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"50年耐えた私が、息子の嫁に「一番怖かった」と言われた夜" 第5話

表には、黒いペンで付が細かく記されている。

「これ、健さんと結婚してからつけていた、事と育児の分担記録です」

私は息を呑んだ。ページをめくると、息子の退社、子どもの発の対応、保育園の送迎、予防接種のスケジュール、名もなき事の数々が、分刻みで几帳面に記録されていた。健の名があるのは、に数回の「ゴミし」と「週末の呂掃除」の欄だけだった。

「健さんは、いつも言っていました。『俺だって伝ってるだろ』って」

由美さんの声は、驚くほど静かだった。鳴るでもなく、泣くでもなく、ただ事実を検分するように言葉を紡ぐ。

「伝う、という言葉がる点で、あのにとって庭は自分の責任じゃないんです。昨夜、実から戻ってきた健さんは、のように疲れた顔で私に言いました。『ばあちゃんのオムツで腰をやられた。由美、から実の伝いにってくれないか』って」

喉の奥が、きゅっと収縮した。あの息子は、母親が背負っていた理尽を、そのまま妻の肩へ移し替えようとしたのだ。

「私、断りました。フルタイムで働きながら、学の子どもの世話をして、これ以義母の介護まで背負う余裕はありませんって。そうしたらあの、なんて言ったといますか?」

由美さんの瞳が、真っ直ぐに私を射抜いた。

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「『うちの母さんは、ずっとでやってきたぞ。おには族を支える覚悟がないのか』って」

臓が、嫌な音をててねた。

「……健が、そんなことを」

「ええ。その、私、はっきりと理解したんです」

由美さんは乾いた唇の端を、かすかに引きげた。笑みというには、あまりにも酷な歪みだった。

「健さんをあの怪物にしたのは、お義父さんだけじゃない。お義母さん、あなたですよ」

空気が凍りついた。反論の言葉など、文字も浮かばなかった。

「覚えていますか? 、私が過労で倒れて入院したときのこと」

由美さんの静かな声が、記憶の扉を容赦なくこじけていく。

「病院のベッドまで見いに来てくださったお義母さんは、果物の籠を置きながら、優しくこうおっしゃいました。『男のはでをげて働いてるんだから、ののことくらい、私たちがしてえてあげなきゃね』って」

……あ。目のが、く霞んだ。

言った。確かに私は、良かれとってその言葉をにした。自分が義母や夫から押し付けられてきた理尽を、「女の恵」「庭を守る美徳」という障りの良い言葉に偽装して、この若い女性に渡したのだ。

私自が、搾取の連鎖の仲介だった。

「お義母さん。私、あので番怖かったのは、鳴り散らすお義父さんじゃありませんでした」

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由美さんのが、膝ので固く握りしめられる。

「穏やかな顔をして、『族のためにするのが当たり』だと微笑む、お義母さんだったんです。あなたがいる限り、私はあので永久に『忍耐がりない悪い嫁』にされる。そうって、ずっと絶望していました」

喉がカラカラに乾き、息が吸えなかった。、夫の傲に耐え続けてきた被害者だと信じ込んでいた自分が、次世代の女性にとっては窒息をいる加害者そのものだったという現実。

私は畳のに両をついた。く、く、額を畳に擦りつけるようにしてをげた。

「……由美さん、本当にごめんなさい」

声が震えた。絞りすような謝罪が、たい畳の目を濡らしていく。

「私が違っていたわ。自分が耐えてきたからって、あなたに同じ荷を背負わせようとした。私があなたの逃げを塞いでいたのね。本当に……取り返しのつかないことをした」

沈黙が部を満たした。数秒、いや数秒。やがて、から擦れの音が聞こえた。

「お義母さん、をげてください」

恐る恐る顔をげると、由美さんは泣いていなかった。ただ、どこか憑き物が落ちたような、質な瞳で私を見つめていた。

「謝罪をしてほしくてここに来たんじゃありません。ただ、つだけ確かめたかったんです」

「……何をかしら」

「お義母さんは、健さんの方をして、私をあのに戻そうとしますか? 『子どものために考え直せ』と、またあの呪いをかけますか?」

「絶対にしない」

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