"50年耐えた私が、息子の嫁に「一番怖かった」と言われた夜" 第9話
「志さん、事業主としての廃業届はに受理されています。以のアパート経営の確定申告者はすべてよし子さんです。あなたが勝に引きして遣いや遊興費に充てていたは、法には妻の個資産の横領になりません」
夫は膝をガクガクと震わせ、壁に爪をてた。 顔は気を通り越し、の斑点が浮かんでいる。 がり框の隅で、健が両でを抱え込んだ。
「親父……もうやめろよ……」
「うるさい! 黙ってろ!」
夫は息子をしようとしたが、その声はすでに裏返り、惨めな鳴に変わっていた。
「よし子、頼む……今だけでいいから飯を作ってくれ! 母さんのオムツも替えてくれ! これじゃ俺がんでしまう!」
連れ添った妻に対する最の言葉が、これだ。 反省でも謝罪でもなく、ただ自分のと空腹を解消させろという勝な懇願。
「お断りします」
私は踵を返した。
「これからは、ご自分の正当なの範囲内で、ご自分できていきなさい」
「待て! よし子! 待てって言ってるだろ!」
背から伸びてきた夫の震えるを、私は瞥もせずに振り払った。 引き戸をけ、の澄んだ空気を吸い込む。 実の扉をる瞬、奥の部から義母の「お茶! お茶ちょうだい!」という甲い叫び声が、たいに乗って追いかけてきた。
そのの午過ぎ。
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アパートの自で片付けをしていると、スマートフォンが激しく振した。
実の隣にむ幼馴染み、さえ子さんからの着信だった。 通話ボタンを押し、に当てる。
「もしもし、さえ子さん」
『よし子さん!? 変よ! 今、志さんが警察を呼んで表で暴れしてるの!』
受話器の向こうから、サイレンの音と、切り声をげて喚く夫の声が微かに漏れ聞こえてきた。
「警察ですか?」
『ええ! 庫にあった軽自を業者が積載に乗せようとしたら、志さんがパジャマのままびしてきてね。「棒だ! 俺のを盗む気か!」って庫のシャッターをバンバン叩いて!』
胸の奥が、ややかに澄み渡っていく。 配していた専業者による、軽自の引き取りだ。 退職で私が全額を括購入し、検証の所者も使用者も私単独の名義になっている私の個財産。
『でもね、駆けつけたお巡りさんに、業者の方が類を見せたのよ。よし子さんからの委任状と、検証の写し。お巡りさんも完全に呆れ果てて、「民事の適法な引き取りです。名義の方の正当な権利ですから、邪魔をすると公務執妨害になりますよ」って志さんを羽交い締めにしてるの』
『……ご所の方も見ていらっしゃいますか?』
『みんな表にてきて、巻きに見てるわよ。元町内会の佐藤さんなんて、「志、みっともない真似はやめろ! おがよし子さんを追いしたんだろ! 恥をれ!」
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って鳴りつけてたわ。志さん、面にへたり込んで、わあわあ泣き叫んで……あんな恥ずかしい姿、初めて見たわよ』
世体こそが命だった男の、完全な社会のだった。 所の誰として、夫に同の声をかける者はいなかった。 、威張り散らして妻にをげさせ、板ので踏ん反り返っていた張り子の虎が、のもとに引きずりされて解体されたのだ。
「さえ子さん、ご迷惑をおかけして本当にごめんなさい」
『いいのよ、よし子さん! 誰も志さんの方なんてしてないわ。みんな「よし子さん、よくぞ逃げしてくれた」って胸を撫でろしてるんだから!』
通話を切ったあと、私は静かに目をつむった。 夫が泣き喚く姿を像しても、胸に波つたなかった。 の痛みに無自覚だったが、自分の痛みにだけ取り乱して転げ回っているに過ぎない。
それからの夕方、健から連絡が入った。 話の息子の声は、をすすったかのように擦り切れていた。
『母さん……ばあちゃんの施設、決まったよ』
「そう」
『包括支援センターの田さんが、隣町の特別養護老ホームの緊急枠をねじ込んでくれた。今、に乗せて連れてったよ』
息子の荒い息が、受話器の向こうで揺れる。
『親父は最まで、「母親を施設に入れるなんて世への恥晒しだ」
って喚いて暴れたよ。