"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第13話
「直……あなたが……?」
義母の声が、信じられないものを見るように震える。
「俺が彩に頼み込んだんだよ! 『親父の介護を伝ってくれ、俺が会社に残れるように庭に入ってくれ』って、をげたんだ! 彩は俺のために、親父のために、自分の役員のを捨ててくれたんだよ!」
夫の慟哭が、静まり返った部に響き渡った。
「俺が収2000万円の役員になれたのは、俺の実力じゃない! 彩が俺の代わりにをかぶり、親父のの世話まで引き受けて、俺を仕事に集させてくれたからだ! 俺の成功は全部、彩の犠牲のに成りってたんだよ!」
義母はソファーにへたり込み、魂が抜けたように点を見つめていた。
自分が「息子の稼ぎ」を誇り、踏み躙ってきた相。卒だと見し、スポンジを投げつけ、「誰のおかげで飯がえてるんだ」と罵倒した嫁。
その嫁こそが、息子を役員に押しげ、病に倒れた夫の命を支え、会社の権利を誰よりも正当に握り続けていた最の恩だった。
「お母さん……」
理恵が、涙を流しながら母親を見ろした。
「聞いたでしょう……? お母さんがやってきたこと、どれだけ恥らずだったか……分かった?」
義母は何も答えられなかった。ただ刻みに震え、自分の膝ので縮こまっている。
私は、ゆっくりとちがった。
義母のに歩み寄り、テーブルのに、枚のスマートフォンを置く。
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画面に表示されているのは、8に夫から送られてきたメッセージの履歴だった。
『親父の病院、ってくれてありがとう。今俺は抜けられない。この1を乗り越えたら、俺は彩にががらない』
「お義母さん」
私の静かな呼びかけに、義母が怯えたように肩を竦めた。
「私が株を持っているから、悪いことをしたといますか? 私が会社を作っただから、スポンジを投げたことを悔していますか?」
義母は唇を震わせ、線をに落とした。
「もし私が、株を1株も持っていなくて、本当にただの卒の専業主妇だったら、あのスポンジは私の顔に投げてよかったんですか?」
「そ、それは……」
「稼いでいないなら、見していいんですか? 収が2000万円あれば、べた皿も洗わずに威張っていいんですか?」
私の問いは、義母のの最も浅ましく歪んだ部分を、容赦なく抉り抜いた。
義母は両で顔を覆い、ボロボロと涙をこぼし始めた。言い訳の言葉は、もう言も残っていなかった。信じ切ってきた「と学歴がの価値を決める」という絶対な信仰が、音をてて々に砕け散ったのだ。
「今はこれで失礼します」
私はそれだけを告げ、踵を返した。
背で、夫が親戚たちに向かって座し、これまでの嘘を謝罪する声が聞こえていた。だが、その声に私のが止まることはなかった。
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自宅へ戻る内。灯のが、に濡れたフロントガラスを鈍く照らしている。
夫は赤信号でをめると、ハンドルに額を押し当て、絞りすような声で言った。
「……彩。全部、話した。母さんにも、親戚にも……会社の役員たちにも」
「ええ、聞いていたわ」
「俺、最だった。……みんなが俺の力で成功したって持ちげてくれるのが、気持ちよかったんだ。黒柱だってチヤホヤされて、おの将でいるのがよくて……だから、おのを消したんだ」
夫の頬を、涙が伝っていた。遅すぎる、あまりにも遅すぎる自。
「分かってくれたなら、それでいいわ」
私の淡々とした返答に、夫はすがるように顔をげた。
「じゃあ……やり直せるか? これからは、俺が全部事もやる。母さんとの関係も、俺がに入って絶対にづけさせない。おがもう度社会にたいなら、俺の脈を全部使う! りいの経営コンサルタントを紹介するし、名なビジネススクールの学費も俺が全部すから!」
夫は必にスマートフォンを取りし、画面をタップしようとした。「今すぐ話して、枠を押さえてもらうから」と、焦燥に駆られた指先をかす。
私はを伸ばし、その夫の首を、静かに、だが決して解けない力で掴んだ。
たい触が、夫の皮膚を通して伝わる。
夫の指が、ピタリと止まった。
「直」
私は夫の目を、まっすぐに見つめた。
「8、あなたは私のの選択肢を、勝に奪った」