"消えた3506号室" 第7話
「お義父さん、私たちが馬鹿でした。本当に申し訳ありません」
しかし秀夫はかなかった。
やがて、乾いた唇がく。
「今さら何だ」
その声は氷のようにたかった。
「おたちの顔は見たくない。帰ってくれ」
「親父、そんなこと言わないでくれ。俺、本当に悔してるんだ。これからはずっと親父のそばにいるから」
拓也が父の膝にすがろうとした瞬、秀夫は鋭く言った。
「触るな」
拓也のが宙で止まった。
それから3、拓也の携帯に見らぬ番号から話があった。
「俺だ」
父の声だった。
「もしおたちが本当に反省しているというのなら、態度で証してみせろ」
秀夫がした条件はなものだった。
毎週曜の夜、仕事が終わったら伊豆へ来ること。そしての2、町にある老ホームで無償の奉仕活をすること。曜の夜に、そこで何をじ、何を学んだのか秀夫へ報告すること。
それが、父にしてやれる唯のことだった。
その週から、拓也と弓の週末が変わった。
事の配膳、シーツ交換、トイレ介助、話し相。慣れない仕事に体は鳴をげた。だが週をねるごとに、2のに変化がまれた。
寝たきりの老が「息子はもう5も来ない」と呟いた、拓也は父の姿をねた。
認症の女性が弓のを握り、「おいしいご飯をありがとう」と泣いた、弓は自分たちが毎朝無してきた秀夫の朝をいした。
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季節はからへ移り、秀夫の病状は悪化していった。それでも2は、週末の伊豆通いを1度も欠かさなかった。
の音が聞こえ始めたある朝。
拓也と弓が民宿のれで目を覚ますと、母の方から懐かしいりが漂ってきた。
煮干しと昆布の、優しい汁のり。
2が台所へ向かうと、そこには秀夫がっていた。寝たきりにかった父が、りきった体に鞭を打つように、鍋のにっていた。
「親父、何やってるんだ。体に障るだろ」
拓也が駆け寄ると、秀夫は振り返らずに言った。
「いいんだ。おたちが腹を空かせているだろうとってな」
卓には、炊きたての米、ふっくら焼かれた汁巻き卵、湯気をてる具だくさんの噌汁が並んでいた。
かつて2が毎朝のように無した、父のそのものだった。
「さあ、座れ。めないうちにってくれ」
拓也は震えるで箸を持った。噌汁をすする。
温かい汁のが、体の芯まで染み込んだ。涙が、椀のへ落ちる。
「うまいよ、親父。世界で1番うまい」
弓も汁巻き卵をに運び、泣き崩れた。
「お義父さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
秀夫は静かに微笑んだ。
その顔には、りもしみもなかった。
ただいらぎがあった。
「いいんだ。俺はな、今がで1番幸せだ。3ずっと、おたちが俺の作った飯をうまいと言ってべてくれるを見ていたんだ」
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秀夫は骨ばったで、2のを包み込んだ。
「やっと、本当の族になれた気がするよ」
そのの朝は、涙のしかしなかった。
けれどそれは、3が初めて共にした、温かい族の卓だった。
それから数か。
の訪れをじさせる穏やかな、秀夫は拓也と弓、そして旧友の田に見守られながら、眠るように息を引き取った。
70の涯だった。
その顔はらかで、まるで満して微笑んでいるようだった。
父が最に残したものは、でもでもなかった。
失って初めて気づく、親のだった。
は決して待ってくれない。
「ありがとう」と「ごめんなさい」。
そのたった言が伝えられなくなるが来るに、は切なへ何を伝えるべきなのか。
拓也と弓は、伊豆のを見ながら、その答えを背負ってきていくことになった。
完
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