"八年目のインタビュー" 第1話
19993、静岡の宅で、ひとりの女性が忽然と姿を消した。
失踪したのは、純子、54歳。
夫は方局SBC放送局の板アナウンサー、正弘だった。
その朝、正弘は警察にこう説した。
「妻はけ方、散歩にたまま戻りません」
防犯カメラもなく、朝の目撃報もわずかだった代である。警察は周辺を捜索したが、純子の取りはすぐに途切れた。
正弘はカメラのにち、いハンカチで目元を押さえながら訴えた。
「妻を返してください。私は、今でも帰りを待っています」
その姿に、世は胸を痛めた。
誠実な夫。妻を待ち続ける劇のキャスター。
誰もがそう信じた。
だが、事件は解決しないままだけが流れた。
8の2007214。
SBC放送局のスタジオには、再び正弘の姿があった。未解決事件を特集する番組に、自ら演したのである。
照が斉に点灯し、スタジオがく浮かびがる。
正弘はグレーのスーツ姿で子に腰をろし、背筋をまっすぐ伸ばしていた。62歳になっても、その姿勢にはニュースを読んできた男の品格が残っていた。
司会者が静かに問いかける。
「8が経ちました。今でも奥様の帰りを待っていらっしゃいますか」
正弘は線を落とし、膝に置いたをゆっくり撫でた。
「1たりとも、忘れたことはありません。朝起きると、今でも玄関を見ます。
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もしかしたら、今は帰ってくるのではないかと」
声の最が、わずかに震えた。
正弘は内ポケットからハンカチを取りし、目元を押さえた。
「申し訳ありません。報に携わるが、を抑えきれず」
司会者は痛ましそうに頷いた。
「どうぞ、ゆっくりお話しください」
スタジオの空気はかった。
スタッフたちも声を潜め、カメラの奥で息を殺していた。
正弘は、8と同じように劇の夫を演じていた。
いや、なくともそのにいた誰もが、そう信じていた。
収録が30分ほどんだところで、休憩が入った。
照が落ち、スタジオは暗くなる。
正弘は席をち、司会者に軽くをげた。
「し、トイレにってきます」
そう言って廊へた。
だが、その胸元につけられたさなピンマイクは、まだ赤いランプを点滅させていた。
音声担当者が、源を切り忘れていたのである。
その、調の隅にいた入社2目のディレクター、伊藤さやかは、ヘッドホンをつけたまま音声レベルを確認していた。
廊を歩く革靴の音が聞こえる。
コツ、コツ、コツ。
さやかは何気なくボリュームをしげた。
次の瞬、くたい声がに入り込んだ。
「純子……あの、おが黙ってさえいれば、あんなことまではしなかったんだ。分かってるだろう」
さやかのが止まった。
持っていた資料がに落ちる。
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が散らばる音さえ、彼女のには届かなかった。
ヘッドホンの向こうで聞こえたその声は、妻を待ち続ける夫の声ではなかった。
暗い底から滲みるような、たい本音だった。
その瞬、8止まっていた事件の歯が、静かにきした。
収録が終わったあとも、伊藤さやかのには、あの言葉が何度も蘇っていた。
「純子……あの、おが黙ってさえいれば、あんなことまではしなかったんだ」
帰宅しても眠れなかった。
気を消すこともできない。
ベッドに横になっても、廊を歩く靴音とあのい声が繰り返しので響いた。
もし聞き違いだったら。
もし自分の勘違いだったら。
そう何度も考えた。
しかし翌、放送局のサーバーに保されていた収録データを確認しても、音声は確かに残っていた。
さやかは誰にも相談できなかった。
相は元ではらないがいないほどの名キャスターだった。
しかも失踪事件の被害者族。
若社員の自分が何か言ったところで、信じてもらえる保証はない。
それでも、胸の奥の違はににきくなっていった。
3の夜。
さやかは放送局のパソコンから音声データをUSBメモリーへコピーした。
さなUSBをバッグの奥へ押し込む。
そして自宅に帰ると、震えるで静岡央警察署のホームページをいた。
匿名報提供フォーム。
何度も文章をき直し、ようやく送信ボタンを押した。