みかん小説
本棚

"柿の木の下の息子" 第5話

だが何も言わなかった。

の告はまだ終わっていなかった。

「おじさんはんでくれたんです」

「純也を待つだって」

「ありがとうって」

は嗚咽した。

「自分の息子のをかけながら……」

「ありがとうって言ったんです」

号泣する太を見ながら、川は初めてりを覚えた。

はここまで残酷になれるのか。

父親は毎そのをやった。

肥料を与えた。

帰ってくるはずの息子を待ちながら。

その真に息子が埋まっているともらずに。

しかし。

川にはまだつだけ分からないことがあった。

はどうした」

の泣き声が止まる。

ゆっくりと顔をげた。

その目はなほど静かだった。

りません」

「本当にりません」

「純也だけです」

川は太の目を見つめた。

そこに嘘は見えなかった。

だが真実もまた見えなかった。

は今ものままだった。

〇〇

埼玉方裁判所。

法廷は満員だった。

民。

陣。

傍聴

誰もがこの事件の結末を見届けようとしていた。

被告席には佐藤太が座っている。

かつての期待を背負った青

今は殺犯として裁かれていた。

裁判が静かに判決文を読みげる。

「被告佐藤太は、純也さんを殺害し、遺体を隠匿した」

「さらににわたり発覚を免れるため作をった」

広告

法廷は静まり返っていた。

列には聖太郎と純子が並んで座っている。

を握りっていた。

判決が告げられる。

はうつむいたままかなかった。

全てが終わったのだ。

裁判終

聖太郎は法廷を度だけ振り返った。

と目がう。

げた。

だが聖太郎は何も言わなかった。

許すことも。

責めることも。

ただ静かにっていった。

それから

事はさらにみ、かつてのの面は消えつつあった。

川警部補はで現を訪れた。

も。

公民館も。

柿のも。

もう何も残っていない。

広い更があるだけだった。

が吹き抜ける。

埃ががる。

川は柿のがあった所にった。

そこには本の目印の杭だけが残されていた。

か……」

さく呟く。

たいで眠り続けた青

それをらずにを育て続けた父親。

そして嫉妬にを壊した友

誰も幸せにならなかった事件だった。

ろから伊藤刑事が歩いてくる。

さん夫婦、昨引っ越したそうです」

「どこへ」

「群馬の親戚のだそうです」

川は空を見げた。

つない青空だった。

「最に何か言っていたか」

伊藤はし黙った。

そして答える。

「こう言っていたそうです」

『やっと純也を連れて帰れる』

が吹く。

はしばらく何も言わなかった。

待ち続けた父親。

その願いは最悪の形で叶った。

だが、それでも帰ってきたのだ。

ようやく。

ようやく息子はへ帰ることができた。

川は静かに目を閉じた。

くで両の音が響いている。

は消える。

建物も消える。

々の記憶も、いつかれていく。

それでも。

柿ので起きた来事だけは消えない。

が嫉妬へ変わった夜。

父親がらずに息子を待ち続けた

そして――

遅すぎた帰宅。

が吹き抜ける更で、川は最にもう度だけ杭を見つめた。

やがて踵を返し、静かに歩きす。

事件は終わった。

しかし、失われたは誰にも戻せない。

その事実だけが、夕暮れの空のく残り続けていた。

― 完 ―

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: