"5500億を動かした手" 第4話
篤な状態ではなく、午には点滴を終えて退院の許がりた。
病院の玄関には、が慌てた様子で迎えに来ていた。普段は静な秘の顔にも、隠しきれない堵と配が滲んでいる。
「配しました。このままご自宅へお送りします。支への訪問は延期しましょう」
「いや、く」
「しかし今はお体を第1に」
「抜き打ち確認をするだけだ。すぐ終わる」
は瞬言葉を止めたが、島の顔を見て、それ以は言わなかった。この男が体調を理由にを止めたことは、20以仕えてきたで1度もなかった。
が梅ヶ丘支へ向かってりす。
島は窓のを眺めながら、朝ののぬくもりを何度もいしていた。
あの女性は今頃どうしているだろう。
自分のために、何か切なを失ってはいないだろうか。
午1過ぎ、島はいつものくたびれたジャケット姿で梅ヶ丘支の自ドアをくぐった。
受付の員たちはちらりとこちらを見たが、すぐに線を戻した。
それだけで、島には分かった。
この支は、見た目でを選別している。
彼はロビーの端のソファに腰をろし、空気を観察した。
その、支の方からい鳴り声が漏れてきた。何を言っているかまでは聞き取れない。だが、誰かを叱責しているのはらかだった。
広告
その声が響くたび、くの員の背がびくりと張る。
数字は管理できても、は管理できていない。
島はそう直した。
すると、カウンター奥からさな声が聞こえた。
「本当にかわいそうだったわ。駅で倒れたを助けていたって言ってたのに、支に全部遮られて」
「たった5分よ。それで即解雇なんて」
その声はすぐに消えた。
けれど島ので、断片がつながっていった。
駅で倒れた。
5分の遅刻。
即解雇。
まさか。
あの女性は、この支の員だったのか。
島の胸に、くい罪悪が沈んだ。
彼は静かにちがり、受付へ向かった。
「しよろしいですか。支にお取り次ぎいただきたい」
しばらくして、昼孝介が面倒そうな顔でロビーにてきた。目ののさえない客を見て、すぐに軽んじるような線を向ける。
「何かご用でしょうか」
「今朝こちらで、員の方が解雇されたと聞きました。事実でしょうか」
昼の表が瞬固まった。
「失礼ですが、お客様はどちらでそのような話を」
「ロビーでしに入りまして。駅で倒れた方を助けていたために遅刻した、と」
昼の目が細くなった。
「当の事に関わることは、お客様にご説できません」
「5分遅刻しただけだと聞こえましたが」
昼は苛ちを隠さなかった。
「初から遅刻したんですよ。
広告
その社員は」
「それだけで解雇とは、穏やかではありませんね」
その言葉で、昼はついに本音を吐きした。
「理由など関係ありません。を守れないはうちにはいらない。それに、あの経歴では最初から違いでしたがね」
「経歴?」
昼は瞬しまったという顔をしたが、すぐにき直った。
「お客様、々しつこいですよ。預などのご用件がないならお引き取りください」
島は静かに昼を見つめた。
「分かりました。失礼します」
支をると、島はに乗り込み、い声で言った。
「、今朝この支で解雇された女性について調べてくれ。駅の防犯カメラ映像も確認したい」
「承しました」
島は窓のを見た。
もし、あの女性が自分のせいで仕事を失ったのなら。
そのいが、胸の奥にく残った。
調査結果が届いたのは、翌の夜7過ぎだった。
島が斎で資料に目を通していると、がタブレットを差しした。
「志宮リンカさん、24歳。もなく児童養護施設に預けられ、18歳まで施設で育っています。その、里親のさよさんに引き取られました」
「里親がいるのか」
「はい。さよさんは68歳で性腎全を抱え、に1度の通院と投薬が欠かせません。リンカさんは卒業、コンビニの夜勤務と居酒を掛け持ちし、さよさんの介護費用と活費を1で賄ってきました。
今回のの仕事が、で初めての正規雇用でした」
履歴の写真には、真っすぐな目をした若い女性が写っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
泥まみれの客と黒塗り5台
土砂降りの夜、タクシー運転手の佐藤美咲は、泥だらけで道端に立ち尽くす1人の老人を見つけた。 他のタクシーは、車が汚れることを嫌って次々と通り過ぎていく。中には、老人をあざ笑い、泥水まで浴びせて走り去る運転手もいた。 月末までにノルマを達成できなければクビ。幼い娘の手術を控え、仕事を失うわけにはいかない美咲も、一瞬だけ迷った。 それでも彼女は車を止める。 「シートなんて洗えばいいんです」 そう言って老人を乗せ、傘を差し、温かい缶コーヒーを手渡した。 しかし翌朝、美咲を待っていたのは、汚された車両と突然の解雇通告だった。 泣き崩れる彼女の前に、5台の黒塗りの車が営業所へ現れる。 昨日の泥だらけの老人は、いったい何者だったのか。 たった1本の缶コーヒーが、彼女の人生を大きく変えていく――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 12 -
完結第12話
200円の家族
23歳の大学生・高橋翔太は、感情を捨てたように生きていた。 友人の誘いも断り、食事も会話もすべてを「合理的かどうか」で判断する日々。そんな彼が、ある日ファミレスで会計できずに困っている母子と出会う。 所持金は300円。小さな娘を連れた母親は、夫に貯金を持ち逃げされ、住む場所さえ失っていた。 翔太は不足分の200円を支払い、さらに母子を自分の部屋へ連れて帰る。最初はただの合理的な判断。そのはずだった。 しかし、温かい手料理、少女の「ありがとう」、そして夜中に聞こえた小さな泣き声が、5年間閉ざしていた翔太の心を少しずつ揺らしていく。 なぜ彼は笑わなくなったのか。 なぜ「感情は判断を誤らせる」と言い続けるのか。 助けたはずの母子との出会いは、やがて翔太自身が封じ込めてきた過去を呼び覚ましていく――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 3 -
完結第13話
16回の拒否
62歳の黒田正は、退職後に始めた一眼レフを手に、地域のハイキングサークルへ参加していた。 「嫌がる人ほど、綺麗に撮ってあげたいんですよ」 そう笑う黒田は、自分の写真が人を喜ばせるものだと信じていた。けれど参加者の高橋みさ子は、何度もはっきり伝えていた。 「SNSには載せないでください」 名前を出さなければいい。綺麗に撮れていれば問題ない。サークル内だけなら大丈夫――黒田はそう考え、みさ子の拒否を自分に都合よく解釈し続ける。 やがて、本人の知らないうちに撮られた写真はSNSへ投稿され、サークルの外にまで広がっていく。 削除しても、もう消えなかったもの。 そして次の集合場所で、みさ子は静かに告げた。 「私は、同じことを16回言いました」 写真の出来ではない。善意かどうかでもない。 「やめてください」という一言を、本当に聞けなかった男が失ったものとは――。人生逆転|修羅場2.0萬字5 61 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 745 -
完結第11話
断髪新郎の逆転婚礼
抗がん剤治療で髪を失った彩佳は、唯一の家族である兄・健太の結婚式に出席することになった。 両親を亡くしてから、兄妹2人で支え合って生きてきた彩佳。兄の幸せを心から願い、母の形見のスカーフを巻いて式場へ向かう。 しかし、兄嫁の母・礼子は、そんな彩佳を見た瞬間、冷たい言葉を投げつけた。 「その頭で親戚席に座る気なの?」 病気の妹は縁起が悪い。式に出るな。兄との縁も切れ――。 追い詰められた彩佳の前に現れた健太は、笑顔のまま静かに言い放つ。 「では、新郎ごと帰りますか?」 その一言で礼子の顔色は変わった。 だが本当の反撃は、披露宴で用意されていた“新郎新婦、最初の共同作業”から始まる。兄弟姉妹|修羅場1.7萬字5 3851 -
