"録音機が暴いた息子の本音" 第4話
霞は気の話でもするように言った。
「変申しげにくいのですが、当分の、こちらにいらっしゃるのは控えていただけないでしょうか」
子はわずイヤホンをし、テーブルに置いた。
結婚祝いも初孫の祝いも、息子に恥をかかせないように現をしてきた夫。息子のへくために番良いスーツを着て、産まで持って訪ねた夫。その夫に、匂いがするから来るなと言ったのだ。
その、浴のドアがいた。
濡れた髪の茂が、キッチンに座る子と、テーブルのの録音を見た。彼の目がきくいた。
「これで全部なの」
子の声は震えていた。
「はその、何をしていたの」
茂の顔に浮かんだのはりではなかった。恐怖だった。自分の最も惨めな瞬を妻に聞かれたことへの恐怖だった。
「よせ。今すぐそれをよせ」
夫は録音を奪おうとした。だが子はを引かなかった。
「聞かなきゃいけないわ。嫁がそんなことを言っている、あなたの息子が何をしていたのか」
「聞くな!」
夫は絶叫した。
「頼む、子。聞かないでくれ。俺が悪かった。俺が全部悪かったんだから」
茂はそのに崩れ落ちた。涯、誰のでも膝をつかなかった男が、キッチンのに座り込み、子どものように泣き始めた。
子は夫を見なかった。
再びイヤホンをに差し込み、再ボタンを押した。
広告
録音ので、霞の言葉のあと、い沈黙があった。
子は祈った。
、止めて。
父親になんてを聞くんだと、妻を叱って。
その、の声がした。
「霞、それ以言うな」
子は目を閉じた。
よかった。
だが次の言葉で、胸を引き裂かれた。
「なんでそんな回りくどい言い方をするんだよ。パパが疲れちゃうだろう。正直に言えばいいだろう」
息子の声は、嫁よりもたかった。
録音ので、は続けた。
「俺たちがパパの匂いが嫌で文句を言ってるとってるのか。違うだろ。相談があるって言っただろう」
夫のかすれた声が聞こえた。
「それは先週も聞いた」
「先週も言ったよな。今、俺の事業に急いでが必なんだ。だからパパとママのマンションを担保にして、から融資を受けさせてくれって」
子はすべてを悟った。
1週、夫が斎で泣いた夜。あの話はすでにていたのだ。息子は父親の誇りを度砕き、それでもりず、嫁まで使って残り物の噌汁と老臭の屈辱を与えたうえで、本題を切りしたのだ。
夫が言った。
「あれは駄目だと言ったはずだ。あのマンションは、母さんと俺の最の老資なんだ」
「また老かよ」
の声が荒くなった。
「老、老って。俺の事業が潰れてに迷うかもしれないのに、パパの老がそんなに事か」
「言葉に気をつけろ」
広告
夫がようやく声を張った。
だがは止まらなかった。
「俺が今、誰のせいでこんな苦労してるとってるんだ。全部パパのせいだろうが」
「何だって」
「学の、俺が留学させてくれって頼んだよな。あの、パパが俺を留学させてくれていれば、今ごろこんなさな事業でをげる必なんかなかったんだ。パパが俺のを潰したんだよ」
子の脳裏に、1997のがよみがえった。
況で夫の町が潰れ、んでいたアパートを追われ、古い団の1に移った。は学2だった。学費を払うもなかった。
茂は朝4に起きて聞配達をし、昼は建設現でセメント袋を運び、夜はので駐理をした。子は姑から譲られた着物と、親から「これだけは放すな」と言われた結婚指輪を質に持ち込んだ。
そので息子の学費を払った。
1、いご飯をまともにべられなかった。でただでもらった根の葉で噌汁を作り、い麦を米に混ぜて炊いた。
その獄ので、息子は留学できなかったことをんでいたのだ。
録音ので霞が言った。
「お義父さん、あのしてあげられなかったことの埋めわせだとってください。このマンションだって、結局は私たちが相続する財産なんですから。今ちょっと借りするだけじゃないですか」
子は乾いた笑いを漏らした。
い沈黙のあと、夫の声が聞こえた。
「ごめん」
子は自分のを疑った。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
寿司屋で暴かれた嫁
68歳の田村節子は、息子の再婚相手である嫁・美咲を、ずっと“よくできた人”だと思っていた。 亡き夫を失い、1人暮らしになった節子の家へ通い、手料理を届け、病院の送り迎えまで申し出てくれる優しい嫁。近所の人たちからも羨ましがられ、節子自身も本当の娘のように感じ始めていた。 しかし、美咲は少しずつ、家の権利書や預金、保険の受取人について尋ねるようになる。 そんなある日、節子は美咲に誘われ、馴染みの寿司屋へ向かった。ところが店主は、美咲の顔を見た瞬間、血相を変えて叫ぶ。 「節子さん、その人から早く逃げてください」 店主の父を騙し、財産を奪った女と同じ顔――。 信じたい気持ちと、拭えない違和感。やがて節子は、嫁の荷物の中から決定的なものを見つけてしまう。 優しい嫁の正体は何者なのか。 そして節子は、息子と家を守るため、静かに反撃を始める。因果応報|相続|親子関係1.7萬字5 14 -
