"柿の木の下の息子" 第5話
だが何も言わなかった。
太の告はまだ終わっていなかった。
「おじさんはんでくれたんです」
「純也を待つだって」
「ありがとうって」
太は嗚咽した。
「自分の息子のにをかけながら……」
「ありがとうって言ったんです」
号泣する太を見ながら、川は初めてりを覚えた。
はここまで残酷になれるのか。
。
父親は毎そのにをやった。
肥料を与えた。
帰ってくるはずの息子を待ちながら。
その真に息子が埋まっているともらずに。
しかし。
川にはまだつだけ分からないことがあった。
「林はどうした」
太の泣き声が止まる。
ゆっくりと顔をげた。
その目は気なほど静かだった。
「りません」
「本当にりません」
「純也だけです」
川は太の目を見つめた。
そこに嘘は見えなかった。
だが真実もまた見えなかった。
林は今も方のままだった。
〇〇。
埼玉方裁判所。
法廷は満員だった。
の民。
報陣。
傍聴。
誰もがこの事件の結末を見届けようとしていた。
被告席には佐藤太が座っている。
かつての期待を背負った青。
今は殺犯として裁かれていた。
裁判が静かに判決文を読みげる。
「被告佐藤太は、純也さんを殺害し、遺体を隠匿した」
「さらににわたり発覚を免れるため作をった」
広告
法廷は静まり返っていた。
最列には聖太郎と純子が並んで座っている。
はを握りっていた。
判決が告げられる。
太はうつむいたままかなかった。
全てが終わったのだ。
裁判終。
聖太郎は法廷をるに度だけ振り返った。
太と目がう。
太はくをげた。
だが聖太郎は何も言わなかった。
許すことも。
責めることも。
ただ静かにっていった。
それから週。
。
再発事はさらにみ、かつてのの面は消えつつあった。
川警部補はで現を訪れた。
も。
公民館も。
柿のも。
もう何も残っていない。
広い更があるだけだった。
が吹き抜ける。
埃がいがる。
川は柿のがあった所にった。
そこには本の目印の杭だけが残されていた。
「か……」
さく呟く。
たいので眠り続けた青。
それをらずにを育て続けた父親。
そして嫉妬にを壊した友。
誰も幸せにならなかった事件だった。
ろから伊藤刑事が歩いてくる。
「さん夫婦、昨引っ越したそうです」
「どこへ」
「群馬の親戚のだそうです」
川は空を見げた。
つない青空だった。
「最に何か言っていたか」
伊藤はし黙った。
そして答える。
「こう言っていたそうです」
『やっと純也を連れて帰れる』
が吹く。
はしばらく何も言わなかった。
待ち続けた父親。
その願いは最悪の形で叶った。
だが、それでも帰ってきたのだ。
ようやく。
ようやく息子はへ帰ることができた。
川は静かに目を閉じた。
くで事両の音が響いている。
は消える。
建物も消える。
々の記憶も、いつかれていく。
それでも。
柿のので起きた来事だけは消えない。
友が嫉妬へ変わった夜。
父親がらずに息子を待ち続けた。
そして――
遅すぎた帰宅。
が吹き抜ける更ので、川は最にもう度だけ杭を見つめた。
やがて踵を返し、静かに歩きす。
事件は終わった。
しかし、失われたは誰にも戻せない。
その事実だけが、夕暮れの空のにく残り続けていた。
― 完 ―
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
ガジュマルの根が暴いた夜
2008年夏、京都郊外の古寺で、台風によって1本のガジュマルの老木が倒れた。 むき出しになった根の下から見つかったのは、大人2人と幼い女の子の人骨。そばには、色褪せたピンクのワンピースと、腐食したビジネスバッグが残されていた。 それは15年前、一夜にして姿を消した北村家3人のものだった。 当時、夫の健二は勤務先の建設会社で、不自然な金の流れに気づいていた。だが警察へ告発しようとした直後、妻と幼い娘もろとも消息を絶つ。 なぜ3人は、寺の木の下に埋められていたのか。 バッグの中に残されたフィルム、少女の服に縫われた小さな梅の花、そして15年間沈黙していた男の証言。 刑事・田中恵美が古い証拠を追うにつれ、慈善家として知られる大物会長の仮面が少しずつ崩れていく。 しかし、ガジュマルの根が暴いた真実は、まだ終わりではなかった。 北村家が消された夜、その奥には、誰も触れてはならないさらに深い闇が隠されていた――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 11 -
