"雨の美容室ローズ" 第5話
誰もその男をらない。
誰もその男の方を見ていない。
がかりは、ぷつりと途切れてしまったのです。
捜査がうようにまない、娘の美佐さんは自分にできることを必で探していました。
会社の昼休みや仕事ののを使って、母の写真を刷ったビラを作りました。
「このを探しています」
きくそうき、母の相や、消えたのことを記しました。それを駅や商、団の掲示板に1枚ずつ貼って回ったのです。
のも、のも、美佐さんは商の角にちました。くにビラを渡し、をげ、「母を見かけませんでしたか」と声をかけ続けました。
商のたちは、そんな美佐さんを温かく見守っていました。
田所さんは々、美佐さんに温かいお茶を差し入れました。本さんは「気を落とすんじゃないよ」と肩をさすってくれました。
「しずちゃんはね、しっかりしただから、きっとどこかできてるよ。あんたが探してるってったら、きっと帰ってくるよ」
その言葉に、美佐さんは何度も涙をこぼしました。
けれど、母は帰ってきませんでした。
が来て、梅がけ、商にはセミの声が響くようになりました。やがてその声も止み、の葉がづき、の売りの声が商にこだましました。そしてまたが来ました。
広告
季節は待ってくれません。
1が過ぎ、2が過ぎていきました。
美佐さんは毎、母が消えた6になると商へやってきて、しいビラを貼り直しました。けれど古いビラはの貼りに隠れ、にふやけ、剥がれ落ちていきます。ち止まって読んでくれるも、々なくなっていきました。
警察の捜査も、目ぼしいがかりがないまま次第に縮されていきました。
しい事件が次々と起こるで、捜査のをいつまでも1つの方事件に割くことはできなかったのです。
刑事は、そのも折、この事件のことをい返していました。
止まったままのハサミ。
つかずのレジ。
ついに正体のつかめなかった最の客。
「あの男は、体何者だったんだ」
事件は、のの奥に、さく、しかし消えることのないしこりを残していました。
夫はすでにくなり、母も消えた。
美佐さんは、たった1になっていました。
それでも美佐さんは、母をんだとはどうしてもいたくありませんでした。
葬式もしていない。
墓もてていない。
母はどこかできている。
そう信じることだけが、美佐さんのをかろうじて支えていたのです。
ローズのは、しばらくそのまま残されていました。
美佐さんは賃を払い続け、いつか母が帰ってきたにすぐをけられるようにと、々の掃除をしに通いました。
広告
けれど、それもくは続きませんでした。
母のいないは、のが入ってもどこかたく、よそよそしいのです。鏡は曇り、子は古び、赤い庇はごとにを失っていきました。
あれほど賑やかだった町の女たちの笑い声も、もうそこには響きません。
ついに美佐さんは、を畳むことを決めました。
母が消えてから、何もが過ぎた頃のことです。
美佐さんは母の具を1つ1つ、涙ながらに片付けました。使い込んだハサミ、櫛、ドライヤー、鏡のに並んでいたさな遣いの品々。そのどれにも、母ののぬくもりがまだ残っているような気がしました。
「母さん、ごめんね。でも私、もう……」
美佐さんは、かりの消えたの真んにって、い泣きました。
はに渡りました。
そして、その建物もやがて取り壊されることになります。
2013、。
しず子さんが姿を消してから、10の歳が流れていました。
川の商も、この10でずいぶん様変わりしていました。シャッターのりたがまた1つ、また1つと増えています。昔ながらの百や魚はいつのにか姿を消し、代わりにどこにでもあるような便利なや、若い向けのがぽつぽつとできていました。
それでも田所さんの干物はまだそこにありました。すっかり腰の曲がった田所さんが、今も先をぼうきで掃いています。
向かいの本さんのも、女将さんはを取りましたが、相変わらずとりどりのを先に並べていました。
広告
おすすめ作品
-
完結第5話
消えた教師と127番の鍵
1997年、北アルプスで単独登山をしていた小学校教師・佐藤幸恵が、忽然と姿を消した。 リュックも靴も水筒も見つからず、まるで山に吸い込まれたかのように消えた彼女。家族は必死に捜し続けたが、手がかりは何ひとつ残されていなかった。 それから2年後。 秋の渓谷で、登山客が岩の間に挟まった小さな紫色の小銭入れを発見する。中に入っていたのは、幸恵の身分証明書、謎の鍵、そして破れた一枚のメモだった。 そこに震える文字で書かれていたのは―― 「私はこの山に1人ではなかった」 彼女は本当に単独登山中に遭難したのか。 それとも、山にはもう1人、誰かがいたのか。 小銭入れに残された127番の鍵が、2年間眠っていた真実の扉を開いていく。ミステリー|真実7.5千字5 0 -
完結第6話
秩父の森に残された映像