完結第9話
橋の下で見つけた孫
夫の三回忌を終え、心を癒すために熱海を訪れた鈴木里子。 賑やかな温泉街の片隅で、彼女は一人の痩せた少女と出会う。土埃にまみれた裸足、古びた人形を抱きしめる小さな手。そして右目の下にある、息子と同じ場所のほくろ。 「おばあちゃん……本当に、おばあちゃん?」 少女の言葉に、里子の時間は止まった。 3年前、嫁の嘘を信じた息子・剣太は、里子を拒絶し、妻と娘を連れて姿を消した。オーストラリアへ移住したはずの息子と孫娘。けれど里子が連れて行かれた先は、観光地の明るさから遠く離れた、冷たい橋の下だった。 そこにいたのは、変わり果てた息子と、飢えに耐えて生きてきた孫娘。 あの日、家族を引き裂いた嘘の真相とは何だったのか。 失われた3年間を取り戻すため、里子は息子と孫を連れて鎌倉の家へ帰る。そして、すべてを奪った女との静かな戦いが始まる――。真相|親子関係1.3萬字5 5 -
完結第6話
桜を連れて消えた妻
「男の子を産んでほしい」 娘・桜を命がけで出産した私に、義母は何度もそう言い続けた。医師から次の妊娠は命に関わると告げられても、夫は私を守ってくれなかった。 女の子である桜は、いつも“足りない存在”のように扱われ、私は笑顔の裏に隠された言葉で少しずつ追い詰められていく。 やがて夫は、外に別の女性を作った。 そしてある夜、彼は私に告げる。 「その人に子供ができた。男の子だ。離婚してほしい」 私は黙って離婚届に名前を書き、3分後、娘と一緒に家を出た。 翌日、夫と義母は新しい命の検診へ向かう。待ち望んだ“男の子”のはずだった。 しかし診察室で医師が告げた一言に、夫家族は凍りつくことになる――。夫婦|親子関係9.1千字5 104 -
完結第7話
義母が家を売った日
夫に裏切られ、車いす生活の義母の介護まで押し付けられたゆい。 離婚したその日、夫は若い女性のもとへ逃げ出し、実の母である義母を置き去りにした。しかも「離婚しても母さんはお前の親だろ」と言い放ち、介護だけを元妻に押し付けようとする。 しかし、夫は知らなかった。 車いすの義母は、ただ助けを待つだけの弱い老人ではなかった。資産を持ち、知恵を持ち、何よりも自分を本当の娘のように支えてくれたゆいを守る覚悟を決めていたのだ。 夫が若い女との新生活に浮かれている間、義母は静かに電話を手に取る。 「まずは、この家を売ろうかしら」 血のつながった息子より、心でつながった嫁を選んだ義母。 そして、母も妻も捨てた夫に待っていたのは、想像もしない転落だった――。因果応報|介護|不倫1.0萬字5 183 -
完結第7話
消えた3506号室
70歳を迎える井上秀夫は、亡き妻との約束を胸に、息子夫婦と同居していた。 30年間守ってきたラーメン屋と、妻との思い出が詰まった家を売り、全財産を使って港区のタワーマンションを購入した秀夫。これからは息子夫婦と温かい家族として暮らせる――そう信じていた。 しかし現実は違った。 毎朝心を込めて作る朝食は見向きもされず、家族旅行にも誘われない。そんな中、息子夫婦は「大阪出張」と「母の看病」という嘘をつき、秀夫を1人残して豪華なヨーロッパ旅行へ出かけようとしていた。 しかも、その旅行期間は、秀夫が人生最後になるかもしれない70歳の誕生日と重なっていた。 秀夫には、どうしても息子に伝えなければならない秘密があった。だが、裏切りを知った彼は静かに決意する。 息子夫婦が旅行を楽しんでいる間に、秀夫は自分名義のタワーマンションを売却し、姿を消した。 帰国した2人を待っていたのは、もう開かない玄関と、父からの冷たい一通の手紙。 なぜ父は突然すべてを捨てたのか。 そして、息子夫婦が失ったものは、家だけではなかった――。因果応報|相続|親子関係|金銭問題1.0萬字5 104 -
完結第6話
ハワイへ消えた母
「10年間、お疲れ様でした」 息子夫婦からそう告げられ、68歳の長沼クミは家を出るよう求められた。 孫の世話、家事、食事、掃除――結婚以来10年間、息子家族のために尽くしてきた日々。けれど、感謝の言葉はいつしか消え、最後に残ったのは“もう必要ない”という冷たい宣告だった。 しかし、クミは泣かなかった。 なぜなら彼女は、ずっと前からこの日が来ることを予感していたから。 翌朝、荷物はすでにまとめられていた。息子夫婦が呆然と見つめる中、クミは静かに家を去る。そして1ヶ月後、彼女は日本ではなく、青い海の広がるハワイにいた。 その頃、息子からの着信は90件。 だが、クミが再び振り返ることはなかった――。因果応報|人生逆転|ATM扱い|親子関係9.4千字5 86