"桜を連れて消えた妻" 第3話
その言い方に、私はひどく傷ついた。
私が欲しかったのは、「気にするな」ではなかった。
止めてほしかった。
守ってほしかった。
けれど健にとって、それはしたことではないようだった。
そのから私は、夫に相談する回数をしずつ減らしていった。
言っても変わらない。
そう学んでしまったからだった。
桜が1歳になった、でささやかなお祝いをした。さなケーキを買い、写真もたくさん撮った。
桜はクリームを指で触り、顔をべたべたにして笑っていた。
私はその笑い声を聞きながら、この子が元気ならそれでいいとからった。
けれど義母は写真を見ながら、ぽつりと言った。
「次の子がまれるに、こんなふうにゆっくり祝えるのも今だけかもしれないわね」
私はわず言った。
「次はないかもしれません」
空気がぴたりと止まった。
義母は1度瞬きをしてから言った。
「でも、能性がゼロじゃないなら、諦めるのはいわよ」
私はそれ以、何も返せなかった。
健も俯いたまま、グラスのをんでいた。
その沈黙が、私には何よりもこたえた。
夫が何も言わないたび、義母の言葉はので事実になっていった。
桜が2歳になる頃には、義父までをすようになった。
「健の代で終わるのは困る。うちは代々続いてきたんだ」
その言葉を聞いた、私はまるで自分が族の員ではなく、何かの役目だけを持つ具のようにじた。
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私は会社を辞めていた。
育児と体調のためだと周囲には説していた。本当は、産のから体が以のようには戻らず、働く自信がなかった。
それでも計のために、宅でできる仕事を探し、夜にしずつ作業していた。
健はそれをっていたが、「助かる」とも「偉い」とも言わなかった。
ただ普通に、私がやって当然のこととして受け取っていた。
ある夜、桜を寝かせた、私は台所で1泣いた。
声をすと気づかれるので、元を押さえて泣いた。
自分でも、何が1番辛いのか分からなくなっていた。
男の子を産めないことなのか。
責められることなのか。
守ってもらえないことなのか。
たぶん、全部だった。
ある、義母から宅配便が届いた。
箱のには子供と、が1枚入っていた。
「桜ちゃんに着せてあげて。次は青いも買いたいわ」
その文を見た瞬、私はしばらくけなかった。
青い。
つまり、男の子のためのだった。
まだいない子のためのを先に用する。そのい込みが、私にはぞっとするほどくじられた。
そのの夜、私は健にを見せた。
「これ、どうう?」
健は1度読んで、苦笑いのような顔をした。
「母さんも期待してるんだよ。それだけだろ」
その言葉で、私のの何かがぷつんと切れた。
期待している。
その言葉は便利だった。
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を追い詰めても、期待しているだけだと言えば、悪がないことにできる。
私は初めて、はっきり言った。
「私はもう、2目を求められるのが辛い」
健はすぐには答えなかった。
しばらく黙った、い声で言った。
「じゃあ、どうするんだよ」
その言い方は、私の気持ちを聞くものではなかった。
役目を果たせないに向ける声だった。
私は夫の顔を見た。
このはもう、私を妻として見ていないのかもしれない。
そうったのは、そのが初めてだった。
桜は居で積みを並べて遊んでいた。
「できたよ、ママ」
そう言って振り向いた笑顔が、眩しいほどかった。
私はすぐに笑って、「だね」と答えた。
けれどのでは、この子がまれたことさえ誰かにりないとわれている現実に、静かなりが溜まっていった。
ので、きな事件は何も起きていなかった。
鳴るもいない。
物を投げるもいない。
ただ毎のさな言葉が、しずつ私を削っていった。
そしてその頃から、健は以よりさらに帰りが遅くなっていった。
仕事が忙しい。
会がある。
取引先とみだ。
理由はいくらでもあった。
でも玄関のドアがくたび、私はもう期待しなくなっていた。
その代わり、まだ名のないだけがのに静かに広がっていた。
健の帰りが遅くなるにつれて、ののはずれていった。
私は桜と2で夕を済ませ、夜はめに部を暗くした。
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