2003年、卒業課題のために秩父山中へ向かった5人の大学生が、森の奥で忽然と姿を消した。 彼らが調べようとしていたのは、管理区域外で夜ごと聞こえるという重機の音と、地図にない工事現場の噂。ビデオカメラ、GPS、無線機を持って森へ入った5人は、やがて人の気配が消えたはずの山中で、不自然な構造物と誰かに見張られているような視線を感じ始める。 そして最後の夜。 暗闇の中で響いた悲鳴、壊された車、森の奥へ消えていく仲間たち。翌日発見されたのは、傷を負い、怯えきった1人の生存者だけだった。 事件は山岳事故として処理されかけ、4人の行方は分からないまま時だけが流れていく。 しかし7年後、秩父の山中で発見された1台のビデオカメラが、封じられていた真実を再び呼び覚ます。 そこに映っていたのは、ただの遭難では説明できない、森の奥に隠された“誰かの罪”だった――。ミステリー|行方不明9.2千字5 6 -
完結第5話
白いワンピースの帰還
1997年5月、郊外のパチンコ店で、6歳の少女・桜が母の目の前から忽然と姿を消した。 白いワンピースを着て、お菓子の棚の前に立っていたはずの娘。母が一瞬だけ目を離した直後、桜の姿はどの防犯カメラにも映らなくなっていた。 店内にはいくつもの死角があり、監視映像には不自然な途切れが残されていた。駐車場にも、正面出口にも、桜が1人で出ていく姿はない。ただ、黒い服の男と白いワンピースの子どもを見たという曖昧な証言だけが残った。 迷子なのか、連れ去りなのか。 警察は店の映像、管理会社の記録、港へ向かった車の目撃情報を追うが、決定的な証拠は見つからない。事件は未解決のまま、家族の時間だけが止まっていく。 それから14年後。 美咲と久志の自宅玄関前に、差出人不明の段ボール箱が届く。中に入っていたのは、桜が消えた日に着ていたはずの白いワンピース。 そして、一通の短い手紙。 「私は生きている。心配しないで」 14年前、パチンコ店の柱の影で何が起きたのか。消された映像の裏にいた人物とは誰なのか。 段ボールに残されたわずかな手がかりが、長く閉ざされていた真実の扉を開き始める。ミステリー|真実|行方不明7.1千字5 2 -
完結第8話
赤城山に消えた幸
2005年春、群馬・赤城山の山開きに参加した52歳の女性・木村幸が、下山中に忽然と姿を消した。 最後に彼女と一緒にいたのは、山岳会の登山リーダー・田中健二。彼は「彼女は先に下りた」と証言したが、幸は打ち上げ会場にも、自宅にも戻らなかった。 警察、消防、山岳救助隊による大規模な捜索が行われたものの、足跡も所持品も見つからない。まるで山の中で、彼女だけが消えてしまったかのようだった。 それから1年後。 赤城山の麓にある廃山荘のリフォーム工事中、古い浄化槽の中から人骨が発見される。そばには登山靴、指輪、壊れた携帯電話。 山で消えたはずの女性は、なぜ登山道から離れた廃山荘にいたのか。 そして、彼女の最後を知っていた人物は誰だったのか――。ミステリー|真実1.1萬字5 119 -
完結第5話
青い門扉の三つ子
1992年12月、名古屋の静かな路地で、5歳の三つ子の兄弟が一夜にして姿を消した。 寝かしつけたはずの布団は空になり、玄関はわずかに開いていた。外部の男による誘拐、近所の不審者、曖昧な目撃証言――捜査は何度も別の方向へ揺れたが、決定的な手がかりは見つからないまま、事件は未解決のまま時の中へ沈んでいく。 しかし、20年後。 かつて祖母が住んでいた青い門扉の家の解体工事中、地面の下から小さな骨が見つかる。 長い沈黙を破るように現れた真実。 孫を誰よりも可愛がっていたはずの祖母は、あの夜、本当は何をしていたのか。 20年間、土地だけが覚えていた三つ子失踪事件の真相が、ついに明らかになる。ミステリー|真実7.0千字5 46 -
完結第6話
崖下に残された声
2018年秋、北アルプスの断崖下で、田中優人とその母・よしえの遺体が発見された。 唯一生き残ったのは、優人の妻・渡辺彩佳。彼女は泣き崩れながら「写真を撮ろうとして、2人が足を滑らせた」と証言した。現場の状況も事故として説明でき、警察はやがて悲劇的な同時滑落事故として処理する。 だが、若い刑事・伊藤健二だけは、彩佳の表情に違和感を覚えていた。 葬儀では悲劇の未亡人を演じ、8億円の保険金を受け取った直後、彩佳は姿を消す。事件はそのまま忘れられていくかに見えた。 それから7年後。 解体される田中家の旧宅の壁の中から、黒いタブレット端末が発見される。そこには、死んだはずの夫が残した音声、日記、監視の記録、そして事件前日の恐怖が克明に保存されていた。 「私は明日死ぬかもしれない」 夫が最後に残したその言葉が、完璧だったはずの事故を崩し始める。 愛なのか、支配なのか。 北アルプスの紅葉の下に隠された、女のもう1つの顔が暴かれていく――。ミステリー|人生逆転|真実8.4千字5 667