完結第8話
白タク墓参り
夫の命日、私は嫁と孫を連れて墓参りへ向かった。 帰り道、見知らぬ白いタクシーの運転手は、嫁と孫を墓地に残したまま、私だけを乗せて急発進する。 「お客さん、気づいてないの?」 そう言った運転手は、嫁が私の命を狙っていると告げた。けれど、話を聞くうちに私は小さな違和感を覚える。 なぜこの男は、孫の名前を知っているのか。 なぜ嫁の悪口を言いながら、何度も家の名義や権利書の話へ戻るのか。 逃げ場のない車内で、私は亡き夫の言葉を思い出す。 「困った時ほど慌てるな」 鞄の底に入れた携帯電話、孫が書き写した車の番号、そして嫁だけが気づいた不自然な話し方。 離れ離れになった家族が残した小さな手がかりが、やがて1本につながっていく――。因果応報|夫婦|修羅場1.2萬字5 972 -
完結第13話
消えた御曹司と500万の罠
高卒で、施設育ちで、ただの運転手。 橋本悠人は、恋人からそう見下され、父親になる資格さえ否定された。自分の過去も家族も分からない彼に残っていたのは、ただ真面目に働くことだけだった。 そんなある日、財閥会長・田中健造の専属運転手を任された悠人は、車内でかかってきた海外からの緊急電話に、とっさにスペイン語で応対してしまう。 習った覚えのない言葉。 なぜか知っていた金庫の暗証番号。 初対面のはずなのに、彼を見て泣き崩れた会長夫人。 20年前に失われた会長の息子と、記憶を失った運転手。 偶然にしては重なりすぎる謎の先で、悠人は自分が本当は誰なのかを知っていく。 しかし、その真実を誰よりも恐れる人物が、彼を静かに消そうとしていた――。人生逆転|第二の人生1.9萬字5 290 -
完結第11話
追放母の25億売却
お盆のため、長崎から東京の息子夫婦のペントハウスを訪れた田中春江。 亡き夫に手を合わせ、息子の好物を詰めた重箱を抱え、半日かけて上京した彼女を待っていたのは、温かな家族の食卓ではなかった。 嫁・里奈は春江の手料理を目の前で捨て、安いホテルの予約票を差し出す。さらに息子夫婦は、自分たちが旅行へ行く間、愛犬の世話だけを春江に押しつけようとしていた。 長年、息子のために働き続け、すべてを与えてきた母。だがその日、春江はようやく気づく。 自分は家族として呼ばれたのではない。ただ都合よく使われるために呼ばれただけだった。 その夜、春江は20年以上連絡を取っていなかった“ある人物”に電話をかける。 翌日、息子夫婦が暮らしていた天空の城は、静かに動き始めた――。人生逆転|親不孝|親子関係1.6萬字5 2327 -
完結第10話
勘違い常連の末路
51歳独身の佐々木博行は、結婚相談所を使うことに強い抵抗を持っていた。 「出会いは自然であるべきだ」 そう信じる彼は、自分から女性に近づくことはせず、いつか相手の方から気づいてくれるのを待ち続けていた。 そんなある日、駅前の書店で、女性店員・水野佳奈に声をかけられる。 探していた本を案内され、会計で笑顔を向けられ、前に買った本のことまで覚えていてくれた。佐々木にとって、それはただの接客ではなく、“自分だけに向けられた特別な好意”に思えた。 やがて彼は、何度も書店へ通い、佳奈だけを探すようになる。 しかし、彼女が伝えた「夫がいる」という一言さえ、佐々木の中では別の意味に変わっていく。 親切な接客。 覚えられていた注文。 何気ない笑顔。 それらを恋愛の始まりだと信じた男が、最後に見つけた“次の自然な出会い”とは――。真実|修羅場1.5萬字5 243