完結第10話
Night072の夏
2019年7月、大阪。 16歳の高校生・瀬名ほのかは、学校を出たあと家に帰らなかった。普段なら遅くなる時は必ず連絡を入れる娘。だがその夜、何度電話をかけても、返ってくるのは留守番電話だけだった。 捜査が始まる中、親友の証言から、ほのかがSNSで知り合った謎の人物と会う約束をしていたことが分かる。 相手の名は「Night072」。 優しい言葉でほのかの悩みに寄り添い、「君を理解している」と語り続けたその人物は、本名も顔も分からないまま、巧妙に正体を隠していた。 やがて、大和川で発見された黒い袋が、事件を最悪の方向へ動かしていく。 医学知識を持つ人物。消された通信記録。空き家に残された痕跡。そして、画面の向こうで優しく語りかけていた「Night072」の本当の姿。 ほのかはなぜ狙われたのか。 そして、彼女が最後に信じた相手は、何者だったのか――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 247 -
完結第12話
井戸に沈んだ制服
1992年10月、宮城県の山あいの村で、68歳の天野越子が突然姿を消した。 越子はその日、いつものように籠に米と果物、庭の菊を入れ、村外れの寺へ向かった。自宅から寺まではわずか600m。何百回も歩いてきた道で、迷うはずなどなかった。 しかし、越子は寺には着いていなかった。 警察犬は自宅から約100m進んだ場所で、彼女の匂いを見失う。財布も通帳も家に残されたまま、争った跡も、倒れた痕跡もない。まるで、その短い道の途中で忽然と消えたかのようだった。 そして7ヶ月後。 村の古井戸から見つかったのは、40年近く前の女子学生服に包まれた、越子のものと思われる一部の骨だった。 なぜ、寺へ向かっただけの老女が消えたのか。 なぜ、古い制服に包まれていたのか。 捜査線上に浮かんだのは、越子の若い頃を知る一人の元教師だった。 彼の家の地下室で警察が見たものは、この村が長年信じてきた“平穏”を根底から壊すものだった――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 180 -
完結第13話
嘘を握った右手
2014年、群馬県の山間部で山わさび畑を営む田中健二が突然姿を消した。 宿舎には通帳も現金も残され、畑の給水設備は止まったまま。几帳面だった健二が、何も告げずに山を離れるはずがなかった。 数日後、農業廃棄物の下から見つかったのは、遮光幕に包まれた健二の姿。右手には、最後まで離さなかった数本の髪が握られていた。 地主の女社長、解雇された若い作業員、秘密の携帯電話、108回の通話記録。 山奥の乾燥倉庫で、あの夜いったい何が起きたのか。 嘘と欲望にまみれた不倫関係が、やがて誰にも消せない証拠を地上へ呼び戻していく――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 164 -
完結第11話
五人目の白い靴
2003年夏、琵琶湖のほとりでキャンプをしていた伊藤一家4人が、忽然と姿を消した。 車もテントも荷物もそのまま。財布や鍵、子どもの持ち物まで残されていたのに、家族だけがどこにもいない。唯一、テントの中にあったのは、伊藤家のものではない片方だけの白い運動靴だった。 靴の内側には、消えかけた名前。さらに、長い年月を経て判明した血の痕跡。 捜査は難航し、事件は未解決のまま5年が過ぎる。だが、再鑑定によって白い靴が語り始めたのは、伊藤一家だけではない、もう一人の少女の存在だった。 なぜ、その靴は琵琶湖のテントにあったのか。 そして、5年前から誰にも届かなかった少女の名前とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 200