"義母が家を売った日" 第1話
「ちょっと待ってよ。まさか、あなたがていく気なの?」
私は玄関先で、きな荷物を抱えている夫の背に声をかけた。
夫は面倒くさそうに振り返ると、私が伸ばしたを乱暴に振り払った。
「当然だろ。婚したんだから、緒に暮らすわけないだろうが」
その言い方は、まるで私のほうが非常識だとでも言いたげだった。
私と夫は、つい先ほど婚が成したばかりだった。だから、どちらかがをること自体はおかしくない。けれど私は、当然自分がていくものだとっていた。
なぜなら、ここは義実だったからだ。
結婚、私は夫の実で同居させてもらっていた。婚すれば、嫁からに戻る私がをる。それが自然だとっていた。
それなのに、夫は私を置いて、自分だけ荷物をまとめてていこうとしていた。
私は慌ててもう1度夫の腕をつかんだ。
「あなた、お母さんをどうするつもりなの? まさか、ここに置いていく気?」
夫は眉をひそめ、底議そうに私を見ろした。
「は? 何言ってんだよ」
「お母さんは子なのよ。1暮らしなんてできるわけないじゃない」
私が配していたのは、子活を余儀なくされた義母のことだった。
同居、義母の介護は主に私がしていた。けれど、婚した以、これまでと同じようにはいかない。それなのに夫までていけば、誰が義母を支えるというのか。
広告
私が必にいがると、夫はで笑った。
「おが面倒を見るべきだろ」
私は瞬、言葉を失った。
夫は靴を履きながら、当然のように続けた。
「婚したくらいで親子の縁が切れるわけないだろ。母さんは今でもおの親だ。親の介護は嫁の仕事なんだから、しっかり支えろよ」
その言葉を聞いた瞬、私の胸ので何かがたく固まった。
私の名はゆい。30歳になる専業主婦だった。
数、私は5歳の夫と結婚した。結婚の夫は、るく向きで、配性だった私をいつも励ましてくれるだった。
義母に初めて挨拶へく、私は緊張でがたくなっていた。そんな私に夫は笑って言った。
「丈夫だって。母さんなら、ゆいのことをく受け入れてくれるよ。もっと自分に自信を持っていいんだよ」
その言葉に背を押され、私は義実の玄関をくぐった。
そして実際に会った義母は、私の配をすぐに吹きばしてくれた。
義母は最まで私の目を見て話を聞き、優しく笑ってくれた。私は次第に落ち着き、しずつ自分の言葉で話せるようになった。
義父はすでに界しており、義母のよしえさんは1暮らしだった。
義母は、息子には女きょうだいがいなかったため、私を本当の娘のようにんでくれた。
「願の娘ができたみたいで、本当に嬉しいわ。
広告
しかも、こんなにいい子なんだもの。ゆいさん、これから慮しないでよろしくね」
そう笑う義母の顔を見て、私はこのとならうまくやっていけるとった。
あの頃は、まだ何もらなかった。
夫が、いつか自分の母親を私に押し付けて逃げるになるなんて。
結婚、私と義母の距はどんどんくなっていった。
お互いのをき来し、何かあれば助けった。義母はいつもるく、齢のわりに驚くほど若々しかった。趣にも勉にも欲で、毎を楽しむ姿は、私にとって憧れだった。
私は結婚、自分に自信がなく、すぐに悩んでしまう性格だった。そんな私に、義母は何度も切なことを教えてくれた。
「は限なの。嫌なことや嫌いなのせいで、落ち込んだり悩んだりするなんてもったいないわ」
義母はお茶を入れながら、私に穏やかに言った。
「あなたを事にしてくれる、を満たしてくれるものに目を向けてみると、って案捨てたもんじゃないのよ」
その言葉に、私は何度も救われた。
そんな々に、突然暗がち込めた。
ある、病院から話がかかってきた。
「実は今、よしえ様がこちらに入院されています。命に別状はありませんが、かなり怪をされています。詳しいお話をしたいので、来ていただけませんか」
病院の方の声を聞いた瞬、私は血の気が引いた。
夫には連絡がつかなかったらしく、私のところに話が来たのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第7話
消えた3506号室
