"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第10話
「直、座りなさい」
く、部全体を震わせる声が響いた。奥田社だった。社はパイプ子からちがることなく、静かに夫を睨み据えた。
「社……! ですが、これは社内の公式な……」
「彩さんは部者じゃない。株主である私の招集権限で、正式にオブザーバーとして同席を求めた。異論はあるか?」
「株主……?」
同席していた営業部の若い部が、わず声を漏らした。夫は唇を刻みに震わせ、何かを言おうとをきかけたが、奥田社の射抜くようなに圧され、力なく自分の席へと退した。
私は誰の顔も見ず、奥田社が目で図した空席――夫の真向かいの子へ、音をてずに腰をろした。
「だ。始めよう」
奥田社の図で、内の照が落とされた。
巨なスクリーンに、青いタイトルロゴが浮かびがる。『さな厨から全国へ――孤の挑戦者・黒瀬直の20』
なオーケストラのBGMが流れ始めた。画面には、若い頃の夫が、額に汗を流しながら話を握りしめている再現ドラマの映像。営業先でをげ、夜のをり、契約をもぎ取ってくる姿。
テロップが次々と流れる。『倒産の危をで背負い、会社を救った男』『族のを力に変え、ち向かった孤のリーダー』
そのナレーションを聞いた瞬、私の喉の奥がチリチリと焼けるようにくなった。
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で?孤?
16、資繰りがショートしかけた末、私の全貯であった百万円を会社の当座預に振り込んだのは誰だったか。取引先が倒産して焦げ付いた負債を埋めるため、夜まで厨で凍総菜の真空パックを作業で詰め続けたのは誰だったか。
映像は終盤へと向かう。そして、夫が昨夜自げに見せてきた、あの「追加パート」がスクリーンに映しされた。
画面いっぱいに映しされたのは、エプロン姿で台所にち、微笑む私の古い写真だった。娘がまれてもない頃、自宅で撮られた枚。
ナレーションの声が、わざとらしく湿っぽく響き渡る。『輝かしい躍のに、決して表台にることのなかった糟糠の妻のがあった。庭を完璧に守り、夫のをから支え続けた美しき献――』
「止めてください」
暗を切り裂くように、私の声が響いた。
プロジェクターのので、全員の線が私に集まる。広報の担当者が慌ててリモコンを操作し、映像がピタリと止した。私の写真が、巨なスクリーンに晒されたまま静止している。
「彩、お……何の真似だ!」
夫が机を叩いてちがった。声がりと恐怖で擦っている。
「せっかくの完成稿だぞ! おのこともててやろうと、俺がわざわざ枠を作ったんじゃないか! これ以、会社ので俺に恥をかかせるな!」
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私は子からちがった。背筋を伸ばし、ブリーフケースから取りした分いクリアファイルを、机の央へ滑らせる。
「恥をかいているのは、この会社そのものです」
私のえ切った言に、役員たちの息を呑む音がなった。
「広報担当役員である黒瀬直氏は、この記事業において、な事実の改ざんをっています」
「改ざんだと……!?」
「16、会社設の資本資比率は、奥田社が50%、直氏が25%、そして私が25%でした。現でも、第者割当増資を経てなお、私は発済株式の18%を保する創業株主です」
私は机のに、法務局の証印が押された株主名簿の写しを叩きつけた。
「直氏の持分比率は、わずか7%に過ぎません。にもかかわらず、この映像は私という創業者のを完全に消し、あろうことか『で支えた無職の妻』として矮化しています」
会議が、凍りついた。役員たちが慌てて机のの類にを伸ばし、数字を目で追う。
「18%……?」「奥田社に次ぐ株主じゃないか……」「奥さん、ただの専業主婦じゃなかったのか……?」
ざわめきが、波のように広がっていく。夫の顔は、気を通り越して、に染まっていた。拳を握りしめ、机の縁にすがりつくようにして震えている。
「彩、それは昔の話だろ……! 今の会社をきくしたのは、俺の営業力だ! おはもう何も現にていないじゃないか!」
「広報担当役員として、対なリスク管理をどう考えているのですか」