"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第16話
「え……?」
「でも、以のように私があなたので事を作り、親戚にをげることは度とありません。美緒を連れてくかどうかも、私がその都度判断します」
義母は唇を震わせ、すがるように私を見つめたが、それ以は何も言えなかった。たださく縮こまり、膝のの袋を握りしめていた。
その姿を見つめながら、私は自分の頬に触れた。あの、たいのように張りついていた屈辱の覚が、ようやく乾いて消えていくのをじていた。
その翌週、理恵が私の部にお茶をみにち寄った。
美緒が学にっているの、静かなリビング。理恵はソファにく腰掛け、し興奮した面持ちでカップを両で包み込んだ。
「彩さん、先週の曜のこと、お兄ちゃんから聞いた?」
「いいえ。美緒の送り迎えのにし話しただけよ」
「お兄ちゃん、本当にで実に来たのよ。親戚全員をもう度集めてさ」
理恵はいすように、さく息を吐いた。
「お母さんはすっかりさくなって座ってたんだけど、お兄ちゃん、全員のにってハッキリ言ったわ。『会社は俺で作ったんじゃない。彩が創業資をし、彩が現の仕組みを作ったから、今の会社があるんだ』って」
理恵の目が、わずかに潤んでいた。
「親戚の叔父さんたちが『でも直、おが営業で稼いできたんだろう』ってを挟んだんだけど、お兄ちゃん、歩も引かなかった。
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『俺がで戦えたのは、彩が役員のを諦めて、親父の介護を全部背負ってくれたからだ。俺は自分の見栄のために、妻のを消しっていた卑怯者だ』って、畳にをついて謝ったのよ」
理恵は笑いながら、目元を拭った。
「叔父さんたち、誰も何も言えなくなっちゃって。お兄ちゃん、最にこう言ったわ。『収が千万円だろうが何だろうが、飯をったら皿は汚れる。自分がった皿くらい、自分で洗うのが当たりだ』って」
私は窓のに広がる、青く澄み切ったの空を見げた。
夫は、やり遂げたのだ。ので「黒柱」として崇められるよさを、自らので々に打ち砕いた。それは夫にとっても、血を流すような痛みを伴う儀式だったはずだ。
「彩さん、お兄ちゃんのこと……許してあげるの?」
理恵の問いに、私は静かに首を横に振った。
「許すとか許さないとか、そういう話じゃないのよ」
「え?」
「あのが自分のでって、自分の嘘を清算した。それはあのの課題であって、私の課題じゃないわ。私はただ、これからの自分のをどう選ぶかを考えているだけ」
理恵はし驚いたように目を見張り、やがて柔らかく微笑んだ。
「……そっか。彩さん、本当にくなったね」
「くならざるを得なかったのよ」
私は笑って、温かい茶をに運んだ。
がまり、々の葉が鮮やかにづいたの曜。
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本社のセントラルキッチンを貸し切りにして、創20周の社内記イベントが催されていた。掛かりな式典ではなく、社員とその族を招き、作りの料理を囲むアットホームな集まりだ。
会の壁には、しく編纂し直された社史のパネルが並んでいた。恵さん率いるプロジェクトチームが、徹底な事実確認のもとで作り直したものだ。
その央に、枚の写真が引き伸ばされて飾られていた。
。暗い厨で、積みの寸胴鍋と皿をに、全油まみれの靴姿で笑うの姿。き義父。若きの奥田社。若きの夫。そして、きなスポンジを握りしめ、をまっすぐに見据える、代半ばの私。
パネルのキャプションには、こう記されていた。
『創業期・初の受注完の夜。すべての基礎を築いたの仲たち』
そこには、誰かを持ちげるための美辞麗句も、「内助の功」という都のいい隠蔽もなかった。ただ、私たちがをすすりながらきてきた、揺るぎない事実だけが刻まれていた。
「ママ、見て!」
会をり回っていた美緒が、私のを引っ張った。
写真のに、奥田社と、そして夫が並んでっていた。奥田社はの腕をまくり、私の顔を見て満そうに頷いた。
「いい写真だな、彩さん」
「ええ。とても」
夫はし照れくさそうにを掻き、私と目をわせた。