みかん小説
本棚

"箱根の盲点" 第4話

 

今夜も予約表を確認した。

の宿泊客は3組。

そのうち1組は7連続で12に来る老夫婦だ。

は毎回同じ本館の角部

窓から川が見える。

には蕎麦を追加です。

「奥さんが蕎麦好きだ」と初めて来たに聞いた。

事務の机のに薬ケースが置いてある。

のプラスチック製で、曜から曜まで7つの仕切りがついたものだ。

3に軽い脈を指摘されてから、毎晩寝るに錠剤を1つんでいる。

「主には刻なものではありません。予防な投薬です」と言われた。

戸田自、体調にじたことはない。

だった。

曜の仕切りをけ、さな錠剤をのひらにす。

までの仕切りは空になっている。

几帳面に1も欠かさずんでいる。

コップのす。

はしない。

毎晩の儀式のようなもので、もう識して錠剤の形やを確認することもなかった。

み終えた薬ケースを机の裏に戻す。

ケースの隣には老鏡と、来の県議会に提する陳きが置いてある。

宮原という男が今尋ねてきたリゾート発のコンサルタント。

にも2度会っている。

悪いではなさそうだが、背にいる京の発会社は別だ。

彼らにとって湯本館は更にすべき障害物でしかない。

100の歴史も、源泉も、常連客の記憶も、彼らの計算には乗らない。

広告

宮原は、途で湯の温度を見にったしく茶をんでいた。

礼儀正しい男だとう。

ただ、礼儀正しさと誠実さは違う。

宮原が何を考えているのかには分からなかった。

連れの男はと紹介されたが、あの目は素のものではなかった。

に入った瞬入りの位置を確認し、会話のも窓の識を向けていた。

探偵か、調査員か。

宮原が何を調べさせているのかは分からないが、戸田には関係のないことだった。

反対運は続けるつもりだ。

協会の会として、元の声を代弁する責任がある。

署名は1200を超えた。

の県議会に陳を提する予定だ。

戸田が反対しているのは発そのものではない。

箱根にしい宿泊施設ができること自体は歓迎する。

ただ、既の旅館を潰してそのに建てるやり方には反対だ。

できる形があるはずだと、戸田は信じていた。

戸田は事務かりを消し、2階の寝がった。

布団を敷き、枕元に老鏡と文庫本を置く。

このところ読んでいるのは藤沢周平の編集だ。

2編ほど読むと自然に眠くなる。

の方でが鳴っていた。

12の箱根はい。

古い造建築の湯本館は、が吹くと柱や梁がかすかにきしむ。

戸田はその音を子供の頃から聞いて育った。

祖父の代から続く建物の呼吸のようなものだ。

広告

文庫本を閉じ、老鏡をした。

の朝は6に起きて源泉の温度を確認する。

は配管がえるから、朝の温度管理が欠かせない。

戸田は目を閉じた。

いつもと同じ夜だった。

の音と、古いのきしみと、くを流れる川の音。

薬の効果なのか、最は横になるとすぐに眠くなる。

脈の自覚症状はない。

主治医が言う通り、予防のための薬だ。

湯本館で過ごした何千回目かの夜は静かに更けていった。

これが戸田克彦の最の夜になった。

2目の夜だった。

、宮原は発関連の打ちわせにかけた。

荘の周辺で張り込みをったが、昨の男は現れなかった。

、宮原と流して湯本の温泉を歩いた。

産物をやかし、蕎麦で昼を取った。

そのも樋は周囲に目を配っていたが、尾者の気配はなかった。

、宮原の部で茶をみながら翌の予定を話した。

は最終で、午にチェックアウトし、昼のロマンスカーで京に戻る。

者は昨の1回切り。

成果としては物りないが、依頼全は確保できている。

「ここで何事もなくて良かったです」と宮原は言った。

「先がいてくださるだけでします」

21過ぎに自分の部に戻った。

歯を磨き、帳にその記録をきつけた。

『2115分 記録完

布団に入ろうとした、携帯話が鳴った。

宮原からだった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: