし始める――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 641 -
完結第10話
消えた金づる夫
妻と娘が、妻の浮気相手とハワイ旅行へ出発する朝。 山中敏文は、玄関で笑いながら荷物を確認する2人を黙って見送っていた。妻の裏切りも、娘がそれを知りながら母親の浮気相手と親しくしていたことも、すでにすべて知っていたからだ。 「今日でさようならだな。永遠に帰ってこなくていいぞ」 敏文の言葉を、妻はただの嫉妬だと笑い飛ばす。娘もまた、父を見下すような言葉を残して出ていった。 しかしその日こそ、敏文が何か月もかけて準備してきた“最後の日”だった。 2人がハワイで浮かれている間に、家の中から荷物は消え、生活の土台は静かに崩されていく。妻が当然のように帰るつもりだった場所は、もう以前の家ではなかった。 帰国後、空っぽの部屋で妻が知ることになる真実。 そして、金づるだと思っていた夫が本気で消えた時、彼女たちの人生は一気に崩れ始める――。人生逆転|夫婦|不倫1.5萬字5 2198 -
完結第12話
アクセル細工の報い
深夜1時、森雪穂のスマホに届いた防犯カメラの通知。 ガレージの映像に映っていたのは、夫・翔太だった。彼は周囲を気にしながら、雪穂が祖父から受け継いだ大切な車に何かをしていた。 翌朝、翔太は不自然なほど雪穂を車で外出させようとする。だが雪穂は知らないふりをしたまま、車には乗らなかった。 そんな時、突然やって来た義両親が「今日だけ車を貸してほしい」と言い出す。見栄のために雪穂の車を借りようとする2人を、なぜか翔太だけが必死に止め始めた。 「待ってくれ。その車はやめろ」 昨夜、夫は車に何をしたのか。 そして、義両親がその車に乗った瞬間、翔太の隠していた本性が静かに崩れ始める――。因果応報|夫婦1.8萬字5 3043 -
完結第12話
凍った再婚式
36年間連れ添った夫の鞄から、妻・佳子が見つけたのは、見知らぬ女性との結婚招待状だった。 しかも日付は3月14日。会場は京都・祇園の高級旅館。招待客は約100人。夫はまだ離婚も成立していない妻を残したまま、別の女性との“再婚式”を準備していた。 だが佳子は泣かなかった。問い詰めることもなく、招待状を写真に収め、静かに元の場所へ戻した。 夫婦の共有口座から消えていた金。京都に隠されていた3800万円のマンション。退職予定の夫に支払われる2500万円の退職金。そして、妻を財産から外そうとする遺言。 36年間、夫の予定も家計も管理してきた佳子は、すでにすべてを記録していた。 そして迎えた再婚式当日。 祝福に包まれるはずだった会場へ、一通の呼出状が届けられる。 夫が新しい人生を始めるはずだったその日、明るみに出たのは、誰にも知られたくなかった嘘と隠し財産だった――。因果応報|不倫1.7萬字5 1131 -
完結第12話
泥まみれの客と黒塗り5台
土砂降りの夜、タクシー運転手の佐藤美咲は、泥だらけで道端に立ち尽くす1人の老人を見つけた。 他のタクシーは、車が汚れることを嫌って次々と通り過ぎていく。中には、老人をあざ笑い、泥水まで浴びせて走り去る運転手もいた。 月末までにノルマを達成できなければクビ。幼い娘の手術を控え、仕事を失うわけにはいかない美咲も、一瞬だけ迷った。 それでも彼女は車を止める。 「シートなんて洗えばいいんです」 そう言って老人を乗せ、傘を差し、温かい缶コーヒーを手渡した。 しかし翌朝、美咲を待っていたのは、汚された車両と突然の解雇通告だった。 泣き崩れる彼女の前に、5台の黒塗りの車が営業所へ現れる。 昨日の泥だらけの老人は、いったい何者だったのか。 たった1本の缶コーヒーが、彼女の人生を大きく変えていく――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 1873