"切れた数珠の15年" 第1話
15、京都・原の麓は、夜けから激しいに包まれていた。
の斜面にひっそりと建つさな尼寺、自由庵。その本堂の根を、粒が容赦なく叩いていた。境内の段にはが流れ、々はに揺れ、寺全体がいのに沈んでいるようだった。
朝のお勤めのため、老いた尼僧の1が本堂へ向かった。にはさな灯皿を持っていた。いつものように戸にをかけたが、そのは妙にくじた。
戸を引いた瞬、尼僧の指が止まった。
ご本尊のに、若い尼僧が奇妙な角度でうつ伏せに倒れていた。
「蓮華……?」
24歳の尼僧、蓮華だった。
灯皿がに落ち、乾いた音をてた。老尼僧はそのに膝をつき、鳴をげようとしたが、喉からたのは絞りすようないうめき声だけだった。
震えるで寺の話にたどり着き、ようやく警察へ通報した。もなく、サイレンの音がのを切り裂いた。
最初に本堂へ踏み込んだのは、京都府警の若い巡査、哲也だった。に濡れた制の肩からが滴っている。は本堂へ入った途端、眉をひそめた。
を刺す、い化学薬品の匂いが充満していた。
古い材と線のりが漂うはずの本堂に、業用薬品のような異様な匂いが混ざっていたのだ。
に血痕はなかった。指紋も、跡も、争った形跡も見つからない。
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まるで何者かがい薬品をまき、痕跡という痕跡を溶かして消したかのようだった。
さらに捜査員たちを困惑させたのは、本堂の戸だった。
戸は内側から閂がろされていた。つまり現は、完全な密だったのである。
「内側から閉まっているのに、犯はどうやってたんだ」
刑事たちは互いに顔を見わせた。
2、蓮華の遺体は司法解剖に回された。たい解剖台のでらかになったのは、さらに衝撃な事実だった。
蓮華の胎内には、妊娠5ヶのさな命が宿っていた。
俗世をれたはずの若い尼僧の妊娠と殺害。事件は気に全国報となった。
しかし、マスコミは真相を掘りげるより先に、蓮華の名誉を踏みにじった。
「堕落した尼僧の秘められた活」
「寺に隠された若い尼僧の素顔」
そんな見しが聞やテレビを埋め尽くした。
蓮華を幼い頃から育てた自由庵の老尼僧たちは、葬儀の席でただ泣き崩れるしかなかった。彼女たちにとって蓮華は、寺の子であり、族だった。
その葬儀へ、1の男が駆け込んできた。
黒田真。若くして名をげたエリート弁護士だった。
彼は蓮華と同じく幼い頃に自由庵へ引き取られ、老尼僧たちに育てられた男だった。蓮華にとっては兄のようなだった。
真はカメラので膝をつき、に両をついて号泣した。
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「蓮華……どうして……」
肩を震わせ、唇を噛みしめるその姿に、報陣のフラッシュが斉にった。
巡査は、その様子をれた所から見ていた。
真の涙は、あまりにいすぎていた。
カメラの赤い録画ランプが点くたび、彼の線は自然にレンズへ向く。ランプが消えると、涙も表もすっとれる。そして再びカメラが向けられると、真の喉仏がき、涙が流れる。
は帳に「黒田真」とき、そのにい線を引いた。
しかし、その直はすぐに壁にぶつかることになる。
は、真の当の取りを調べた。
事件当夜、真は京の最級ホテルでかれたチャリティーパーティーに席していた。数百もの力者が集まる華やかな会で、真は会に姿を見せ、くの招待客と握を交わしていた。
ホテルの総支配・園寺は、自ら捜査本部を訪れた。
「黒田先は違いなく会にいらっしゃいました」
そう言って、彼は分い封筒を差しした。にはパーティー写真が何枚も入っていた。
写真のの真は、シャンパングラスを片に笑っていた。どの写真にも撮刻が記録されている。証拠としてはあまりにっていた。
は写真を1枚ずつ確認した。会の照、席者の顔、真のち位置。そのどれもが自然に見えた。
だが、の目は1つの違を捉えた。
写真と写真のに、ぴったり2の空があったのだ。
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