"50年耐えた私が、息子の嫁に「一番怖かった」と言われた夜" 第14話
自分のためだけに選んだ、自分が本当にべたかった魚。
かごのに収まったそのさなパックを見つめたとき、胸の奥底から、あたたかいがじわりと広がっていくのをじた。
アパートへ戻り、さな鍋で丁寧に昆布と鰹節の汁を引く。 魚焼きグリルで鱈をでじっくりと焼きげると、甘い噌のばしい匂いが畳に満ちていった。
炊きたてのご飯を自分の茶碗によそい、をわせる。
「いただきます」
声にしてにした切れの魚は、驚くほどふくよかで、美しかった。 誰の顔を窺うこともなく、誰の嫌を取ることもなく、ずつ噛み締めてわう事。
自由とは、贅沢な旅やのことではない。 今夜自分がにするものを、自分の志で選べることなのだ。 歳にして、私はその当たりの尊厳を、ようやく自分ののに取り戻した。
季節が巡り、のがを柔らかく包み込む。 あの実のは綺麗に更となり、若い子育て世代向けの宅用として売却の続きが完全に完した。
売却代から実への返済分とこれまでの諸費用を清算した残額は、すべて私の個座へ振り込まれた。 それは、耐え抜き、業と計を支え続けた私の労働に対する、正当な対価だった。
私は駅からしれた、当たりの良い公営団の階に腰を落ち着けていた。
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ベランダのさなプランターでは、赤いゼラニウムがに揺れている。
昼がり、駅の通り沿いにあるさな定の引き戸をけた。 奥のテーブル席で、いブラウスを着た由美さんが待っていた。
「お義母さん、こちらです」
由美さんが顔をほころばせ、を挙げた。 目のの隈は綺麗に消え、髪をすっきりと束ねた横顔には、引き締まったるいが宿っていた。
「待たせてしまったかしら」
「いえ、私も今着いたところです」
向かいって腰をろす。 テーブルのには、つのメニュー表がかれていた。
「お義母さん、ここ、魚が美しいって聞いて」
「そうね。私は、鱈の煮付け定にしようかしら」
「あ、いいですね。私は筍ご飯と野菜のぷら定にします」
員を呼び、それぞれが自分のべたいものを注文する。
かつて、あのの台所で肩を並べていた頃の私たちは、いつもっていた。 男たちが居でテレビを見ながら酒をむ、い油のにち、誰がどの順番でべるかを気にし、めないように配膳し、残ったたい料理をったままに放り込んでいた。
今、私たちは同じテーブルを挟んで、のとして向かいっている。
「健さんから、々連絡が来ます」
お茶をに含んだ由美さんが、静かに言った。
「子どもの養育費は、滞りなく振り込まれています。
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に度、子どもと面会するときも、以のように『やり直そう』とは言わなくなりました。ただ……駅の改札で子どもを引き渡すとき、ぎこちなく『仕事、無理するなよ』って言うんです」
「そう」
「復縁する気は、今のところありません。別居のまま、公正証で取り決めたルールを守って、それぞれがきていく形が、今の私には番っています。でも……あのが自分のでとうとしていることだけは、認めてあげようとっています」
「ええ。それでいいとうわ」
私は微笑んだ。 由美さんが選んだ距を、私が評価する必も、を挟む権利もない。 がとして、自分たちの責任で選んだ形なのだから。
注文した定が運ばれてきた。 湯気がちのぼる筍ご飯と、照りよく煮込まれた鱈。
「美しそうですね」
「本当にね」
私たちは同に箸を取り、をわせた。
誰かの嫌を損ねないか怯える必のない昼。 沈黙すらもよい、穏やかな。
ふと、胸の奥底につの言葉が浮かびがった。
私がをたから、族が壊れたんじゃない。 私がて初めて、みんなが見ないふりをしていたものが見えるようになったのだ。
欺瞞と搾取のに築かれた偽りの平など、最初から壊れていたのだ。 それを壊れたと認めることからしか、の再は始まらない。
箸を運び、鱈の柔らかなをに含む。 窓のには、抜けるようなの青空が広がっていた。
誰のも踏まない。 誰の嫌も窺わない。 ここから始まるすべてのは、私だけのものだ。