"50年耐えた私が、息子の嫁に「一番怖かった」と言われた夜" 第12話
このヶ、夫は誰もいないあので、ゴミのし方も分からず、カップ麺の殻を畳に散乱させてで暮らしていたという。
所からの連絡で、気やの督促状が郵便受けから溢れていたこともっていた。
だが、私は度も様子を見にかなかった。
自を望んだのは、あの自だからだ。
庭のびにはがこびりつき、玄関のにはガムテープで雑に塞がれた段ボール箱がつだけ転がっていた。
夫の私と、過に商の寄りいで貰った褪せた表彰状、それに古びたアルバム。
ので、あの男が自分の実力だけでに入れたものなど、その段ボール箱が全てだったのだ。
ガラリと引き戸がき、健に支えられるようにして元夫が姿を現した。
汚れた羽を羽織り、背はさく丸まり、取りは覚束ない。
かつて所を睥睨し、妻を政婦のように鳴りつけていた面は、もはや完全に消え失せていた。
「親父、トラックが来たよ」
健がく促すと、元夫は力なく頷いた。
向かう先は、隣町の古い造アパートだ。
畳半、呂なし、共同トイレ。
母親の特養老ホームの費用を自分の国民から差し引いた残額で借りられる部は、そこしかなかった。
作業員が荷物を荷台へ放り込むのを、元夫はただ呆然と見つめていた。
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ふと、煙の向こうにつ私に気付くと、引きずるような取りで歩み寄ろうとする。
「よし子……」
だが、そのは数歩で止まった。
私の隣につ弁護士の鋭い線と、私の徹な差しに気圧されたのだ。
「俺は……本当にすべてを失ったんだな」
絞りすような呟きに、私はを交えず、淡々と返した。
「失ったのではありません。あなたが最初から持っていなかったものを、あるべき持ち主の元へお返しいただいたまでです」
元夫は息をみ、乾いた唇を噛み締めた。
「もも……俺が誇りにっていたものは、全部おが見せてくれていただったのか」
「ええ、そうです」
声のトーンをつも崩さずに告げる。
「あなたが、誰にもをげずにふんぞり返っていられたのは、私があなたの代わりにをげ続けていたからです。その台を、婚式のにご自分ので蹴りばしたのは、あなた自ですよ」
元夫の濁った目から、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
けれどその涙は、妻への悔悟などではない。
ただ己の惨めさと、失った特権への未練からるものだった。
通りを傘をさして歩いていた所の民たちが、を止めてのから様子を伺っていた。
誰として、元夫に声をかけようとする者はいなかった。
、見栄と虚勢で者を見し、最は妻を追いそうとして自滅した男の末を、ただややかに見届けていた。
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「親父、もうこう」
健が父親の細い肩を抱き、軽トラックの助席へと押し込んだ。
バタンと乱暴な属音がの宅に響き、エンジン音が唸りをげる。
トラックがゆっくりと坂をっていくのを、私は微だにせず見送った。
、私を縛りつけ、搾取し続けた元夫の背は、煙の向こうへとさく消えていった。
「よし子さん、これでけ渡しは完です。更化と売却の最終契約に入りますね」
弁護士の確認に、私はく頷いた。
「はい。綺麗さっぱり更にして、この町のしい世代に引き渡してください」
あの澱んだに対する未練など、私の胸には片も残っていなかった。
それから週が過ぎた、あるの夜だった。 アパートの部で針仕事を終えた頃、健から話がかかってきた。
通話ボタンを押すと、受話器の向こうから息子の切迫した声がび込んできた。
『母さん、頼むから話を聞いてくれよ』
「何かしら」
『俺、あれから本当に変わったんだ。自分でアパートを借りて、毎自炊もしてるし、洗濯も溜めずに回してる。会社の帰りにはゴミの分別だって完璧にやってるんだ』
息子の声には、自分の努力を誰かに認めてほしくてたまらない焦燥が滲みていた。
『今、由美にLINEを送ったんだよ。「俺はもうとは違う。事も育児も対等に分担するから、子どもを連れて戻ってきてほしい」