70歳を迎える井上秀夫は、亡き妻との約束を胸に、息子夫婦と同居していた。 30年間守ってきたラーメン屋と、妻との思い出が詰まった家を売り、全財産を使って港区のタワーマンションを購入した秀夫。これからは息子夫婦と温かい家族として暮らせる――そう信じていた。 しかし現実は違った。 毎朝心を込めて作る朝食は見向きもされず、家族旅行にも誘われない。そんな中、息子夫婦は「大阪出張」と「母の看病」という嘘をつき、秀夫を1人残して豪華なヨーロッパ旅行へ出かけようとしていた。 しかも、その旅行期間は、秀夫が人生最後になるかもしれない70歳の誕生日と重なっていた。 秀夫には、どうしても息子に伝えなければならない秘密があった。だが、裏切りを知った彼は静かに決意する。 息子夫婦が旅行を楽しんでいる間に、秀夫は自分名義のタワーマンションを売却し、姿を消した。 帰国した2人を待っていたのは、もう開かない玄関と、父からの冷たい一通の手紙。 なぜ父は突然すべてを捨てたのか。 そして、息子夫婦が失ったものは、家だけではなかった――。因果応報|相続|親子関係|金銭問題1.0萬字5 1 -
完結第6話
ハワイへ消えた母
「10年間、お疲れ様でした」 息子夫婦からそう告げられ、68歳の長沼クミは家を出るよう求められた。 孫の世話、家事、食事、掃除――結婚以来10年間、息子家族のために尽くしてきた日々。けれど、感謝の言葉はいつしか消え、最後に残ったのは“もう必要ない”という冷たい宣告だった。 しかし、クミは泣かなかった。 なぜなら彼女は、ずっと前からこの日が来ることを予感していたから。 翌朝、荷物はすでにまとめられていた。息子夫婦が呆然と見つめる中、クミは静かに家を去る。そして1ヶ月後、彼女は日本ではなく、青い海の広がるハワイにいた。 その頃、息子からの着信は90件。 だが、クミが再び振り返ることはなかった――。因果応報|人生逆転|ATM扱い|親子関係9.4千字5 1 -
完結第8話
用済みと言われた妻
結婚25周年の朝、58歳の芳恵は夫から突然、離婚届を突きつけられた。 「お前はもう用済みだ。出て行ってくれ」 25年間、家事も仕事もこなし、夫と家族のために尽くしてきた芳恵。だが夫は、30歳の若い女性との新生活を夢見て、彼女を無一文で追い出そうとしていた。 泣き叫ぶと思われていた芳恵は、静かに頷く。 「わかりました」 しかし夫は知らなかった。 芳恵が3年前から、すべてを見抜いて準備を進めていたことを。 翌日、家から家具も家電も消えた。光熱費も止まり、弁護士からの通知が届く。 そして1ヶ月後、夫の着信履歴には400件を超える悲鳴が残されていた――。因果応報|夫婦|第二の人生|熟年離婚1.1萬字5 90 -
完結第6話
雨の夜の招待状
還暦を過ぎた林義子は、夫の書類カバンから一枚の招待状を見つける。 そこに書かれていたのは、夫・正雄と別の女性の名前。そして、3ヶ月後に京都の高級宿で開かれる結婚式の案内だった。 36年間、夫の食事を作り、薬を管理し、家計を守り続けてきた義子。だが夫はその裏で、共有財産を移し、退職金2200万円を隠し、新しい女との生活まで準備していた。 義子は泣かなかった。怒鳴らなかった。 ただ静かに証拠を集め、弁護士にすべてを託す。 そして迎えた結婚式当日。80人の招待客が見守る会場に、花嫁ではなく、1人の弁護士が現れる。 その瞬間、夫が夢見た新しい人生は崩れ始めた――。人生逆転|不倫|熟年離婚9.2千字5 286 -
完結第8話
四十九日、電話を切った妻
義母が急変した夜、私は海外出張中の夫に必死で電話をかけた。 けれど返ってきたのは、信じられないほど冷たい一言だった。 「お前とは1秒も話したくない。二度と仕事の邪魔をするな」 私は「わかった」とだけ答え、その日から49日間、夫に一切連絡しなかった。 義母の最期、葬儀、親族への連絡、すべてを私ひとりで終わらせた。 そして四十九日。ようやく帰国した夫は、何も知らないまま親族の前に現れ、私を責め始める。 だが、その場には義母が最後に残した“ある証拠”があった。因果応報|嫁姑|夫婦|介護1.3萬字5 540