"50年耐えた私が、息子の嫁に「一番怖かった」と言われた夜" 第11話
「志さん、顔をげてください」
弁護士の鋭い声に、夫はおずおずと涙で濁った目を持ちげた。
「な、なんだ……まだ何かあるのか……」
「よし子さんが、なぜ切の満を漏らさずあなたをて続けてきたのか。その最の真実をお見せします」
封筒から引きされたのは、の付が記された、庭裁判所の検認印が押された公正証遺言の謄本だった。
夫の線が、面に躍る跡を捉えた瞬、瞳孔が見かれた。
「親父の……遺言……!?」
夫の喉がヒッと鳴った。
「そ、そんなもの、とっくの昔に紛失したはずだ!」
「紛失などしていません」
私の静かな声が、調の空気を震わせた。
「先代がおくなりになる直、病院のベッドサイドで、私に直接託されたものです」
夫は震える指先で、面をなぞった。 そこには、先代の苦渋に満ちた本が、克に刻まれていた。
『息子の志は見栄っ張りで商売の才覚がなく、放蕩に流れやすい。 がのおよび業の全権は、誠実でを支え続けてくれた嫁のよし子に任する。 志には財産管理の能力がないため、よし子の承諾なくして財産の処分や売却を切禁ずる。 もし志がよし子への謝と敬を欠き、な背信為に及んだときは、全財産の相続権を失うものとする』
。 先代は、実の息子の愚かさと勝さを、誰よりも正確に見抜いていたのだ。
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と血筋を守るための防波堤として、全権をから嫁いできた私に託していた。
「親父が……俺を……そんなに……」
夫の顔から、すべての表が剥がれ落ちた。 ただ真っな、底なしの恐怖と絶望だけが広がっていく。 自営業の派な跡取り息子という、夫が涯縋り付いてきたアイデンティティの根底が、実の父親の言葉によって完全に砕されたのだ。
「私はこの遺言を、度もあなたに見せませんでした」
私は夫の虚ろな瞳を真っ直ぐに見据えた。
「男としての面目を潰さず、あなたが所で胸を張って歩けるよう、私が悪者になり、裏方としてすべてを支えてきたのです」
「よし子……俺は……」
「それを、婚式のに何とおっしゃいましたか。『おの顔を見るのも嫌だ。自由に暮らしたい。すぐにていけ』。あなたが私に投げつけたその傲な言が、先代の遺言の止条件を満たしたのです」
弁護士が、徹に卓の数字を指し示した。
「先代の遺言が示す通り、この敷において志さんに認められていたのは、よし子さんの庇護で暮らす権利に過ぎません。そので、現実の数字をお話しします」
机のに、過の収支細と産鑑定が並べられた。
「よし子さんからの当利得返還請求、並びに過に遡る代相当額の請求をわせれば、総額は千百万を超えます。
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築で資産価値のない建物の持分半分など、この負債のに瞬で吹きびます。破産宣告を受けないための唯のは、建物の全持分を負債の代物弁済としてよし子さんへ譲渡し、即退に応じることだけです」
「あ……あぁ……」
夫のから、空気の抜けるような音が漏れた。
「それじゃあ……俺には……何が残るんだ……?」
調委員が、を交えずに告げた。
「ご自の国民と、ご自のの回り品だけです。奥様がにわたり肩代わりしてきた負債を精算すれば、むしろマイナスにならないだけ寛な措置ですよ」
夫は両で顔を覆い、机に突っ伏して嗚咽を漏らした。
に額を擦りつけるようにして震える男の背を、誰も見ようとはしなかった。
親父の遺言で誇りをへし折られ、現実の債務で逃げを塞がれた。
の歳をかけて築きげた砂のが、法と現実のを浴びて完全に消滅した瞬だった。
えられた調調の文面が、私のに広げられる。
朱肉に実印を浸し、迷いなく力を込めて押し当てた。
鮮やかなが、いにく吸い込まれていく。
私のを縛り続けていた鉛のような荷が、指先から音をてて消えっていった。
調調が成してから、さらにヶが過ぎた。
産のけ渡し期として取り決めた、たいのるの末。
私は弁護士のち会いのもと、鍵の返還を受けるために実のにった。